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2014.09.12

アルファ ロメオに乗る。 それは美学と哲学を羽織ること。(第4回)

■ 来たるべき夜長、静かにアルファ ロメオを楽しむ提案。

湿り気のない肌触りのいい空気が感じられる、爽やかで過ごしやすい季節になってきました。夏が来年まで姿を隠してしまうのが少し寂しい反面、風景が少しずつ色づいて移り変わってゆく美しい日々の到来がほんのりと嬉しくもあり。クルマ好きとしては、張り詰めていた空気が次第にやわらいでくる春先と並んで、窓を開け放って走るのが心地いい季節ですね。

特に気持ちがいいのは、やはり日が落ち始めてからの時間だと感じます。刻々と表情を変えていく日暮れ時の空、徐々にひんやりとしていく大気。とても趣がありますよね。清少納言が「秋は夕暮れ」と言葉を残しているように、平安の昔からこの季節のその時間帯は気持ちいい、と多くの人が感じて止まないものだったのでしょう。

そしてこれから、冬に向かって次第に日暮れの時間が早まり、夜が長くなっていくわけです。そのゆったりした夜の時間を季節が与えてくれる静寂感とともに楽しもうというところから、“芸術の秋”“読書の秋”なんていう風習が生まれたのだとか。確かに文化的な活動を物静かに楽しむのに適した時期ではありますよね。

そんなわけで、来たるべき“カルチャーの秋”。ナイトドライブももちろん素敵な時間の過ごし方ですけれど、ふと自宅でロンバルディア産のワインなど舌の上で転がしながらアルファ ロメオを楽しむのもいいのでは? と思ったのでした。

誰もが抵抗なくスルリと入っていけるのは、やはり映画でしょう。クルマ好きには無意識のうちにストーリーの中を走っている車種をチェックしちゃう習性がありますけど、アルファ ロメオ、誰もが想像するより遙かに多くの映画に出演(?)しているのですよね。それも名作と呼ぶべき作品に……。

代表例は、やはり『卒業』(1967年/原題「The Graduate」)でしょう。今さら説明などする必要もないほど有名な青春映画であり恋愛映画ですが、ダスティン・ホフマン演じる主人公の愛車としてほとんど全編にわたって登場するスパイダー“デュエット”のカッコイイこと! 美しいこと! 僕が初めてこの映画を観た後に印象に残ったのは、ストーリーよりもむしろデュエットの姿の方だったくらいです。今もサイモン&ガーファンクルの名曲が流れてくると、最初に頭に浮かぶのは、作中のデュエットの走行シーンや、あるいは恋人同士が人目を忍んで幌を被せるシーンだったりするくらいです。アルファ ロメオが恋に似つかわしいクルマであり官能的なクルマでもあるという印象は、もしかしたらこの映画が世界に広めたものなのかも知れません。

115系のスパイダーは、他に『テキーラ・サンライズ』(1988年/原題「Tequila Sunrise」)で麗しのミシェル・ファイファーが走らせた美しいラストシーンや、『ダブル・インパクト』(1991年/原題『Double Impact』)でのドリフトさえ見せるデュエットの激走など、印象的なシーンに使われたことが多かったように思います。『それでも恋するバルセロナ』(2008年/原題「Vicky Cristina Barcelona」)では、色気のあるオトナの男を象徴するような使われ方でデュエットが登場していました。

アルファ ロメオのスパイダーといえば、『ジャッカルの日』(1973年/原題「The Day Of The Jackal」)を忘れることはできません。フレデリック・フォーサイス原作によるハードボイルドタッチのサスペンスですが、シャルル・ド・ゴール大統領の暗殺を請け負った主人公のジャッカルがパリを目指しフランスへの国境を越えるために山道を走らせたのは、ジュリエッタ・スパイダーでした。このクルマは自分の足取りを消すために途中でナンバープレートが変えられたり白からブルーに塗り替えられたりした後、可哀想な目に遭ってしまうのですが、それでもワインディングロードを走るジュリエッタ・スパイダーは見事なまでに美しく記憶に残ります。同業の友人など、この映画を観たがゆえにジュリエッタ・シリーズの大ファンになってしまい、今も初代ジュリエッタを大切に所有しているほどです。後から考えたら「暗殺者なんだから、もっと印象に残らない地味なクルマで動けばいいのに……」と思ったりもするのですが、反面、こんなところに主人公の美意識が表れてるのだろうな、なんて思えてきたりもします。

