Experience 2018.07.19

ラグジュアリー化が進む世界の空港ラウンジ、そのトレンドと魅力

昨今、滞在する人をもてなす場としてよりラグジュアリーで快適な空間へと進化している空港ラウンジ。今回は、空港アナリストの齊藤成人さんにおすすめの空港ラウンジを紹介してもらった。

高級ホテル化する空港ラウンジ

空港のエンターテインメント化が止まらない。本来空港とはその国の軍事と密接に関わっていたので、国または公的機関によって運営されてきた歴史がある。だから昔は空港の運営は極めて無機質なものであり、空港ラウンジも単なる飛行機の“待合室”にすぎなかった。

その空港が、1980年頃からヨーロッパを中心に脱国営・公営化が進み、空港オペレーターと呼ばれる民間企業が運営するようになってきた。アルファ ロメオ本社近くのトリノ空港も民間ファンドが運営している。

民間の空港オペレーターは、次々と誰もが楽しめる場所として空港を変えていった。そうした各地の空港が、今、競って力を入れているのが、ラウンジだ。就航エアラインの協力で、空港ラウンジはどんどんラグジュアリー感を増している。久しぶりにラウンジに足を踏み入れたら、高級ホテルのラウンジと見紛うような快適な空間に驚いた経験をお持ちの方も多いのではないだろうか。

もはや空港は単なる“待合室”ではなく、その国や地域の“顔”として滞在する人をもてなす場となっている。

世界最高峰のサービスで利用者の感性を刺激する、ドバイ空港『Emirates First Class Lounge(エミレーツ・ファーストクラス・ラウンジ)』

どこの国でも空港から醸し出される空気は地域性を強く感じるものだが、その地域の“顔”である空港の印象を左右する究極の場所がラウンジだ。地域独特のホスピタリティや品格を感じられる空港ラウンジこそ、その地域の自然、歴史、文化などが、デザインやサービスという究極に洗練された形で表現されている。

例えば、今一番ラグジュアリーな空港と言われているドバイ空港。もともとヨーロッパとオーストラリアを結ぶ便はカンガルールートといって、世界一のドル箱路線。ただダイレクトに飛べる飛行機はないので、必ず途中で一度乗り継ぎをしなければならない。以前は、シンガポールのチャンギ空港がカンガルールートの代表的な乗継空港だったが、最近は中東のドバイ空港がその地位にとって変わりつつある。その原動力の1つが、豪華な空港設備だ。

ターミナル毎に豪華なラウンジがいたる所にあるが、空港マニアの間で話題にのぼるのが、ターミナル3・コンコースAにある『Emirates First Class Lounge』だ。

チェックイン_ファーストクラス_ラウンジ ラグジュアリー化が進む世界の空港ラウンジ、そのトレンドと魅力ドバイ国際空港T3コンコースA『Emirates First Class Lounge』のエントランス

もともとこの場所は、世界最大の旅客機である総2階建てのエアバス380専門の乗り場だが、ここにあるラウンジということで、とにかく、群をぬいて豪華に造られている。巨大な受付ホール、ラウンジの中に軒を連ねる免税店、オットマン付のソファ、高級レストランのようなダイニングコーナー、そしてテーブルにさりげなく飾られた花。いわば高級百貨店をイメージしてもらえばわかりやすい。このエミレーツ航空の持つ知性と感性のすべてが注ぎ込まれた豪華ラウンジは、エアバス380のローンチカスタマーである同航空の、380専門ターミナルという条件が揃ったからこそ実現した空間と言える。

shutterstock_378400711 ラグジュアリー化が進む世界の空港ラウンジ、そのトレンドと魅力(画像提供:Sorbis,Shutterstock.com)

shutterstock_377215444 ラグジュアリー化が進む世界の空港ラウンジ、そのトレンドと魅力(画像提供:Sorbis,Shutterstock.com)

世界最高峰のサービスを供給すると言われている航空会社が手がける、ドバイ空港の魅力が凝縮されたこの空間を堪能できるのはファーストクラスの利用者のみ。ラグジュアリーなものに対する感性は、経験でしか身につかないものだが、利用者の感性を刺激するこの空間での体験は、フィー以上に豊かな経験を私たちにもたらしてくれるだろう。家具、装飾、装花、そうしたもの1つ1つの集合したイメージが、この地域のブランドとなるのだ。

シガーラウンジ_ファーストクラス_ラウンジ ラグジュアリー化が進む世界の空港ラウンジ、そのトレンドと魅力

ラグジュアリーな空港ラウンジの基準、チャンギ空港『SilverKris Lounge(シルバークリスラウンジ)』

昨今の空港ラウンジのトレンドは、改装を経て、地域性をさりげなく演出しつつ、ラグジュアリーな内装やソファ、そしてホテル並みに洗練されたサービスを提供することだ。例えば、チャンギ空港ターミナル3のシンガポール航空の『SilverKris Lounge』は、ラグジュアリーな空港ラウンジとしては定番中の定番。

gs-skl-4 ラグジュアリー化が進む世界の空港ラウンジ、そのトレンドと魅力シンガポール、チャンギ空港T3『SilverKris Lounge』(ビジネスクラスセクション)。

