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2017.11.09

“二物衝突”の発想から生まれた、味わいの変化が楽しめる魔法のデキャンタ

ワインやシャンパーニュなどお酒好きのアルフィスタにおすすめ。自動車部品工場から生まれた、今注目のファクトリーブランド『BIRDY.』から魔法のようなデキャンタをご紹介します。

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間もなく創業70年を迎える老舗自動車部品会社のファクトリーブランド『BIRDY.(バーディー)』がつくったBirdyデキャンタは、注ぎ方次第で無限の変化が楽しめる不思議なメタルプロダクト。その開発過程で活かされたのは“俳句”の発想法だった……。

まずはシャンパーニュをデキャンタで飲むという発想に驚く

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青山通り、南青山五丁目交差点あたりを奥に入ったクラシカ表参道。その1階にあるデリカテッセンのワタァタルト(What a Tart!)で、これが2回目という<BIRDY.Table Experience Vol.2〜BIRDYデキャンタで愉しむWinter Holiday〜>が行われた。挨拶もそこそこに促されたのはワインの試飲。いや、正確に言えばBIRDYデキャンタのテストだ。最初はシャンパーニュで。そこで自然と首が傾いた。シャンパーニュと言えばボトルから直接グラスに注ぐもの。そんな常識を先方が知らないはずはなく、ここは黙って流れに乗ることにする。
まずは通常通りボトルからグラスで。用意されたポル・ロジェ社(Pol Roger)のブリュット・レゼルヴ(Brut Reserve)は、果実風味が豊かなまろやかな口当たり。このままでも十分においしいが、次のステップが用意されているようだ。

まるで手品のような味わいの変化

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氷水で十分に冷やされた鏡面仕上げのステンレス製デキャンタ。そこにシャンパーニュを注ぎ入れ、デキャンタ自体を傾けてゆっくり添わせるように1~2度回すのを“ゆっくり添わせ”と呼ぶそうだ。その一杯に目を見張った。シャンパーニュならではの発泡感がより際立ち、驚くほどすっきりとした口当たりに変わった。さらに、シャンパーニュを注いだBIRDYデキャンタを2、3度揺らす“ゆっくり回し”を再び口に含んでみる。

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すると今度は、はじめの一杯とは異なるやわらかさが口の中に広がった。デキャンタの回し方だけでこうも味わいの変化が楽しめるなんて、まるで手品だ。
「二物衝突が好きなんです。文学部出身なので」
そう言って笑ったのが、このBIRDYデキャンタを扱う『BIRDY.』の横山哲也さんだ。二物衝突とは、取り合わせの妙を指す俳句の発想法だ。果たして横山さんは何をどう衝突させて『BIRDY.』を誕生させたのだろう。

なぜ自動車部品工場からデキャンタが生まれたのか?

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最大の謎は、この『BIRDY.』がなぜ自動車部品工場から生まれたかに尽きる。『BIRDY.』の本隊は、愛知県豊田市で1951年に創業した横山興業だ。自動車用シート向け製品の金属プレス加工・溶接加工が得意な、横山さん曰く“町工場”である。
そこから推測できるのは、金属加工技術を持つ会社ならステンレス製品をつくるのはさして難しいことではないということ。それから、BIRDYデキャンタの内側に施された研磨技術――表面にミクロ単位の凹凸加工を施すことで飲み物に酸素を供給し風味の変化を起こす技(女性職人による手仕事らしい)も、日本の技術力をもってすれば不可能な話ではないと思う。

タイで気付かされたMade in Japanの驕り

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「祖父がつくり、父が継いだこの工場で培われた技術を何かに転用できないか、そればかり考えていました」
『BIRDY.』の生みの親である横山さんは、大学を卒業後、東京で約7年間ウェブデザインの仕事をしていた。しかし2011年、横山興業がタイ工場の建設に着手。海外への興味からUターンを決め、日本とタイを行き来する日々を過ごすことになる。そこで横山さんは大きな疑問を抱えた。
「Made in Japanへのこだわりとは何だろう? 日本製品は品質が良いから高くても売れるという時代は実はすでに終わっていて、けれどその現実を日本の企業がなかなか認められずにいるんじゃないか。そこには驕りがあるんじゃないか。そんなことを気付かせてくれたのはタイの若者たちでした。彼らは製造業に未来を感じていて、僕らが伝える技術の飲み込みも早い。そんな現場で強く感じたのは、ものづくりに必要な器用さや精神性において、タイと日本で大差はないということでした。そうであるなら、なおさら日本でものづくりをしなければならない。それは相当な危機感でした」

