Experience 2018.03.15

隈研吾が手がけた水とガラスの城、ATAMI海峯楼で相模湾に抱かれて眠る

日本を代表する建築家・隈研吾。彼の代表的な建築思想である“負ける建築”を象徴するかのような作品が熱海にある。4つある客室すべてから海が一望できる大人の隠れ家温泉旅館にフォーカスする。

その宿は、熱海駅からほど近い高台にある。わずか4室の宿泊施設『ATAMI 海峯楼』は、日本が世界に誇る建築家・隈研吾氏が設計を手がけたものだ。もともとはある企業のオーナーが、大切なお客さまをもてなす迎賓館として1995年に建てたもので、これをカトープレジャーグループが譲り受け、2010年にラグジュアリーな宿泊施設として開業した。<水/ガラス>をテーマとし、海との一体化をはかったこの建物の魅力、そして、この非日常空間に滞在する醍醐味を探る。

建物全体に流れる「気」に惚れ込み、購入を決意

熱海駅から『ATAMI 海峯楼』までは、徒歩でも駅から10分強。徒歩にしろ、車にしろ、急な坂をのぼることにはなるが、起伏が激しく、坂道が多い熱海という街をのっけから体験できる。

20180226_qetic-alfa-01522-1200x801 隈研吾が手がけた水とガラスの城、ATAMI海峯楼で相模湾に抱かれて眠る海と山の距離が近く、斜面に家が段々と連なる熱海。“日本のモナコ”とも謳われるその景色は、初島から熱海に向かう船からも確認できる。

新しい歌舞伎座やサントリー美術館、根津美術館などを手がけ、2020年オリンピックのメイン会場となる新国立競技場の設計にも携わる、隈研吾氏本人がこの作品に付けたタイトルは<水/ガラス>。

その名の通り、館内のいたるところに水とガラスをテーマにした演出が施されている。また、高台の上の立地をいかし、さまざまな場所から相模湾の眺望がのぞめるように工夫を凝らした。しかし、ほかの建物とは異なる独特のオーラを放っているもものの、その外観からは、<水/ガラス>をテーマにした建築物だとはわからない。建物に足を踏み入れて初めて作品の世界観を“共有”できる。そして、何度か感嘆のため息をもらすことになるのだ。

entrance-2-1200x798 隈研吾が手がけた水とガラスの城、ATAMI海峯楼で相模湾に抱かれて眠る

20180226_qetic-alfa-0101-1200x801 隈研吾が手がけた水とガラスの城、ATAMI海峯楼で相模湾に抱かれて眠る

カトープレジャーグループの代表、加藤友康氏は、立地、デザイン、そして、建物全体に流れる“気”に惚れ込んだのだという。宿泊施設のオープンにあたり、ほとんど手を加えていないという。

遮るものはなにもない。目の前にはただ相模湾が広がる

エントランスを入ると、小さなフロントの奥にダイニングルームを兼ねたラウンジがある。正面には相模湾。窓一面がガラスになっていて、多くの人はここでまず、海に吸い込まれそうなほどのダイナミックな景色に圧倒されるはずだ。“知識”を持って作り込まれた空間は、そこに身を置く者の“感性”に訴えかけてくる。“絶景”という言葉がこれほどふさわしい場所があるだろうか。

施設責任者である副支配人の伊藤喜晴氏はいう。
「この建物は、壁の代わりにガラスが使われているところが多く、建物の中にいても外の世界とのつながりを感じていただけます」

20180226_qetic-alfa-0040-1200x801 隈研吾が手がけた水とガラスの城、ATAMI海峯楼で相模湾に抱かれて眠る施設責任者・副支配人の伊藤喜晴氏。ガラス越しには、まばゆいばかりの相模湾が広がる。

客室はわずか4室。3階には2室のラグジュアリースイート(『誠波(せいは)』『風科(ふうか)』)が、2階には『尚山(しょうざん)』、和室の『爽和(さわ)』の2室がある。どの部屋もオーシャンビューだが、部屋の作り、趣きはすべて異なっている。

