Vision 2018.03.29

アートアクアリウムアーティスト・木村英智氏が語る、大人になりたくないからこそできた、新しい“粋な”遊び方。

アートアクアリウム、コンコルソ・デレガンツァ京都、水戯庵…日本の伝統文化を軸に、今までにないものを生み出し続ける木村英智氏。その創造性の源とは?

たくさんの金魚が美しい光の中を泳ぎ回るアートアクアリウム。その世界を作り上げた木村英智さんが、京都・元離宮二条城においてクラシックカーのコンクール、コンコルソ・デレガンツァ京都2018を開催する。さらには東京、日本橋において『水戯庵』という、彼流の言い方では“日本伝統文化のライブハウス”をオープンした。エンターテイメントでも、今までにはない世界を作り上げる木村さん。そんな彼の根底には何があるのか。アルファ ロメオのブランドテーマである“IQ(知性)”、“EQ(感性)”という視点で見ると、いくつかの共通したキーワードが見えてきた。

28歳でセミリタイア

「僕は28歳の時にセミリタイアして世界中を放浪していたんです」。

アートアクアリウムを始めたきっかけを尋ねると木村さんはそう切り出した。それまでは熱帯魚などの観賞魚の貿易業を営んでおり、忙しい日々を送っていた。そんなある秋の日、学生時代の友人たちと飲む機会があった。因みに木村さんは6月生まれ、友人たちは10月前後だという。まもなく30歳を迎えるという話題から、ふと木村さんは気づいた。僕の20代の夏はあと1回、彼らは10月生まれだからあと2回もある!!と。

それまで遊びの誘いも断り仕事に追われる日々を送ってきたが、「30歳になり大人になってしまうことがすごく怖くなったんです」。木村さんは「大人になりたくない症候群」と自らも分析するように、とにかく“大人”と呼ばれることを恐れていた。その理由は簡単だ。「10代なのに良く出来たね、20代なのに頑張ったね、でも30代以降そういわれることはなくなっていくでしょう。僕はいつまでもそういわれたいんです」という。そんな恐怖感から、順調だった事業を縮小し、世界中を旅してまわったのだ。

20180321_qetic-alfa-0043 アートアクアリウムアーティスト・木村英智氏が語る、大人になりたくないからこそできた、新しい“粋な”遊び方。成功を手放し、20代にしてセミリタイヤ、世界を放浪したという木村英智氏。

最高級ホテルのアクアリウムバーでがっかり

そんな旅の中、衝撃的な出来事があった。ミュンヘンにある最高級ホテルにおいて、期間限定でアクアリウムバーが開催されていた。早速そこに赴いた木村さんの目に飛び込んできたのは、「ホームセンターでつるしで売っているような水槽が適当に置いてあり、コンセントのコードも隠さない残念な光景でした」。木村さんは、「これは日本でも感じていたことですが、家具などを入れるときは一流のものを何百万もかけて作らせたりするホテルですら、熱帯魚になった瞬間にどうしていいかわからず街の熱帯魚屋さんに頼むのです」と当時を振り返る。

ここで気付きがあった。それは、デザイナーは魚のことは知らないので、絵を描いてもそれは机上の空論でしかない。逆に、魚に詳しいプロはデザインが出来ないということだった。

放浪の旅も1年半ほどで資金が尽きた。さぁ、明日からどうやって食べていこうかと考えながら、旅の間、何にお金と時間を使ってきたかを改めて分析すると、そのほとんどをアート、デザイン、エンターテインメントに費やしていたことがわかった。「自分が興味を持ってお金を払うものは一番好きなもの。それを仕事にしたいと、専門学校のデザイン学科に入ろうかなと思っていました」と笑う。

木村さんはセミリタイア前、観賞魚の世界のある分野でトップになったこともある。そこで培ったノウハウや知識(IQ:知性)と、大好きでこの数年時間とお金を費やした、アート、デザイン、エンターテインメント(EQ:感性)を融合させることが出来れば、世界中どこを探してもなかったものが作れると考えたのが今に至るアートアクアリウムのスタートだった。

DSC2426 アートアクアリウムアーティスト・木村英智氏が語る、大人になりたくないからこそできた、新しい“粋な”遊び方。木村さん自身の手で生み出され、進化してきたアートアクアリウム。

日本の伝統文化との融合から生まれた“新しい”アート

初回から4回目くらいまでのアートアクアリウムは、海の魚中心で金魚は2割くらいであった。しかし、世界からオファーを受け始め、今後の方向性を見つめた時に木村さんはひとつの決断をする。「アートアクアリウムは日本人である僕が、日本で作ったカテゴリー。漠然と作品を作るのではなく、日本の文化をそこに重ねていこう」と。そこで泳がせる魚を金魚や錦鯉に絞り、魚が泳ぐ器も和のものをモチーフにしていった。今では九谷焼や江戸切子など日本の伝統産業を組み合わせ、また、その会場に舞台を作って伝統芸能の方に舞ってもらうようにもなっていく。「アクアリウムというこれまで自分がやっていたものがクリエイティブにより昇華され、日本文化と融合することで、日本から発信する新しいアートとして創造されていったのです」と木村さんは語った。

