Diversity 2012.09.14

LGBT × アート アーティストの境界線を越える

オナン・スペルマーメイド×MARU-YaCcO×宮沢英樹(第21回 東京レズビアン&ゲイ国際映画祭 代表)

私たちの生活を豊かにするアート。
その生みの親であるアーティストと私たちの間にある境界線を越えたインタビュー。

美術館で見た力強い絵画、銀座のギャラリーで見かけた大きいとは言えないけれど存在感のある彫刻、クラブイベントで心を鷲掴みにされたパフォーマンス。感情が動いた瞬間、私たちはそこにアートが存在していると気づきます。

本インタビューではアートを生み出すアーティスト(美術作家)に着目。

2012年3月に華々しくデビューしたアートスペース「どっきん実験室」の主人である変身変化変体芸術家MARU-YaCcO(円奴 まるやっこ)氏。5月に「どっきん実験室」で個展を開催し、アートの第1線で活躍するオナン・スペルマーメイド氏。オープニングイベントでオナン氏がパフォーマンスを行う第21回東京国際レズビアン&ゲイ映画祭の代表 宮沢英樹氏。LGBT×アートの今を代表する3名に、活動の転機や理由などお話いただきました。

まずはじめに活動の転機や始めたきっかけを教えてください。

オナン・スペルマーメイド:私には自分の活動が大きく変化するような転機はそもそもないわね。身内に不幸があったとしてもそんなに動じない。大学に進学してから舞台を始めたんだけど、転機と言えばこれが当てはまるかしら。小学校から絵を描いていた私はそのまま絵の人になると思っていたからね。まさかパフォーマンスの人になるなんて思ってもいなかったわ。

円奴:15歳、家出をして東京に出てきたのが人生で一番大きな転機。絵を描いたり裏方だった私から、表舞台に立つキャラクターが生まれたのも転機の一つ。80年代後半かな、「幸せの形」っていうキャラクター歌舞伎ショーを成功させたのも転機の一つ。

オナン・スペルマーメイド:じゃ、私は円奴ちゃんの転機に立ち会ってたってわけね。舞台には出してもらえなかったけど。

円奴:その時、オナンちゃんと知り合ってなかったじゃない。知ってたら出してたわよ。あの時からずっとオナンをフューチャーしたいって思ってたんだから。

オナン・スペルマーメイド:その後、人魚の役をやらせていただいたのよね。

宮沢英樹氏:お二人と同様に、私も今の活動に関わったのが一番の転機です。2丁目で飲んでいた時に映画祭でボランティアを募集していると聞いて、なんとなく関わったのが始まりです。13年前かな。もともとLGBTで活動したいと思っていたからちょうど良かったんですよね。
ボランティアのメンバーのセクシュアリティは様々。みんな映画祭を続けたい一心で関わっているのでとても良い雰囲気です。代表っていう責任を強く感じすぎて私が体を壊した時も、周りのスタッフが頑張ってくれてね。その時から自分だけが頑張る必要はなくて、映画祭はみんなで作っていくものなんだと気づきました。これも転機の一つですね。

映画祭に関わったのは何年前ですか?

宮沢英樹氏:ボランティアとして最初に関わったのは第8回の頃だから13年前ですね。代表になったのが第10回からだから、代表としては11年目です。

長く活動を続けられた、またこれからも続けていこうとしているそのモチベーションや理由は何でしょうか?

オナン・スペルマーメイド:自分の事はどうでもいい。他人が喜んだり、元気になっている事が私のモチベーション。お金が入ってきたり自分が幸せになるのはその後のことで、コミットするのは自分の外側にあるものでありたいわ。特に若い子に喜んでもらいたい。年上じゃなくて。若い子だとヤル気が出ちゃう。なんかこう言うと好みの問題みたいに思われるけど、違うんですよ。私はエネルギーが強いものに対して憧れる。欲しいし、出したいし、持っている事を自覚したい。エネルギーが欲しいっていう人がいたらいくらでもあげたい。減るもんじゃないから。「若い」って年齢じゃなくて、エネルギーを持っているかどうかってこと。私のモチベーションは他人とエネルギーを共有するって事かもしれないわね。

円奴:私はモチベーションのような自分以外のものに動かされるような感覚はありません。自己発散。生きている理由とかあまり考えないで出したくて出ちゃうもの、止められない何かによって表現を続けています。
人のために何かをする、って感覚は大切だと思う。でも、私は考え過ぎてしまう。例えば「人のために何かをしている”自分”が欲しいんじゃないか」とか。裏の裏を考え出して思考のぐるぐるが止まらない。だから私は射精のように発散してる。
結局、自分のやりたい事をやれたらいいんです。人のためになっていればもっといいけど、それは結果として。

宮沢英樹氏:色々なセクシュアリティをテーマにした作品を扱っている東京国際レズビアン&ゲイ映画祭は、来場者もスタッフも様々なセクシュアリティを持っています。映画を鑑賞する場だけではなく、ボランティアという立場で運営に関わる事ができる場でもある映画祭、その空間というか全体が、言葉では言い表せない心地良さを与えてくれます。ボランティアとして関わった最初の年から13年。ずっと、この心地良さをモチベーションに、なくしてはいけないと思って代表を続けています。

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来場者のセクシュアリティの比率を教えていただけますか?