最も人気があるのは、部屋の海側の壁一面に大きな窓を配した、『誠波』だ。約90平米の客室のどこにいても海が迫ってくる。部屋を囲む水盤に湛えられた水は太陽の光を受けて煌めき、ソファに腰掛けると目線がちょうど水平線と同じ高さになるよう工夫がされている。

20180226_qetic-alfa-0074-1200x801 隈研吾が手がけた水とガラスの城、ATAMI海峯楼で相模湾に抱かれて眠る「3階の客室からは水平線と同じ高さの目線を体験できます。ベッドで寝ていると、朝日が昇る様子がよく見えます」

20180226_qetic-alfa-0063-1200x801 隈研吾が手がけた水とガラスの城、ATAMI海峯楼で相模湾に抱かれて眠るベッドはシーリー製のオリジナル。居住性にこだわる。

20180226_qetic-alfa-0080-1200x801 隈研吾が手がけた水とガラスの城、ATAMI海峯楼で相模湾に抱かれて眠る

もう一つのラグジュアリースイート『風科』は、天井高が7メートルと開放感のあるつくりが特徴だ。南向きで、海とともに熱海のシティービューが楽しめる。熱海恒例の花火大会のときは、この部屋が特等席となる。花火の開催日にあわせ、予約を入れる人も多い。

room2-風科-1200x798 隈研吾が手がけた水とガラスの城、ATAMI海峯楼で相模湾に抱かれて眠るラグジュアリースイート『風科』

『尚山』は、洋室スタンダードルームだ。部屋の広さは50平米あり、相模湾とともに山あいの景色も堪能できる。4室のなかで唯一の和室となる『爽和』も約50平米。ドーム型の開放感ある天井が印象的で、海にせり出た、縁側のようなスペースは、海を見ながら午睡をむさぼるにはうってつけだ。

room3-尚山-1200x798 隈研吾が手がけた水とガラスの城、ATAMI海峯楼で相模湾に抱かれて眠る洋室スタンダードルーム『尚山』

room4-爽和-1200x798 隈研吾が手がけた水とガラスの城、ATAMI海峯楼で相模湾に抱かれて眠る唯一の和室『爽和』

熱海の宿泊施設に温泉は欠かせない。企業の迎賓館だった頃の名残りで男湯と女湯がわかれていないため、温泉大浴場は部屋ごとの貸切制をとっている。浴室は8人ほどがゆとりを持って入ることができる広さで、サウナや水風呂も併設。泉質は、やや塩分が濃いカルシウム・ナトリウム強塩化物温泉。美肌効果があるとも言われている。

20180226_qetic-alfa-0107-1200x801 隈研吾が手がけた水とガラスの城、ATAMI海峯楼で相模湾に抱かれて眠る大きな窓を開けると半露天風呂にもなる、ガラス張りの大浴場。

料理は、旬の走りのものや地のものを中心にした、和食を提供。「なかでも、近隣で水揚げされる金目鯛はとてもご好評いただいています」。脂の乗った秋から冬にかけては、しゃぶしゃぶでいただくのもおすすめだ。ぷりっとした食感、独特な甘みがたまらない。美しい盛り付けにも心が躍る。また、朝食は、和食と洋食から選択できる。最終開始は10時と、ブランチとしても利用ができるというのもうれしい。

新鮮な海の幸 隈研吾が手がけた水とガラスの城、ATAMI海峯楼で相模湾に抱かれて眠る新鮮な地魚をはじめとした、旬の食材を使った料理を提供している

kaihourou_-020-e1521081888287 隈研吾が手がけた水とガラスの城、ATAMI海峯楼で相模湾に抱かれて眠る食事は旬の素材をいかした和食。取材時は、近隣で水揚げされる金目鯛のしゃぶしゃぶを提供していた。

旬彩味匠鍋 隈研吾が手がけた水とガラスの城、ATAMI海峯楼で相模湾に抱かれて眠る

ガラスの箱が水の中に浮かぶ『ウォーターバルコニー』

<水とガラス>というテーマをもっとも象徴するのは、なんといっても、3階の水上ダイニングルーム『ウォーターバルコニー』だろう。楕円形の小部屋は総ガラス張りになっていて、建物の周りには水を循環させた“縁側”を作り、縁から水があふれ落ちるように設計されている。この“縁側”が、眼下に広がる相模湾と建物とをつなぐ役割を果たすことで、ガラスの箱が水の中に浮かんでいるかのように見えるのだ。