BARでヒントを得た、熟練技術の転用アイデア

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そうして改めて愛知の自社工場を見渡してみると、熟練の職人が自ら磨いた研磨技術を喜々として語っているのが目に入った。これは何かに転用できる。漠然とだが、横山さんはそう思った。工場のミクロ単位の凹凸加工は、元々金属同士の擦り合わせで圧力を逃がすための技術だったそうだ。金属を分子レベルで滑らかに動かすこの技術は、同じく分子構造を持つ液体でも何かの反応を起こすのではないかと探りを入れたのも横山さんだった。
ここで質問。なぜ横山さんは液体というヒントを持ち出すことができたのか?
「お酒が好きなんですよ。特にBARという場所が」
こうして異なる二つの要素がいよいよ衝突する場面がやってくるのである。

「世に出さなきゃいけない使命感が芽生えた」

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「圧倒的な何かに出会ったときは言葉にできない、したくないってときがありますよね。あれはデヴィッド・ボウイの『スペース・オディティ』を聞いたとき以来の、言葉を失った瞬間でした」
横山さんがクラシックロックファンなのはさておき、言葉を失った瞬間とは、自社工場で試作したシェイカーでギムレットを飲んだときのことだ。
「自分でも上手く説明できなかったんですが、驚くほどの味の変化を体験して、これが特別な価値を秘めていることだけは感じ取りました。だからこそビジネスはさておき世に出さなきゃいけない使命感のようなものが先に芽生えてしまったんです」
そこから怒涛の如く研究開発が始まり、気付けば愛知に戻ってから2年目の2013年には『BIRDY.』を立ち上げていた。最初のプロダクトはシェイカー。次いでスプーンやメジャーカップ等のBAR周り小物をリリースすることになる。

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世界市場を視野に入れ、パッケージも英語表記とした。とは言え狭いマーケットの後発組ゆえ、すぐさま認知されたわけではない。ネット販売のみで行けるという目論見はすぐさま打ち砕かれたし、業界団体に入会し全国各地で自社製品を手に取ってもらう機会を設けるなど、多くの手間も時間も要した。
発売半年後に最初の反応を見せたのは台湾。そこからアジアで広まり、ついには英国サヴォイホテルの歴史的名著「サヴォイ・カクテルブック」が誕生したアメリカン・バーで採用されるまでになった。

「僕らの技術で生まれたものは作品と呼ばれたい」

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その日、ワタァタルトで実際に『BIRDY.』のシェイカーを使ってカクテルをつくっていたバーテンダーに話を聞いてみた。
「僕らがもっとも気にするのは振りやすさです。BIRDY.のシェイカーは流線形なので非常に振りやすく、中の氷も回りやすい。初めての方でも上手にカクテルがつくれますよ」
「誰でも手軽に味の違いを楽しめるのもBIRDY.の特徴です」。これは横山さんの言葉。実は『BIRDY.』製品の特性が、ワインの飲み頃を早める効果にも役立つと教えてくれたのは、あるバーテンダーだったそうだ。そんなふうにして方々で幸福なケミストリーが起こり、2017年3月に家庭用酒器としても使えるBIRDYデキャンタが発売された。

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「作品と呼ばれたらうれしいです。僕がつくったものではなく、僕らの会社の技術によって生まれたものとして」
時間をかけて磨き上げた技術と、それを生かす新たな用途。横山さんは自身の経歴や経験の中で、二物衝突という俳句の手法を取ったが、老舗の自動車部品工場と優雅な酒の世界を衝突させたことを考えれば、横山さん自身が優れた俳人と言うべきだろう。
それにしても不思議なデキャンタだ。ワインによって“添わせ”や“回し”を変えれば無限に味わいの変化が楽しめそうだ。アルフィスタの中には、独特の輝きを放つ金属加工品のフェティシストも少なくないはず。しかもワイン好きなら、このBIRDYデキャンタを試さないのはあまりにもったいないと一言付け加えておきたい。

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Information
BIRDY.OFFICIAL
http://birdy-j.com

BIRDY.SHOP
http://birdy.shop/

PHOTOGRAPHY: 大石 隼土
TEXT: 田村十七男