• Mondo alfa
  • 20世紀を代表する美術家、ヨーゼフ・ボイス 〜カスヤの森現代美術館〜
2014.10.03

20世紀を代表する美術家、ヨーゼフ・ボイス 〜カスヤの森現代美術館〜

Joseph Beuys(ヨーゼフ・ボイス)をご存じだろうか? 1921年にドイツで生まれ、20世紀後半以降のさまざまな芸術に多大な影響を与えた戦後最大の現代美術家である。パフォーマー、教育者、社会活動家としての顔も持つ彼が残した活動と思想、アート作品は、ドイツ国内だけでなく、世界中で今なお高く評価されているが、日本での一般的な知名度は意外なほどに低い。少なくとも、実際の功績から考えると、国内で作品を鑑賞する機会が非常に少ないアーティストのひとりだといえるだろう。

開館20周年を迎えた「カスヤの森現代美術館」。そして今年は、今は亡きボイスがかつて日本を訪れた年から30年目の節目にも当たる。開館20周年、来日30周年を記念した特別展が、今回のヨーゼフ・ボイス展なのだ。

世の中に、知らなくても生きていけることは多々あるが、それまで知らなかったことを新たに知ることで、その後の人生に少しでも好影響を与えられるとしたら、とても有意義ではないだろうか。横須賀にある「カスヤの森美術館」で開催中のヨーゼフ・ボイス展でボイスの残した作品や足跡をかいま見ることも、そんなすばらしい体験となるだろう。

1971年にナポリのModern Art Agency (Lucio Amelio画廊の前身)で開催された展覧会の告知用に制作された、セルフポートレートを等身大に引き伸ばしたポスターを活用したマルチプル。「トリノの聖骸布」になぞらえてこのポスターを折りたたみ、それを数年間保存しておいて、折り目が思い通りに変色したところでサインをし、作品として仕上げている。

ボイスは芸術家であり同時に優れた思想家・社会活動家でもあったがゆえに、作品の解釈を巡っては「難解だ」とする見方もある。実際、膨大な作品の中には、彼の思想や活動を知らなければ理解できないものもあるだろう。しかし、彼が「現代美術家」として名を馳せたのは、やはり、その造詣が本質的に優れているからだ。思想や概念を抜きにしてもなお、「手にしたい」「身近に置きたい」と思わせる魅力があるからだ。作品を手がけるとき、彼に明確な意図や狙いがあったのは確かだが、その作品自体に魅力がなければ、ここまで評価されることはなかったはずだ。

左は今回の特別展、右は常設展。特別展はもちろんだが、常設されたボイスのエリアも見応えがある。

生前のボイスと個人的にも親交のあったカスヤの森美術館館長・若江栄戽(はるこ)さんにとって、1975年にボイス作品と初めて出会ったときの衝撃は人生の転機ともいえるもので、「ボイスの常設展示をつくりたい」という夢を抱えてこの美術館を開いたという。現代美術への造詣が深く高い審美眼を持つ彼女をして、人生を変えたと言わしめるほどの魅力が、ボイスとその作品にはあるのだ。

1978年に制作されたダブルトーンのオフセット、「砂のドローイング」。ケニアの海岸でボイスが砂に素描を施し、写真家チャールズ・ウィルプが撮影した。スタンプが押された紙の箱に収められた、サンゴ砂の入った試験管も作品の一部。

若江さんはボイスを評してこう語る。「ボイスの作品を買うことは、彼の人間としての活動の一部を買う、という意味もあるかもしれません。アート、思想、政治、歴史、教育。本当にさまざまなことが頭の中に入っていて、ありとあらゆることを知っている。その上で、解釈の仕方は多様だし、方向性が決してぶれない人でしたよ。

今回の展示の目玉のひとつともいえるのが、こちら。


1982年のドクメンタ(ドイツの古都カッセルで1955年以来、5年おきに開催されている現代美術のオリンピックともいえる大型の国際展)7でカッセル市に7000本の樫の木を植えるという、ボイスのアクションで使われたシャベルのマルチプル作品だ。それぞれの樫の木の根元には玄武岩が一緒に埋められ、成長する樫は生を、形を変えない岩は死を象徴している。ボイスはこのアクションを通してふたつの要素が同時に存在することで世界が構築されていることを暗示した。

ボイスは多くの自費を投じながらこの大規模なアクションを続け、彼の活動に賛同する市民や企業の寄付も加わって、完成へと進んでいく。そして、7000本目が植えられたのはボイスの死後、彼の息子の手によって、ドクメンタ8の会期中での出来事だった。

カスヤの森現代美術館で購入できるボイスのマルチプル作品の一部。左は1977〜80年に制作された「経済の価値」- DDR(旧東ドイツ)の紙袋(シートで80,000円+税)。種類の異なる紙袋に手書きの書き込みやスタンプの押捺が施された作品。ボイスが多用した素材のひとつフェルトを使った「フェルトアングル」(1982年)は700,000円+税。

マルチプル(既製品を活かしたり新たに手を加えたりした、普及用の美術品)を多数つくったことでも知られるボイス。今でも、彼の作品は実際に「買う」ことができる。「ある選ばれた人だけでなく誰でもアートを買えるように、という思いはもちろんあったと思います」と若江さん。

「ボイスの作品は、ひとつの伝達手段。きちんと保存して残す名画のようなものではなく、そのときの感性で、そこにあるものの中から彼自身の目で選んで作品にしていったのです。身近な素材をさっと使っているように見えますが、その選び方がすばらしいし、彼の目でピックアップしたときに形づくられる思想があり、物語があるんです」

かなり手頃な価格で買える作品も。木材にシルクスクリーンを施したポストカードは2,500円+税。フェルトのポストカードも同じ価格で入手できる。多数の写真を収めたポストカード集は9,600円。いずれもれっきとしたボイス作品だ。

カスヤの森現代美術館でのヨーゼフ・ボイス展は、10月26日まで。彼が残した作品や資料、映像から導かれる思想に触れ、ボイスが示そうとした未来の芸術の在り方について改めて考えてみたい。そして何より、現代美術として純粋に「かっこいい」彼の作品を、ぜひ目にしてほしい。鑑賞後は、美術館の敷地内にある約2000坪の竹林を散策したり、竹林をのぞむラウンジで軽いランチや手作りケーキを味わったりするのもおすすめ。

カスヤの森現代美術館 http://www.museum-haus-kasuya.com/
神奈川県横須賀市平作7-12-13
JR横須賀線衣笠駅より徒歩12分。10台分の駐車スペースあり。
TEL 046-852-3030
10:00〜18:00(入館は17:30まで)
休館日:月・火曜日
入館料:一般600円、学生500円

■ヨーゼフ・ボイス展は10月26日まで。10月12日(14:00〜)には、栃木県立美術館のシニア・キュレーター山本和弘氏のギャラリートークが開催されます。

撮影 SHIge KIDOUE
取材・文 山根かおり

matricaria

この記事を読んだ皆様におすすめの記事

人気の記事

プロダクト情報

  • 4C
  • 4C
  • 4C Spider
  • GIULIETTA
  • MITO