花魁 アートアクアリウムアーティスト・木村英智氏が語る、大人になりたくないからこそできた、新しい“粋な”遊び方。巨大な金魚鉢の中で、金魚たちが艶やかに舞う『花魁』。

日本にないものを作る、という情熱

木村さんが総合プロデュースを手がけるコンコルソ・デレガンツァ京都は、日本で開催される数少ないコンクール・デレガンスの一つだ。

コンクール・デレガンスとは、クラシックカーの美を競うもの。海外ではアメリカ、カーメルにある有名ゴルフコース、ペブルビーチ・ゴルフリンクス18番ホールで開催されるペブルビーチ・コンクール・デレガンス、ヨーロッパではイタリアのコモ湖畔で開催されるコンコルソ・デレガンツァ・ヴィラデステが世界2大コンクールとして名を馳せる。ペブルビーチは約60年、ヴィラデステは90年近い歴史を誇る由緒正しきものだ。

DSC1301 アートアクアリウムアーティスト・木村英智氏が語る、大人になりたくないからこそできた、新しい“粋な”遊び方。コンコルソ・デレガンツァ京都2016の様子。

木村さんはこの京都で開催するコンクールを、アジアを代表する、世界に誇るコンクールに育て上げたいという目標を持っている。

しかし、なぜコンクールを手掛けようと思ったのか。「もともとクルマは好きでしたし、特にインテリアを含めたデザインに惹かれます。複数台所有しているクルマのほとんどは、そのスペックすら知らないんですよ(笑)」と木村さん。そして、コンクール・デレガンスは、「デザインやアート、そしてクルマの歴史の祭典という伝統文化など、僕がこの世界にハマる要素があるのです」と話す。

20180321_qetic-alfa-0030 アートアクアリウムアーティスト・木村英智氏が語る、大人になりたくないからこそできた、新しい“粋な”遊び方。

日本でのクラシックカーイベントの現状は、ラリーイベントがほとんどだ。中でもラ・フェスタ・ミッレミリアを木村さんはリスペクトしている。それは、「イベントとしてブランディングされ、世界(グローバル)ときちんとつながっているからです」。

しかし、コンクール・デレガンスは日本に存在せず、世界基準となるイベントに成長させようという人すらいないという。そこで、「僕が、現場を仕切れるエンスージアストとして、車文化を次世代につなぐ役割を期待されているのであれば、僕にそのお鉢が回ってきたのでしょう」と語る。

日本にないものを作る。これはまるで、アートアクアリウムのきっかけと同じではないか。そこは木村さんも認めたうえで、今回オープンした『水戯庵』も同様だという。

20180321_qetic-alfa-0066 アートアクアリウムアーティスト・木村英智氏が語る、大人になりたくないからこそできた、新しい“粋な”遊び方。『水戯庵』の店内に据えられた能舞台。能、狂言、日本舞踏といった日本の伝統芸能が夜毎演じられている。

新しい粋、格好いいを作りたい

木村さんは「伝統芸能の歴史を水戯庵が変えた」と考える。『水戯庵』では能舞台が常設され、そこに入れ替わり立ち変わり能楽を中心とした様々な日本の伝統芸能が流派の垣根を越え一年を通して立つが、その様な事は今までなかった。しかも、同じ空間で食事やドリンクを楽しめるのだ。現代の時流にあったライフスタイルと伝統芸能が絶妙に融和するこれまでにない新たな場所を遂に生み出したのだ。

20180321_qetic-alfa-0063 アートアクアリウムアーティスト・木村英智氏が語る、大人になりたくないからこそできた、新しい“粋な”遊び方。

「日本には何百年も続いているお家の宗家、お家元など、いくつもの流派が日々出演するライブハウスが存在しないのです。それを日本で初めて作りました。ブルーノートにジャズを聴きに行く。それと同じように、こういうところにすっと連れてこられたりするのは粋ではありませんか。そういう場所を作りたい。新しい格好いいを作りたいのです」と思いを語る。

20180321_qetic-alfa-0071 アートアクアリウムアーティスト・木村英智氏が語る、大人になりたくないからこそできた、新しい“粋な”遊び方。舞台を囲むのは、ゆったりとくつろぐことができるテーブル席。

「アートアクアリウムでいえば、観賞魚の業界にいる人をより格好良くしたい。コンコルソも、クルマが趣味ですといって、どういうのが趣味かと聞かれた時に、コンコルソ・デレガンツァとか知ってる?といいたいのかもしれないですね」と木村さんは楽しそうにいう。

