Vision 2018.06.25

Weekend Pianist、D flat氏。その創造(パワー)の原泉とは?

働き方改革、という言葉がメディアを賑わすようになって久しいが、今回話を伺ったのは、平日は外資系金融機関に勤めながら、週末にはピアニスト D flatとして活動している藤川大策氏。一時は、ピアノとかけ離れた生活を送りながら、再び作曲・演奏活動を始めるに至った軌跡を辿る。

外資系証券会社の資本市場本部長として、日々激務をこなしている藤川大策氏には、もうひとつの“顏”がある。週末には、プロのピアニスト・作曲家として、D flat(ディー・フラット)の名のもと、精力的にライブや作曲活動を精力的に行っているのだ。今回は、藤川氏ことD flat氏へのインタビューを通し、一度は金融の世界に身を投じながら、プロのピアニスト・作曲家として脚光を浴びるに至った軌跡、そして、彼の知性[IQ]と感性[EQ]に迫る。

20180610_qetic-Df-0003 Weekend Pianist、D flat氏。その創造(パワー)の原泉とは?“Weekend Pianist” D flat氏。

その正体は、外資系証券会社で管理職を務める証券マン

藤川大策氏は、外資系証券会社で管理職を務めるエリート証券マンだ。資本市場本部のトップとして、世界のマーケットで、企業の株式や社債、各国政府や国際機関などが発行する債券の引受・販売を行っている。この2ヵ月の海外出張は4回。日々世界市場に対峙し激務をこなしているとは思えないくらいに穏やかな笑顔を浮かべる彼は、週末は、ピアニスト・作曲家として活動を行っている“Weekend Pianist”だ。これまで、D flat名義で3枚のCDを発売。テレビ番組にも音楽を提供するなど、作曲家としても活躍中だ。

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D flat氏がピアノを習いはじめたのは4歳のとき。小児科医に「耳がよくないかもしれない」と言われた両親がなにか音楽を習わせようとしたのがきっかけだ。

「今は精密な機械で検査ができますが、私が子どもの頃は背後からパンと手を叩き、振り返ったら聴こえていると判断していたんです。私の場合、あまのじゃくだったらしく振り返らなかったんですよ(笑)。当時の細かい記憶はありませんが、『ピアノ習いたい?』と母に質問されたことだけは覚えています」

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作曲に夢中になった中学時代

小学校5年のときに小学校のジャズバンドに入る。コードや即興などを丁寧に教えてもらい、瞬く間にジャズに魅了された。子どもジャズバンドでピアノを担当し、こども音楽コンクールに入賞したこともある。

「厳しいスパルタの先生でしたが、子どもにジャズの楽しさを教えてくれました。当時はまったく新しいチャレンジだったと思います」

次の転機は中学2年のとき。ピアノの恩師から、「作曲家か指揮者を目指さないか?」と言われ、作曲家の道を意識するようになった。

「作曲はパズルのようですぐに夢中になりました。例えばハーモニーの宿題は電車やバスのなかでもできるので、数学のような感覚でした」

音楽系の大学に進み、本格的に作曲を学ぶことを考え始めるが、「誰も音大に行かない」進学校にいたこともあり早稲田大学政治経済学部に進学。大学進学後、音楽からは距離を置いていたが、大学3年次にアメリカに留学した際にピアノのレッスンを再開した。

「たまたま音楽学部がある大学だったんです。ジャズ仲間とコンサートに行ったり、趣味でセッションをやったりしていました」

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同僚や自分を癒す曲を作りたい

大学卒業後は銀行に就職。多忙ながら仕事も楽しく、またピアノとはかけ離れた生活をしていたが、ロンドン勤務になったとき、「一気に音楽への気持ちが高まりました」。

「音楽にあふれている」ロンドンでは、日本よりも安価で音楽が楽しめることもあり、「クラシックをはじめさまざまな音楽のライブに足を運び、刺激を受け、作曲も再開しました」。

帰国後、金融危機を経て、現在勤める証券会社に転職。夜も週末も会議で仕事に忙殺されていたとき、「不思議と曲のイメージが湧いてくるんです。おこがましいかもしれませんが、疲れている同僚、そして自分がどんな曲を聞いたらストレスから解放され、やさしい気持ちで眠れるかと考えながらどんどん曲を作っていきました」。

