2015.01.24

レーシングカーの遺伝子

ージュリエッタ クアドリフォリオ ヴェルデ 試乗インプレッション②ー
文・川端由美

このクルマとの最初の出合いは、去年のジュネーブ・サロンだった。世界中で開催されているモーターショーのなかでも自動車業界のVIPが集まることで知られていて、発表されるモデルも他のショーとは比べ物にならないほど華やかだ。私自身、もっとも好きなモーターショーで、雪を戴くモンブランやレマン湖の噴水といった観光はそっちのけで、素晴らしいクルマたちを眺めて回るのがいつものスタイル。

フランス語、イタリア語、そして英語が上品に交じり合う会話が心地よく響く会場を歩きまわっていると、アルファ ロメオ「4Cスパイダー」のコンセプト・モデルと共に「ジュリエッタ」と「ミト」のクアドリフォリオ ヴェルデが並んでいるのが目にとまった。5つのリングのホイールやダークグレーのフロントグリルが、「コイツはちょっと違うゾ」と語りかけてくる。

そして新年早々に日本にも上陸すると聞いて、いてもたってもいられなくなった。ジュネーブで見たレーシーなスタイリングに加えて、最上級モデル「4C」のオールアルミ製エンジンをベースに最高出力を保ち、トルクをわずかにデチューンした最強の心臓部を積むと聞けば、アルファ ロメオファンに限らず、クルマ好きなら誰でも「乗ってみたい!」と思うのは当然だろう。

東京で再開したジュリエッタ クアドリフォリオ ヴェルデは、初対面のときと同じ硬派な面差しだった。けれども、緑の四葉のクローバーはどこか愛嬌があって、大人の男たちがレースで勝敗を競うにあたって、すべてをやり尽くした最後の最後に幸運を祈ってこのマークをボディにつけたという逸話を思い出すと、なんだか、ちょっとクスっと微笑んでしまう。

ドアを開けて、スポーティな運転席に滑りこむ。サポート感が高く、コックピットに包まれているかのような感覚になる。ジュリエッタ・シリーズ最強の仕様と聞くと、妙に身構えてしまうけれど、嬉しいことに4C譲りの「Alfa TCT」なるデュアルクラッチトランスミッションを採用しているから、2ペダルで気軽に乗れる。マニュアルトランスミッションこそが男の選択!なんていう人もいるかもしれないけれど、いまどき、F1だって、スーパースポーツカーだってパドルシフトで2ペダル式だ。そもそもDCTの機構は瞬時に変速できる仕組みなのだが、素人が必死でマニュアルトランスミッションを操っても、変速速度で負けるのはわかっている。実際に走らせてみると、ダイレクトな操作感はマニュアルトランスミッションと変わらない。むしろ、F1ドライバー並みの素早く確実なシフトチェンジを、クルマが自分でしてくれることの方が嬉しい。スタート&ストップが多い街中で特に、2ペダルのトランスミッションでシリーズ最強のモデルを楽しめることの効用を感じる。

もうひとつ、町中を走っていて気づいたのは、スポーティな走りであるにもかかわらず、存外、乗り心地がいいってことだ。実はプライベートで所有するジュリア クーペにも同じことがいえて、歴代のアルファ ロメオに共通する美点といっていい。
きっと、ミラノの石畳の上を走れるようにとの配慮に違いない。

首都高の入口を見つけて、ぐっと加速してみる。2100〜4000rpmという幅広い領域で340Nmの最大トルクを発揮するだけではなく、その80%に達するトルクを1800rpmで生み出せるエンジン特性を持たせることで、加速が欲しいと思ってアクセルを踏んだ瞬間に欲しいだけのトルクがデリバリーされてくるような感覚だ。その昔、トルク型エンジンといえば、もっさりして味わいに欠けるものが多かったけれど、ジュリエッタ クアドリフォリオ ヴェルデは繊細なアクセルワークにもついてくる。シフトノブの近くにある「D」「N」「A」の中からNaturalを選べば300Nm/1850rpmのトルクが発揮されて、この状態でも十分に走りの楽しみを享受できる。しかし、ワインディングロードを走るなら、最大340Nm/2000rpmまでトルクが増すDynamicを選んで、ジュリエッタ最強と称されるパフォーマンスを出しきって走ってみることをオススメしたい。

大きく曲がったコーナーに差しかかると、じわっと足回りを縮めながら、路面を確実に捉えているのがわかる。FWDではあるが、ステアリング・フィールも自然に仕上げられている。かなり機敏な印象だけれど、それはアルファ ロメオがレースを長くやってきたからこその設定に思える。ブレンボ製ブレーキで速度を十分に落として前輪に荷重が移動したあと、ステアリング・ホイールの手応えを感じながら、じわっと舵を切っていく。オーバースピードでコーナーに侵入して、慌ててステアリングを戻すなんて子供っぽい運転をしてはいけない。

コーナーの出口が見えたところで、思いっきり加速する。あくまでしっかりと路面を捉えつつ、ターボによって過給されることで得られる大パワーを確実にタイヤから路面へと伝達していく。アルファ ロメオの繊細なステアリング・フィールと足回りの懐の深さは、スポーティな走りをするために生まれたクルマとしては絶妙だと思う。

アルファ ロメオとは、戦前のレースシーンで生まれた孤高のスポーツカーブランドであり、クアドリフォリオ ヴェルデはその象徴でもある。同時に、戦後には日常の暮らしの中で楽しめるスポーティなクルマを作り始めた自動車メーカーでもある。「4C」が前者の遺伝子を色濃く受け継いでいるとするなら、このジュリエッタ クアドリフォリオ ヴェルデはそうした日常で楽しむスポーツカーというアルファ ロメオの歴史を形にしたような一台だ。


川端由美(かわばたゆみ)

大学院で工学を修めた後、エンジニアとしてメーカーに就職するも、子供のころからのクルマ好きが高じて自動車雑誌の編集部員に。現在は、フリーランスの自動車ジャーナリストとして、自動車の環境問題と新技術を中心に、技術者、女性としての目線を活かしたリポートを展開する。自動車雑誌だけでなく、経済誌、ライフスタイル誌など幅広い媒体に寄稿する。
大学時代にフィアットアウトビアンキA112に乗り、二玄社『NAVI』編集部に入ってまもなくGTV(V6モデル)を購入。現在所有する1974年型アルファ ロメオ 2000GTVとは、かれこれ12年ものつきあいになる。

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