Creativity 2018.06.07

ライカ。そのマスターピースの真価をライカ使いの写真家にたずねる。

趣味性の高いカメラというイメージの強いライカだが、欧州ではライカを愛機とするプロのフォトグラファーたちが多くの作品を生み出してきた。カメラの世界のマスターピース、ライカの真価とは何なのか、ライカ写真家の柏木龍馬さんに話を伺った。

「ライカを使えないカメラマンは三流扱い」

どんな製品にも他の追随を許さない傑作、つまりマスターピースが存在している。カメラの世界では、今も昔もそれに値するのはライカだけだと言われる。

しかし多くの人にとってのライカは、高価ゆえ趣味の領域に属するカメラというイメージが拭えないだろう。それゆえ実用に耐えるとも思っていない人もいるのではないだろうか。

「ところが現在でもヨーロッパでは、ライカを使えないフォトグラファーは三流扱いされます」

そんな衝撃的な事実を語ったのは、ライカだけで作品を生み出す写真作家の柏木龍馬さんだ。柏木さんの言葉を信じれば、彼の地では写真撮影を生業とするプロフェッショナルの片腕として機能していることになる。ということは、我々はライカの真価を見誤っているのではないか?刺激的なライカの知性と感性を探るため、このマスターピースのリアルを柏木さんにたずねた。

DSC_1360 ライカ。そのマスターピースの真価をライカ使いの写真家にたずねる。写真作家の柏木龍馬さん。

「特別なクルマも写真に撮れば自分の物になる」

まずは柏木さんのプロフィールを紹介する。1976年静岡県生まれ。1999年にフォトジャーナリストになるが、そのデビューはNewsweek誌のカバーフォトだった。2000年にNATIONAL GEOGRAPHIC誌の仕事を始め、2008年に拠点をパリに移す。その1年後、現地のギャラリーと専属作家契約を交わし写真作家に転身した。直近情報では、2018年6月19日までライカGINZA SIXで『avalon』と題した写真展を開催。披露されている作品は、すべてライカとモノクロフィルムで撮影されたという。

代表画像 ライカ。そのマスターピースの真価をライカ使いの写真家にたずねる。©Ryoma Kashiwagi

そうしてワールドワイドな活動を果たすようになった写真作家・柏木龍馬の原点は、我々にも馴染み深いモーターレーシングだった。

「生まれた裾野市は富士スピードウェイが近く、レースを見て育ちました。いつかその世界に入りたいと思ったんです。レーサーかメカニックとして。中学生になった頃、レース雑誌があることを知って、フォトグラファーの道もあるなあと。何より僕はレーシングカーが欲しかったんですね。でも、どこにも売っていない特別なクルマを買うのは無理。それなら、写真に撮れば自分の物になるんじゃないか? そんなふうに考えたんです」

DSC_1372 ライカ。そのマスターピースの真価をライカ使いの写真家にたずねる。

それをきっかけに一眼レフカメラを手に入れた柏木さんは、大学生になる頃には新聞社や出版社で働くほど写真に熱中した。ライカとの出会いもそのときだった。あるいは、このエピソードがもっとも的確にライカの真実を語るかもしれない。

雨の山中で知った耐久性と機動力の高さ

「自衛隊とともに山中に入る仕事でした。手持ちの機材は国産一眼レフが3台と3本のズームレンズ。そのすべてが雨で壊れました。一度下山した後、新しい国産カメラを買うべきか迷い先輩に相談したんです。そうしたら『ライカという選択肢もある』と言われたんですね。趣味カメラで何が撮れるんだと疑いましたが、ひとまずその先輩が持っていたライカを握らせてもらいました」

1984年に発売されたライカM6は、ライカの歴史的メインストリームたるMモデルの中でもっとも人気を博した名機のひとつだ。

DSC_1428 ライカ。そのマスターピースの真価をライカ使いの写真家にたずねる。左からライカM10、ライカCL。

「握った瞬間、イケると感じたんです。掌に馴染むサイズ感。信頼感の高いシャッター音。そこでさっそくライカM6より以前のモデル、ライカM3(1954年発売)と35㎜のズマロンレンズを入手して、再び山に入りました。前回と同様の悪天候にも関わらず一切問題なし。しかも装備がコンパクトになって機動力が高まった。そこから僕の機材はすべてライカになりました」

DSC_1404 ライカ。そのマスターピースの真価をライカ使いの写真家にたずねる。

「ライカと出会って作風が変りました」

その仕事で証明されたのは、ライカは過酷な環境下でもプロの要望に応える耐久性を備えていたことだ。しかし、素人なりにも疑問が浮かぶ。ライカを代表するシステムのレンジファインダー(距離計連動式ファインダー。ちなみにライカのMは、ドイツ語で距離計を意味するメスズハーの頭文字)と一眼レフのファインダーでは、機能的かつ時代的な差異があるのではないか?さらに単焦点のレンズでは、近くから遠くまでカバーできるズームレンズに対して不利が際立つのではないのだろうか?