部屋の中央に配された、ガラスのテーブルの周りを、背もたれにガラスを導入した、<Glass Chair>が取り囲む。ここに腰掛ければ、より海との一体感を味わえるだろう。建物のなかでもっとも感性に訴えかけてくるこの場所は、磨き抜かれた知性によって生み出されている。

20180226_qetic-alfa-0046 隈研吾が手がけた水とガラスの城、ATAMI海峯楼で相模湾に抱かれて眠る

20180226_qetic-alfa-0049 隈研吾が手がけた水とガラスの城、ATAMI海峯楼で相模湾に抱かれて眠るウォーターバルコニーからの眺め。“縁側”と“海”が一体化し、人工物と自然が見事に調和している。

この『ウォーターバルコニー』で食事ができるのは、ラグジュアリースイート(『誠波』『風科』)に宿泊した者の特権だ。夕食、もしくは朝食時に利用することになる(宿泊予約時に要予約)。「ラグジュアリースイート以外の部屋に泊まっていたら、利用できないのか」と不安に思われる向きもあるだろうがそこはご安心を。ほかの部屋に宿泊していても食事以外の時間帯は利用ができる。

好きな本や冷蔵庫のビールを持ち込み、『ウォーターバルコニー』で過ごす悦楽の時間に、ぜひ存分に身をゆだねたい。なお、カトープレジャーグループが運営する宿泊施設では冷蔵庫の中身は無料という、うれしい情報を付け加えておこう。

シャンパンをウォーターバルコニーで 隈研吾が手がけた水とガラスの城、ATAMI海峯楼で相模湾に抱かれて眠る

水が流れ落ちる壁やガラスの橋、ガラスの階段など、ガラスの特性をいかした建物のなかには、ほかにもさまざまなアートが配されている。「熱海の伝統ある芸者さんをお呼びして、お遊びいただくこともできます」(伊藤氏)という1階の大広間『楽精』では、狩野派の大家、徳力富吉郎氏の描いた、荘厳なふすまが圧倒的な存在感を放つ。また、エントランスには千住博氏の日本画<ウォーターフォール>が、ダイニングスペースには、ガラスアート作家、狩野智宏氏の作品が飾られる。

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20180226_qetic-alfa-0114 隈研吾が手がけた水とガラスの城、ATAMI海峯楼で相模湾に抱かれて眠る

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ただひたすら海を眺める──究極の贅沢を

「部屋でもいいですし、パブリックスペースでもいいです。どこからでも海を見ることができるのが、この施設の最大の特徴です。海が見えるロケーションということでご予約をいただき、隈さんの作品だと知らずに訪れる方も少なくないんですよ。お好きな音楽を流しながら、海を眺めているお客様もいらっしゃいます。ここにいらしたら何もしないのがいちばんです。私もこの景色は見飽きることはありません」(伊藤氏)

20180226_qetic-alfa-0010 隈研吾が手がけた水とガラスの城、ATAMI海峯楼で相模湾に抱かれて眠る

バブルの残り香がまだ漂う頃に、利益を度外視して建てられた建物だ。現在の宿泊施設の常識では考えられないほど、非常に贅沢なつくりとなっている。希代の建築家が設計した建築物に泊まり、相模湾に抱かれて眠るというのは、『ATAMI 海峯楼』に宿泊した人だけに許された、究極の至福といっていい。

徳川家康が湯治に訪れ、多くの文人墨客に愛されてきた歴史ある温泉地・熱海で、感性と知性を刺激する建築散歩も一興だ。

20180226_qetic-alfa-0130 隈研吾が手がけた水とガラスの城、ATAMI海峯楼で相模湾に抱かれて眠る

INFORMATION
ATAMI海峯楼(かいほうろう)

住所 静岡県熱海市春日町8-33
TEL 0557-86-5050
URL http://www.atamikaihourou.jp/

Text:Aya Hasegawa
Photos:大石隼土

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