落ち着いた色調のソファ、テーブル、そして随所に大理石があしらわれたラグジュアリーな空間に、オーバーシーズチャイニーズ系レストランでよくみかける中華風装飾。この場所がそっくりそのまま日本にあったとしても、シンガポールにいると錯覚してしまうのではないかという位、地域性が上手く表現されている。

特に食事の質・量については群を抜いて素晴らしい。ヨーロッパの空港のラウンジもモダンで良いのだが、食事が日本人の口に合う、量が豊富、という点ではこちらに軍配があがる。また、ラウンジ内にはシンガポールの国花である“蘭”が多く飾られている。まるで何代も続く家柄の良い華僑の家の客間にゆったりと滞在する、そんな感覚を持てる空間となっている。

このラウンジの凄みはこうした外形的な部分だけではない。ラウンジ内で受けられるサービスの量・質に経済国家として生きてきたシンガポールの知性がすべて詰まっていると言っても過言ではない。英語、日本語、中国語の圧倒的な雑誌・新聞の量、PCを使うためのコンセントの数、速度が早いWi-Fiと接続のしやすさ。また、シャワーブースの広さ・設備の位置、アメニティの質。サービスにまったく穴が無いのである。ビジネスマンにとって、これほど機能的なラウンジはない。そんなの、どこの空港だって同じじゃないか、と思うかもしれないが、使っているうちに、全てのジャンルで、他をすこしずつ上回っていることに気づく。

表向きは蘭で飾られたラグジュアリーな空間だが、一皮むけば、その本質はビジネスマンにとって実に機能的な、滞在するということに究極に知性を働かせた空間。チャンギ空港は空港内のサイネージ、豪華施設の設置やエンターテインメント化など、シーンをリードしてきた空港であり、空港サービスという点での知性が凝縮された究極の空港だが、ラウンジのラグジュアリー化においても一つの世界基準となっている。

gs-skl-6 ラグジュアリー化が進む世界の空港ラウンジ、そのトレンドと魅力『SilverKris Lounge』(ファーストクラスセクション)。

香港の歴史やアジアの空気を感じさせる、香港空港『The Qantas Hong Kong Lounge(ザ・カンタス香港ラウンジ)』

香港空港は、イギリスの空港サービス格付会社・SKYTRAX社のランキングでもトップに位置付けられているキャセイパシフィックの空港ラウンジがあることで有名だ。ヌードルバーなどはよく知られているし、座席の広さもピカ一だが、今回紹介したいのは、カンタス航空の『The Qantas Hong Kong Lounge(カンタス香港ラウンジ)』だ。第1ターミナル北側出国を出てすぐにあり、日本-香港間に運航のある日本航空やキャセイ・パシフィック航空と提携しているので日本人も利用しやすい。

Qantas_140401_1018 ラグジュアリー化が進む世界の空港ラウンジ、そのトレンドと魅力香港空港『The Qantas Hong Kong Lounge』のエントランス。

落ち着いたトーンの内装に、間接照明でラグジュアリー感を出したホテルのような空港ラウンジが多い中、ここはゲート前の中二階という場所をうまく利用し、壁を設けず光と緑を多く取り入れ、かつ、床や家具に白を取り入れることで、モダンでコロニアル風な装いとなっている。この開放的で明るいラウンジの監修はフランスのアコーホテルズ。とにかく空間を贅沢に使っているので、座席間隔も広く、たいへん余裕を感じる。まるでリゾート地のカフェのようでもあり、どことなくイギリスの植民地だったという歴史的背景やアジア特有の空気を感じさせる。

Qantas_140401_3126 ラグジュアリー化が進む世界の空港ラウンジ、そのトレンドと魅力

Qantas_140401_2014 ラグジュアリー化が進む世界の空港ラウンジ、そのトレンドと魅力

壁がない空間から見える窓の外は、すぐそこがボーディングブリッジだ。壁がないからこそ、搭乗アナウンスなど周囲の雑音がうっすらと聞こえてくる。それが程よい環境音となり、同乗者とのおしゃべりもついつい弾む。つくりが開放的だからサービス面は大味かというと、まったくそうではなく、ドリンクのおかわりなどの声掛けがあったり、ラテを頼むときちんとラテアートを作ってくれるなど、きめ細やかさを忘れていない。
こうした開放的なつくりで、ラグジュアリーを表現しているラウンジはまだまだ珍しい。遠くに駐機している航空機を借景としながら、ラグジュアリーな家具をゆったりと並べた空間。ホテル的な豪華さを体現しながらも、開放感を利用しながら空港という特性を残すという。この感性は実に素晴らしい。車にたとえると、まさにオープンカーである。なお、カンタス航空はシドニー空港などのラウンジも建築的に面白い構造をしているので、機会があればぜひ立ち寄っていただきたい(※)。