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たまった曲を友人に聴かせたところ、「一度、きちんとスタジオで録音して、プロに聴いてもらったらどうか」とアドバイスを受ける。

「自分ではいい曲だと思って作っているわけですから(笑)、たしかに第三者に聴いてもらいたい」と、スタジオを借り、プロのエンジニアに録音してもらった音源をデモCDにした。

「たしか30社ほどのレーベルに送った記憶があります。大量にデモCDが送られてくるんでしょうね。数社が、『残念ですが』と丁寧にハガキを送ってくれましたが、返事がないのは当たり前で、大変な世界だということを実感しました」

そんなとき、ソニー・ミュージックから、「会って話がしたい」と声がかかる。これをきっかけに2007年にCDデビュー。ライブの誘いやテレビの仕事の依頼も舞い込むようになる。

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2つの異なる仕事が相乗効果を生みだす

「最初に行ったのは小さな会場での無料のライブです。もちろんお客様にもほとんど来ていただけませんでしたが、同時にみんなこうやって頑張っているんだな、ここからスタートして行こうと大きな励みにもなりました」

その後、名門ライブハウスでもライブを行うようになった。縁があり広島でも毎年、演奏を行っている。メジャーデビュー10周年に当たる2017年には、3枚目となるCD『Weekend Pianist』を発表した。

平日は証券マン、週末・休日はアーティストとして忙しい毎日を送り、「いかに睡眠時間を確保するかといつも考えている」というD flat氏だが、実はこの二刀流生活を気に入っている。

「異なる2つの仕事をしていることで湧いてくる曲もありますし、生活のプライオリティが明確になり、時間の使い方が効率的になるような気がします。私は音楽業界ではまだまだ新人。金融の仕事ではアドバイスをさせていただくことが多いのですが、音楽業界で仕事をするようになり、的確なアドバイスをもらえることがいかにありがたいことかを実感し、自分も真剣にアドバイスしていかないといけないと改めて感じるようにもなりました」

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音楽を続けることでできた新たなネットワークも「大きな財産」

「以前、銀行の先輩に、『お前の思っている常識は世界で非常識かもしれないし、お前の思っている非常識が世界では常識かもしれない。それを忘れるな』と言われたことがあるんです。音楽活動で世界が広がったことで視野が広がりましたし、その言葉をより大切にしていきたいと感じるようになりました。新たな出会いが創作意欲をかき立ててくれることも多いんですよ。そして、何年も前から働き方改革を実践し、副業を認めてくれる勤務先に感謝しています」

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いつだって、わくわく、どきどきしていたい

今後は、作曲家としての活動に力を入れていきたいという。

「ピアノは上手な人がたくさんいます。自分の作った曲を、もっと上手な人が弾いてくれたらどんな感じになるんだろうかと考えるとわくわくします。恋愛映画の音楽も担当してみたいですね。人間の気持ちが大きく動く恋愛映画で、人間の感情をサポートするような音楽を作ってみたいです」

アーティストとしての活動はたくさんのわくわく、どきどきを与えてくれる、とD flat氏は瞳を輝かせる。

「コンペなどに自分の作った音楽を提出することもあります。ボツになることも多々ありますが(笑)、提出するときはいつでもわくわく、どきどきするんですよね。やはり人生には、刺激が必要ですし、いつまでもそんな気持ちを持ち続けていたいですね」

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そして、そのピアニストとしての活動はウィークデイの証券マンとしての活動にも好影響を与えている。知性[IQ]を駆使する証券会社の管理職・藤川大策氏としての仕事、感性[EQ]を生かすピアニスト・作曲家というアーティスト・D flat氏としての活動──。一見、対極に位置するように思えるIQ/EQは車の両輪のように密接に絡み合い、相乗効果を生みだしているのだ。

「両方やっているからこそ、両方に活かせているところがあると、勝手に思っているんですよ(笑)。証券の仕事は数字で計算できるところが多いですが、部下にはよく『第六感を置き去りにするな』と言っています」

そうなのだ、まるで母親の羊水のようにすべてをやさしく、気高く包み込むようなD flat氏の音楽は、IQ/EQが作用し合うことが未知なる力を生みだすことを雄弁に語っている。

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INFORMATION
D flat

Facebook @Dflatsound
YouTube @dflatsound
URL https://www.universal-music.co.jp/d-flat/

Text:長谷川 あや
Photos:大石 隼土

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