宮沢英樹氏:アンケートではだいたい三分の一がゲイ、三分の一がヘテロ、三分の一が「その他」でした。

オナン・スペルマーメイド:「その他」ってなんだよ!

宮沢英樹氏:とにかく間口が広くて浅いです。分け隔てる境界線のようなものがありません。

オナン・スペルマーメイド:ファッションブランドのブティックの入り口に立つと、自分は引きたく無いのに自然と境界線を引かされている感覚がありますよね。

皆さんの周りにある境界線についてお話を聞かせてください。

オナン・スペルマーメイド:人と人との境界線なんて、ちっちゃいころからずっと感じていました。他人と自分とは違う。それを「感じたくない」って反動から、塗り絵の絵の具が線を越えてにじんでいくように、境界線なんてそもそも無いかのように振舞っていました。
逆に境界線の存在が私の活動のモチベーションかもしれないわね。人も場所もコミュニティも、私との間に境界線を引いて、入りづらい事が当然だった。だから、何とかして入りこもうとしていたわ。でもここ数年、境界線が見えなくなってきていて困ってる。境界線がぼやけて、行き来が自由になっちゃった。
私は今、介護の仕事もしているんだけどね。職場はノンケの人ばかりのグループで。なんとかして順応しようとするんだけど、そもそもが抵抗の少ない環境でさ。安心なんだけど。でも、個々人とどんな風に向き合って関係を構築していくのか、どうやって境界線の上へ私をにじませて行くのかわからない。それがずっと課題で5年も頭を悩ませ続けてるの。まだ何一つクリアできていない。
やっぱり私はパーソナルな事の方が向いているのかもしれない。違いは違いで、境界線がはっきりしている方が大切だと思う。

円奴:私は自分以外に興味が無いから、まったく境界線を意識しない。はっきり言っちゃうけど。

宮沢英樹氏:もともと気が小さい方で、初めて行った2丁目のバーの前で、入ろうかどうか1時間以上も迷っていたタイプです。入ってしまえば境界線なんて意識しないのにね。
映画祭の他、お堅い仕事をしているんですが、職場ではボランティアの事は口にしていません。ところが、どこで知ったのか同僚が「なんかすごい事やってるんだね」と応援してくれることがあります。嬉しいですね。私は積極的に境界線を乗り越えようとは思いませんが、線の向こうからやってきてくれる人には誠心誠意応えたいと思っています。

これからLGBT×アートの展示や東京国際レズビアン&ゲイ映画祭など様々なイベントが開催されていきますが、皆さんがこのフィールドでやっていきたい事、これからの展望をお聞かせください。

オナン・スペルマーメイド:オナンの人気につながればいいなと思ってる。素直すぎるかしら。だって、私が絵を描いているって知らない人が多いから。アートを通じて、これはイメージだけど、私の部屋のリビングからベッドルームに来てもらいたいわ。普段のパフォーマンスとは違った、もっと緻密に捻出され骨身を削って生み出されたものを受け取って欲しい。それは、言語化されなくてよくて、オナンとあなたの間にあるんだって感じてくれるだけでいい。

宮沢英樹氏:まずは映画を見て欲しいです。多様なセクシュアリティをテーマにした映画だから、劇中は男と男や女と女の恋愛が描かれています。ただその表面だけじゃない、それぞれが普通に恋愛して普通に苦しんでいる。自分たちと違う所もあるけれど共通点もある、っていう事を知ってもらいたいです。

円奴:見に来る人はゲイにカテゴライズされたものを期待しています。自分の住む世界とは違う感覚で作られたもの、非日常の世界の作品を楽しみに来てくれる。だけど実は、自分の感覚の延長にあるLGBTアートに感動したり心動かされる事に気づくはず。自分と同じ感覚だって気づいてくれたら大成功だと思う。LGBTアートを通じて、世の中は男と女だけじゃない、10人いたら10通りの性別があるんだという事が伝わればいい。ありきたりの性別の境界線/枠を作っていた自分に気づいて、解き放つ感覚を経験してもらえたら私は最高だと思います。

■参加者プロフィール

【オナン・スペルマーメイド】
演劇的手法をクラブパフォーマンスに早くから取り入れ、洗練さの中に独自のポエジーを織り混ぜるオナンワールド。抽出されるソロステージではそのパワーを発揮。また、彼自身画家であり言葉をつづけるパフォーマー詩人としても、その縦横無尽な活動ぶりは、ドラァグクイーンという枠にはまらない“唯一主義のパーソナリティ”として今後の創作活動に目がはなせない。

【円奴】
自ら分裂増殖していく、自称=変身変化変体芸術家。性別や年齢をも超越した美しい本人のセンスは独特で不思議。もちろんそれらのキャラ設定の毒カワイさは、無限大級である。「幸せとはなにか?」が人生のテーマであり、ピンクのキャンピング車での旅(魔女っ娘☆生活)も必要なパフォーマンスらしい。本人が産み落とす軸となるキャラフィルターを客観的に覗いて輪わしてみよう。あなたの幸せ時空が震えるかも?

【宮沢英樹】
東京レズビアン&ゲイ国際映画祭 代表

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