2012.08.20

Giuliettaと巡る金沢 Vol.2

金沢市街からクルマで国道8号線を南西に向かって1時間余り。豊かな自然が広がりをみせる霊峰・白山の裾野に『山代』、『山中』、『片山津』の3つの名湯『加賀温泉郷』がある。

中でも、芭蕉が『奥の細道』の道中で8泊9日もの期間、滞在したと伝えられる山中温泉は、大聖寺川の渓谷美が堪能できる風光明媚な温泉街である。
『山中や 菊は手折らじ 湯の匂ひ(山中の湯に浴せば、菊(=不老長寿の菊の露)を飲むまでもない)』
と名句を詠んだことでも知られている。
 

鶴仙渓に掛かる『あやとりはし』

鶴仙渓(かくせんけい)にS字を描く『あやとりはし』は、『鶴仙渓を活ける』というコンセプトのもと、いけばなの草月流・三代目家元の勅使河原宏氏がデザインした橋だ。鉄という異質な素材を自然と見事に共演してみせる作品は、緑と紅紫色のコントラストがひときわ目を惹くモダンな建築美といえる。川沿いの遊歩道を散策するのもいいが、橋の上から見下ろす渓谷もまた美しい。

橋を渡り、公園脇の階段を下って河原に降りると、春から秋口にかけて川床が姿を現す。川のせせらぎを聴きながら自然の中に溶け込めるくつろぎスポットとしても人気が高い。

 
黒谷橋

大聖寺川の川下に掛かる『黒谷橋』は、昭和10年にアーチ型を描く石橋となった。かつては木造の橋だったが、芭蕉はここからの眺めをたいそう気に入り
『此の川のくろ谷橋は絶景の地や 行脚の楽しみここにあり』
と詠っている。

 

山中温泉からクルマで15分ほど南に向かった場所にあるのが『山代温泉』だ。

山代温泉の中心にある『古総湯』

山代温泉は北陸随一の古湯で1300年もの歴史を誇る温泉地であり、明治時代から昭和初期に生きた与謝野鉄幹・晶子夫妻、泉鏡花といった文人が訪れた他にも、芸術家で美食家としての顔を持つ北大路魯山人が作品作りや語らいの場としていた地として知られている。

街の中心にある『古総湯』は100%源泉掛け流しの湯に浸かれるこの温泉街のシンボルとも言える場所で、明治19年に築かれた『総湯』が復元されたもの。共同浴場を中心に街が作られていった『湯の曲輪(ゆのがわ)』と呼ばれる当時の温泉街の在り方が平成23年夏に再現され、人が行き交う光景が蘇った。

無垢の天然木が用いられた『古総湯』は四方八方から出入りできるようになっていて、訪れる者を気軽に受け容れてくれる構造だ。洋風建築の影響を受けた建物内部は、陽の光が色彩豊かなステンドグラスを透過して湯船に鮮やかな光を照らし出し、浴場の床には地元の作家が一枚一枚手書きで描いた加賀地方の伝統工芸である九谷焼のタイルが敷かれている。この地で育まれた文化が息づいているのだ。
 

九谷焼窯元 須田菁華にて

街の中心からすぐ近くの場所に、九谷焼を代表する名窯『九谷焼窯元 須田菁華』がある。ここは、北大路魯山人が初代から九谷焼の手ほどきを受けたとされる由緒ある窯元だが、現在は4代目が伝統の技を受け継ぎ、8名のチームで作品作りを行っている。

魯山人が彫った看板が掲げる店は、古くからの日本家屋をそのまま利用した造りで、温泉街の小路にひっそりと佇んでいる。引き戸を開けて中に入ると、店内には食器を中心とした商品がところ狭しと並べられていた。

作品は『九谷五彩』と呼ばれる赤、青(現在の緑)、黄、紫、紺を用いた彩り鮮やかなものから、白と藍だけで焼き上げた涼しげな色調のものまで、表現方法もさまざまだ。

幸いにも、四代目のご主人からお話を伺わせていただくことができた。

「作品づくりは手仕事で行っており、作り方は昔と変わっていません。その時々で流行や時代を反映するものはありますが、『レトロ調』という言葉が昔を思い起こさせるように、新しい作品であっても、古い作品であっても、時代の変化を映し出していきます。

『伝統』と言うと、暗く重たい印象を受けますが、現代の生活に馴染むものを作っていきたいと考えています。

なかでも、食器については、その時代の食べ方に合わせて、自然の恵みを美味しく頂くための器であることが基本です。日本の歴史を辿れば、箱膳の時代は食器をひとつずつ手に取って食べるスタイルでしたが、今やお皿はテーブルに置いて食べる時代に変わりました。つまり、昔は覗き込んでいた深い器も、今では浅い皿が主流になってきているということです。

より機能的で使いやすいものであることも大切ですが、絶対的な性能やデザインよりも、人が使うと魅力的に感じるもの、数字では表せない感覚的なものが大切なのではないでしょうか。私たちが作る作品は、ひとつひとつをフリーハンドで絵付けをしていきますが、それらが持つ表情や自然感は、何とも言えない優しい包容力を備えているのです。
 

道具として使われる食器は、時代の変化とともに柔軟に姿を変えていくものの、人が感じ取る感覚はいつの時代も変わらない───九谷焼の伝統を現代に受け継ぐ作品作りとAlfa Romeoのクルマ作りが、本質の部分で同じであることは、私にとって意外な発見でもあり、嬉しくも感じた。


九谷焼窯元 須田菁華(すだ せいか)

〒922-0253
加賀市山代温泉東山町4
0761-76-0008
不定休
営業時間 9:00~17:30
駐車場3台有



藤島知子(モータージャーナリスト)

幼い頃からのクルマ好きが高じて、スーパー耐久のレースクイーンを経験。その一年後、サーキット走行はズブの素人だったにもかかわらず、ひょんなことから軽自動車の公認レースに参戦することになる。以来、レースの素晴らしさにどっぷりハマり、現在は自動車雑誌やWeb媒体で執筆活動する傍ら、箱車にフォーミュラカーにと、ジャンルを問わずさまざまなレースに参戦している。

藤トモ通信

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