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2015.02.20

80年代の「アルファ ロメオ スパイダー」を走らせる

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世間に媚びない芸術品

いま巷に溢れるクルマの多くはユーザーの求めるものを良くリサーチし、使い勝手を磨き上げた製品だ。新しいニーズに応えるアイデアや技術を取り入れながら進化を繰り返すため、最新のものが最良となりやすい。一方で、世間に媚びず、作り手の想いを自由に表現したクルマもある。最近は減ったが、昔はそういうクルマが多かった。

そうした作り手の想いが込められたクルマは、その時代の空気を吸い込んだ芸術品のようであり、鑑賞する楽しみを与えてくれる。作り手はこの作品で何を表現しようとしたのか、と想像を駆り立て、好奇心をあおり、走らせたい気にさせる。アルファ ロメオがその典型だろう。

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「アルファ ロメオ スパイダー」。デザインはトリノを本拠地とするカロッツェリア、ピニンファリーナが手掛けた。

ところで最近、絶版車となった名車を貸し出すレンタカーサービスがあるのをご存じだろうか? ビンテージカーを所有するにはそれ相応の覚悟が必要だが、時間単位で借りられるレンタカーなら、かつて憧れた名車のハンドルを握る夢を手軽に叶えられる。

有楽町に古いアルファ ロメオの貸し出しを行っている営業所があるという噂を耳にして、早速申し込んでみた。借り出したのはカリフォルニアレッドをまとった「アルファ ロメオ スパイダー 」。1986年に初度登録された個体で、エンジンは1962ccのキャブレター式。5速MTを搭載したオープンカーだ。受付で手続きを済ませ、取り扱い上の注意点を聞いてから、意気揚々とドライバーズシートに乗り込む。

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パワステは付いておらず、街乗りでハンドルを切り込む際はかなりの力が必要。メーターフードにはエンジンのヘッドカバーなどに用いられる結晶塗装が施され、硬質な雰囲気。

うまく扱うにはコツが必要

初めてハンドルを握る30年以上前のクルマ。現代の装備に慣れ切った私にスムーズに動かせるか不安はあったが、その予感は的中し、さっそく洗礼を受けてしまった。

リモコンキーで解錠するいまのクルマは、誰が乗ってもパッと走り出せる。でもこの時代のクルマはそうはいかない。ドアノブは独特な操作方法で開くし、トランクに荷物を積むにも、どこにレバーがあるのか戸惑う。まるで初対面の相手の様子を探っていくように、ひとつひとつ段階を踏んでいく必要がある。クルマが乗り手を導くのが当たり前の時代に育った私にとっては、こうしてクルマに翻弄される感覚が新鮮でたまらない。

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排気量1962ccの直列4気筒エンジンを搭載し、最高出力128psを発生した。荷室は思いのほか広く、美しいデザインと実用性を兼ね備える。

いざ、走り出そうとすると、冷え切っていたエンジンは思いがけないところでストールしてしまう。キャブレター式なので暖気が不十分だったか。エンジンを再始動しようとアクセルペダルに足を乗せイグニッションを回すも、どのくらいあおってやればいいのかわからず、うまくいかない。そこでもう1度、右足の裏でエンジンの呼吸を探りながら火を入れるイメージで試してみる。なんとか始動し、ホッとした。

ドライバーにコツを求めるのはエンジンだけではない。トランスミッションも、シンクロメッシュ機構が付いていないため、変速の際にクラッチ操作とシフトのタイミングにコツが必要になる。ひとつひとつの動作をクルマの様子をうかがいながら行う。そんな感覚だ。

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インテリアはシンプルで機能性なデザイン。木目が美しいやや細めのハンドルで操る。

心熱くする走り

抜けるような冬晴れにしてくれたお天道様に感謝しつつ、街中を流す。朝の都心は人の往来が多く、ブオォォンという音を轟かせながら走る真っ赤なボディのアルファ ロメオは圧倒的な存在感を放つ。道行く人の視線を痛いほど感じた。

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時間が経つとクルマも暖まり、各部の操作感がバターのようにしっくりと馴染んできた。その変化を心地よく感じ、気付けばクルマをうまく操ろうと運転に没頭していた。高速道路でアクセルペダルを深めに踏み込み、リズミカルにシフトアップを繰り返す。回転の高まりとともに盛り上がりをみせるエンジン音が、ゆったり流しているときでもクルマを走らせている充足感を与えてくれる。

この時代のクルマは電子制御技術がほとんど採用されておらず、安全装備も少ない。そのぶん、人が関わる余地が多く残っている。運転を試されているように感じることもある。うまく操作できた時とそうでない時が合わさってひとつの物語を作り上げていく、そんなイメージだ。

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新しく便利なだけが乗り手にとっての最良ではない。クルマと触れ合うなかで関係性を深めていくその過程も大切なのではないか。

今回のドライブを通じてこんな風に感じた。人の感性を揺さぶるデザインと心を熱くする走り。それは現代のアルファ ロメオにも脈々と受け継がれている。なにかと効率が求められる時代だが、アルファ ロメオにはこれからも、カサカサした製品ではなく、心に潤いを与えてくれクルマづくりを期待したい。ずっと運転にときめきを感じていたいから。

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リアエンドを垂直に切り落とす「コーダ・トロンカ」と呼ばれるデザインが個性的。この時代のモデルはテールランプからトランクリッドまでをウレタン製のスポイラーで囲むユニークなデザインを採用していた。

撮影 荒川正幸
 藤島知子

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