そして、「そういうことをやっていく本人(つまり木村さん)が、粋だね、格好いいねと思いながら、そこに自分が許せる範囲のお金と時間を注ぎ込めるかどうかで、そういったものが生きながらえていくのか、息絶えるのかが決まるのです。もちろん、そこで遊ぶ人を格好いいと思う人がいないと仕方がないのですけどね。でも、そういったものを生み出し続けるというのが僕のやっていることなんです」と述べた。

つまり、木村さんのキーワードは“大人になりたくない”、 “日本文化”、そして“格好良さ”というもので、いかに粋に遊べる場所を作るか、それを極めていっているのだ。

カロッツェリア・トゥーリングの“粋な”生きざま

最後に、コンコルソ・デレガンツァ京都2018の見どころを語ってもらおう。「今年のテーマはカロッツェリア・トゥーリングで、イタリアのムゼオ・ストーリコ・アルファ ロメオ(アルファ ロメオ歴史博物館)から歴史遺産の“ディスコ・ヴォランテ(空飛ぶ円盤)”として知られる「1900 C52 Coupé(クーペ)」がやってきます。同時に、のちの8Cをベースにトゥーリングが作った8Cディスコ・ヴォランテも3台展示しますので、そのコーナーは一番の見どころになるでしょう」。

また木村さんは過去アルファ ロメオ164を複数台乗り継ぎ、現在も同SZとRZを所有するほどのアルファ好きでもある。デザインにこだわる木村さんも、アルファの魅力はエンジンだとコメント。「乗る喜び、どこまでも滑らかに吹き上がっていくエンジンの良さは魅力です。古くからのレースの歴史を踏まえ、走る喜びを持っていますね」といつまでも乗っていたい様子だ。

DSC4491のコピー アートアクアリウムアーティスト・木村英智氏が語る、大人になりたくないからこそできた、新しい“粋な”遊び方。“怪物”の異名を持つ、アルファ ロメオSZ(Sprint Zagato)。

DSC4310のコピー アートアクアリウムアーティスト・木村英智氏が語る、大人になりたくないからこそできた、新しい“粋な”遊び方。アルファ ロメオRZ(Roadster Zagato)。

さて、今年のテーマであるカロッツェリア・トゥーリングは、1926年3月25日にイタリアのミラノに設立されたカロッツェリア(※イタリア語で乗用車のボディをデザイン・製造する業者のこと)で、戦前から多くのアルファ ロメオのボディを作成。そのデザインは非常にエレガントで一世を風靡した。さらに戦後では超軽量ボディのスーパーレッジェーラ工法を編み出し特許を取得。今回展示されるアルファ ロメオC52ディスコ・ヴォランテをはじめ、フェラーリやマセラティ、アストンマーティンなど多くのメーカーのボディを手掛けている。

今回そのカロッツェリア・トゥーリングを選んだ理由について、木村さんはその歴史に触れる。「世界のコンクール・デレガンスを見ていくと、カロッツェリア・トゥーリングが一番エレガントに見えます。さらに、カロッツェリア・トゥーリングは1960年代に一度活動を休止するのです。ちょうど大量生産時代になり、カロッツェリアが不要な時代でした。ピニンファリーナやザガートはデザインオフィスとして職を変えて生き長らえましたが、カロッツェリア・トゥーリングは、自分たちがこれまでやってきたカロッツェリアとしての仕事が全う出来ないのであれば、職替えまでして自分たちの名前は残さないと一度幕を閉じたのです。だから僕は一番トゥーリングが好きなのです」と述べた。

20180321_qetic-alfa-0026 アートアクアリウムアーティスト・木村英智氏が語る、大人になりたくないからこそできた、新しい“粋な”遊び方。

コンコルソ・デレガンツァ京都2018には、ほかにもアルファ ロメオ6C2500SSベルリネッタや、フェラーリ166インターなど宝石のような名車が、世界文化遺産の元離宮二条城の非公開エリア、二の丸御殿中庭などに集結する。

アートアクアリウム、コンコルソ・デレガンツァ、『水戯庵』……、木村さんの提案する“粋な遊び場”をあなたも一度体感してみてはいかがだろうか。

DSC1429 アートアクアリウムアーティスト・木村英智氏が語る、大人になりたくないからこそできた、新しい“粋な”遊び方。コンコルソ・デレガンツァ京都2016の様子。

INFORMATION
コンコルソ・デレガンツァ京都2018

日程 2018年3月30日(金)〜4月2日(月)
会場 元離宮二条城
主催 京都市、コンコルソデレガンツァ京都2018実行委員会
問い合わせ先 050-5542-8600
URL http://concorsodeleganza.jp/

 

アートアクアリウム

URL http://artaquarium.jp/

 

水戯庵

所在地 東京都中央区日本橋室町2-5-10 B1F
営業時間 11:30〜24:00
TEL 03-3527-9378
URL https://suigian.jp/

Text:内田俊一(Shunichi Uchida)
Photos:大石隼人

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