※ラウンジの利用はカンタス航空およびワンワールド加盟航空会社のビジネスクラス、ファーストクラス利用時、およびカンタスフリークエントフライヤー、プラチナ・ワン、プラチナ、ゴールド会員、カンタスクラブ会員、およびワンワールドエメラルド、サファイヤ会員が対象。

Qantas_140401_4021 ラグジュアリー化が進む世界の空港ラウンジ、そのトレンドと魅力

さりげない意匠で地域性を感じさせる、新千歳空港『ANA LOUNGE(ANAラウンジ)』

このように、優れたエアラインや空港オペレーターのつくる空港ラウンジは、コテコテの伝統的な民族的な装飾などほとんど使わずに地域性を上手に表している。例えば、ミャンマーのヤンゴン空港のラウンジは極めてモダンで洗練された内装だが、天井、壁などがすべて薄いゴールドで統一されている。それは金箔で装飾されている同国の仏教寺院をさりげなく思わせる意匠であり、別にコテコテの仏像なんてなくとも、今自分がミャンマーにいる、ということを実感できる。

DSC_8559 ラグジュアリー化が進む世界の空港ラウンジ、そのトレンドと魅力ミャンマー、ヤンゴン空港のラウンジ。

他にも、デュッセルドルフ空港のルフトハンザ・セネター・ラウンジなど印象に残る評判の良いラグジュアリーなラウンジは世界中にたくさんあるが、日本の空港でも、意匠・デザインで地域性を表す美しいラウンジが登場している。昨年、新千歳空港にオープンした、空港業界初となる隈研吾氏監修の『ANA LOUNGE』だ。

baba2017-09-12-134123 ラグジュアリー化が進む世界の空港ラウンジ、そのトレンドと魅力新千歳空港『ANA LOUNGE』のエントランス(画像提供:ANA)。

一歩足を踏み入れると、前面いっぱいに大きな窓が広がり、滑走路越しに雄大な山々が目に飛び込んでくる。壁に使われている素材の雰囲気と、窓から見える景色から、広大な北海道の大地を感じることができるのだが、何より入ってすぐの大きなテーブルの上に、丘陵のような形の苔でできた、山のようなオブジェが飾られているのが特徴的だ。人によってとらえ方は様々だろうが、この苔山のなだらかな稜線をみると、クラーク象がある札幌の羊ヶ丘展望台を思い出す。

baba2017-09-12-142728 ラグジュアリー化が進む世界の空港ラウンジ、そのトレンドと魅力(画像提供:ANA)

このテーブルで、出発までの間、ゆったりと苔山をみながら北海道を感じつつ、ビールを楽しむのが最高だ。苔という、一見北海道と結びつかないオブジェが、明るい窓からの景色と相俟って、北海道を強く意識させる。京都で苔庭をじっとみていると、自分の感性が研ぎ澄まされると言う人がいたが、そこまではいかなくとも、このラウンジでは気楽にかわいらしい苔山を楽しみたい。ただ、この苔山、形、大きさ、稜線すべてが監修者である隈研吾氏の知性を体現しているもので、「これをみて、君はどう感じる」と問いかけてくる。どう感じるかこそが、その時の自分の知性と感性を図るバロメーターになるだろう。今、新千歳空港の中で、最も感性に訴えかけてくる場所とも言える。

baba2017-09-12-143202 ラグジュアリー化が進む世界の空港ラウンジ、そのトレンドと魅力(画像提供:ANA)

人と人の“結節点”、空港ラウンジ

空港のエンターテインメント化と共に、ラグジュアリー化が進む空港ラウンジ。私は知人にも「お気に入りのラウンジを見つけて、ファンになってほしい」と宣伝している。空港に滞在する時間そのものを満喫してくれる仲間が増えれば幸いだ。

こんなにも多くの民族が行き交うエキゾチックな場所、しかもどの人の表情も明るい場所は、空港をおいて他にはない。飛行機に乗らなくても、ゆったりと時を過ごすだけで豊かな気持ちにさせてくれる場所、それが空港ラウンジだ。

昔、シャルルドゴール空港のルフトハンザ航空のラウンジでくつろいでいたら、何年も会っていない知人夫婦と出くわし、驚いたことがあった。日本ですら会う機会もないのに、と。その時は単なる偶然だと思っていたが、歳を重ねてよくよく考えると、空港ラウンジは人が集まる“結節点”なのではないか、会うのも当然だったのではないかと。多くの人がそれぞれの目的地に向かって忙しく行き交う広大な空港の中で、ふと足を止め、くつろげる場所が空港ラウンジだからこそ、出会いが生まれる。今年の夏もまた、空港ラウンジでは思いもかけない人との再会が待っているかもしれない。

INFORMATION
齊藤成人『最高の空港の歩き方』

発売年月 2017年6月
定価 886円(税込)
URL https://www.poplar.co.jp/book/search/result/archive/8201128.html

Text:齊藤 成人

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