ちなみにジュリエッタ・スパイダーは、他にも当時イタリアの青春映画として評価の高かった『太陽の誘惑』(1960年/原題「I Delfini」)、アラン・ドロン主演の『太陽はひとりぼっち』(1962年/原題「L’eclisse」)、トスカーナの風景が美しい家族映画(?)『魚のスープ』(1992年/原題「Zuppa de Pesce」)、そして加山雄三主演のシリーズ第7作『アルプスの若大将』(1966年)などにも登場しています。同じ750系/101系ながら名前が“ジュリア”に変わった後のスパイダーも、ゴダールの『気狂いピエロ』(1965年/原題「Pierrot Le Fou)でヒロインの乗るクルマとして極めて印象的な出演の仕方をしていますね。そういえば『ナイン』(2009年/原題「NINE」)では、まるで恋と官能の象徴ででもあるかのように、女性達への愛を選びきれない多情な男の愛車としてストーリーの中を疾走していました。

他に『いつも2人で』(1967年/原題「Two For The Road」)でヒッチハイクするオードリー・ヘプバーンを拾うジュリエッタ・ボディのジュリア・スプリント、『黒いジャガー/アフリカ作戦』(1973年/原題「Shaft In Africa
)のジュリア2000GTV、『007 オクトパシー』(1983年/原題「Octopussy」)のアルフェッタGTV6、悪者を追うパトカーとしてジュリアやアルフェッタのセダン系が登場する『ミニミニ大作戦』(1969年/原題「The Italian Job」)や『フェラーリの鷹』(1976年/原題「Polizotto Sprint」)、同じく159が登場する『007 慰めの報酬』(2008年/原題「Quantum Of Solace」)などなど……いや、もうホントにキリがありません……。

■ 選ばれるのは、ドラマチックな存在感を放ってるからゆえ。

そう、ホントにキリはないのですが、まだ御覧になっていないアルファ ロメオ・ファンの方にぜひとも観ていただきたい作品がふたつあります。

ひとつは『さらば恋の日』(1969年/Un Bellissimo Novembre))。これは美しい叔母に恋心を抱いてしまった少年の物語なのですが、正直なところ、ストーリーなんてどうでもいいです。なぜならば、その叔母の恋人の愛車がティーポ33/2ストラダーレで、走行シーンも含めて思いのほか満足できるくらい33ストラダーレの姿を堪能できるからです。走行シーンのエンジンサウンドもおそらく実車のものと思われる快音です。もうこれだけで貴重な映像だということがお解りでしょう? 映画本編とは関係ないけど、美しい叔母さん役をつとめたジーナ・ロロブリジータはクルマ好きで、自らディスコヴォランテを所有していたほどなのだとか……。

そしてもうひとつは『ボビー・ディアフィールド』(1977年/原題「Bobby Deerfield」)。アル・パチーノ主演のロマンス映画なのですが、まぁこれもストーリーは横に置いていいでしょう。何より主人公がF1ドライバーという設定で、しかも彼が所属するチームが、何とブラバム・アルファ ロメオある、という点が最も重要なのですから。主人公の愛車としてアルフェッタGTがほぼ全編にわたって出てきますし、何とアルファ ロメオ・エンジンを搭載したF1マシン、ブラバムBT45の走行シーンやオンボード映像も楽しめるという、アルファ ロメオ好きには堪らない作品なのです。おそらくアルファ ロメオ濃度の高さでいえば、この作品が世界一かも知れません。

……と、DVDを新品で手に入れられるモノからビデオテープを絶版品マーケットで探すしかないモノまであれこれ名前をあげましたが、まだまだ御紹介したい作品はたくさんあって、キリがないどころじゃありません。それもこれも、アルファ ロメオが世に送り出したクルマ達が特別な存在感を放っているから、ということに尽きると思うのです。

あなたの愛車も、スクリーンの中に登場するアルファ ロメオも、同じ美学の中から生み出されてきています。あなたのアルファ ロメオがどれだけドラマチックなクルマなのかということを再認識するための、ひとつのいいチャンスかも知れませんね。

ところで、本文中に出てくる車名のあれこれを耳にしたことはあるけど、あまり詳しく知っているわけじゃない、という方もおられることでしょう。そんな方のために、秋という季節はまた別の楽しみ方を用意してくれています。が、さすがに長くなりすぎましたので、また次回にでも──。


嶋田 智之

1964年生まれ。ヤミ鍋系自動車雑誌『Tipo』の編集長を長く務め、スーパーカー系雑誌『ROSSO』の総編集長を1年間担当した後、独立。クルマとヒトを柱に、2011年からフリーランスのライター、エディターとして活動を開始。自動車専門誌、一般誌、Webなどに寄稿するとともに、イベントなどではトークショーのゲストとしてクルマの楽しさをときにマニアックに、ときにわかりやすく語る。走らせたことのある車種の多さでは業界でも屈指の存在であり、また欧州を中心とした海外取材の経験も豊富。現在の愛車はアルファ ロメオ166。

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