DSC_1519 ライカ。そのマスターピースの真価をライカ使いの写真家にたずねる。

「ライカに替えて気付いた、というより鮮明になったのは、一眼レフによる絵のつまらなさです。一眼レフのファインダーは、レンズ越しの景色がそのまま映るけれど、そのせいで写真がフレームに縛られてしまう。一方のライカは、装着レンズによって撮影範囲を示すフレームが現れるものの、その周囲の景色もファインダーの中で確かめることができる」

それ以外にもレンジファインダーは、焦点距離50mmの比較で一眼レフより5倍(有効基線長)もピント精度が高く、ミラーを用いないためボディ自体を薄くコンパクトにできる等、いくつものメリットがあるという。ただ……。

「大事なのは、そうした機能以前に、“写真で何を伝えたいか”です。僕は一眼レフ時代から、ファインダーをのぞく前に自分なりのフレームが出来上がっていた。その感覚がライカに合った。それは相性というものかもしれない。ただ、感覚値を超えた現実的なタフさと実用性もライカは備えていたわけです。レンズに関しても、単焦点なら被写体に近づけばいいだけ。そうして僕の作風は、ライカと出会って大きく変わりました」

DSC_1398 ライカ。そのマスターピースの真価をライカ使いの写真家にたずねる。

アルファ ロメオに通じる裸足感覚

たずねるべきライカの特徴は他にもたくさんあるが、レンジファインダーに絞って質問した。なぜなら、かつて日本のカメラメーカーがこぞってライカを追いかけるも、そのファインダーの完成度、とりわけ美しさを超えることができず一眼レフ開発に舵を切ったという逸話を耳にしたからだ。

「ライカのレンジファインダーの何が美しいのか? 一般的なファインダーの綺麗さとは、フレームの隅まできっちり映し出すことだと思います。対してライカは、その風景の中で自分が意識して見ている芯の描写が超絶に美しい」

DSC_1405 ライカ。そのマスターピースの真価をライカ使いの写真家にたずねる。

非常に感覚的な見解だが、先に柏木さんが語った「写真で何を伝えたいか」というセリフと重ねると、それとなく意味がわかってくる。柏木さんはさらに言葉を続ける。

「写真とは何かを考えたとき、僕の場合は綺麗に写すことが目的ではありません。自分が感じたことをそのまま人に見せること。その、人に見せたいものがイメージできたとき、ライカは確実に応えてくれます。マシンのスペックを越えたハンドリグの良さも含めて。クルマにたとえるなら、ちょっと古いモデルが持っていた裸足感覚でしょうか。僕が以前乗っていた1966年式の『Alfa Romeo Giulia(アルファ ロメオ ジュリア)』に通じますね」

DSC_1444 ライカ。そのマスターピースの真価をライカ使いの写真家にたずねる。

見た人すべてが腰を抜かすレベルの写真が撮れる!?

柏木さんの現在のメインカメラは、いわゆるデジタルカメラのライカTL2だ。「イタ車好きなら絶対にハマる」というアルミ削り出しのモノコックボディは、その加工技術とデザイン力の高さだけではなく、プロユースに耐え得るタフさにも美点がある。相変わらず手に馴染む形は、ライカが継承している人間工学に基づいて設計されている。柏木さんによれば、「写真を撮る最適な形状」なのだそうだ。

DSC_1451 ライカ。そのマスターピースの真価をライカ使いの写真家にたずねる。柏木さんの現在のメインカメラ、ライカTL2。

そんなライカの知性に柏木さんの感性が呼応したのか。またはライカが生まれ持つ感性に柏木さんの知性が触発されたのか。その見極めは難しい。というより、両者の知性と感性が融合することで、ライカにしか撮れない写真、柏木さんでしか表現できない世界が実現しているのだろう。

「デジタルであれアナログであれ、ライカのものづくりのロジックは変わりません。そこが素晴らしい。ヨーロッパではその伝統を重んじるから、ライカを使えないカメラマンは認めてもらえないのです。世界的に有名な写真家集団のマグナム・フォトも、多くがライカ使いですしね。実際に使わないとライカの本当の魅力はわからないし、それ相応の技術や経験も必要な機材です。ただ、初めてライカで撮った写真にブレがなくフォーカスも合っていたら、見た人すべてがその美しさに腰を抜かすはずです。ライカとは、そういう作品を提供してくれるカメラです」

DSC_1493 ライカ。そのマスターピースの真価をライカ使いの写真家にたずねる。

INFORMATION
柏木龍馬写真展『avalon』

会場 ライカ GINZA SIX(東京都中央区銀座6-10-1 GINZA SIX 5F)
期間 2018/3/20(火)〜2018年6月19日(火)
URL http://jp.leica-camera.com/ライカの世界-最新情報/イベント情報/ライカイベント情報/Local/Japan/2018/Tuesday-20-March-2018-7-08-00-am-Tuesday-19-June-2018-7-08-00-am-【ライカ-GINZA-SIX】柏木龍馬-写真展「avalon」

  
柏木龍馬 Instagram

URL @superfilm5

Text:田村 十七男
Photos:安井 宏充(Weekend.)

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