alfawoman 2021.03.25

トップモデル・冨永愛、私たちが持つ無限の可能性を語る

冨永愛氏は、日本を代表するトップモデルだ。17歳でニューヨークコレクションにデビューして以来、国際的な舞台で活躍。出産後、しばらくモデル業界の一線からは退いていたが、2020年には10年ぶりにパリコレクションに復帰を果たした。社会貢献にも尽力していることでも知られている。また、2011年からアンバサダーを務めている、国際協力NGOジョイセフ(JOICFP)での活動は冨永氏のライフワークとなっている。2019年には、SDGs関連の広報大使・エシカルライフスタイルSDGsアンバサダー(消費者庁)に就任した。そんな冨永氏は国際社会のなかで、どのように自分を築いてきたのだろうか。社会活動のこと、そして、女性がより自分らしく生きるための方法についても話を聞いた。

誰かのために何かができるのは幸せなこと

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冨永愛氏が、環境問題や社会問題に関心を抱くようになったのは、2005年に出産を経験し、守るべき、そして次世代を担っていく存在ができたことに加え、モデルという仕事から受けた影響も大きかったという。

「ファッションウィークなどで海外に行くと、必ず誰かが社会に対して問題定義しているんです。恵まれた環境にいる人が、社会活動を行うのは海外では当たり前のことです。流行の先端であるファッションの業界から何かを変えていくのはとても大切なことだと、自然と自分も何かしたいと思うようになりました」

冨永氏が国際協力NGOジョイセフのアンバサダーとなったのは、2011年にさかのぼる。以来、さまざまな社会活動に携わり、2019年に、消費者庁のエシカルライフスタイルSDGsアンバサダーに就任し、シンポジウムやイベントへの出席や講演の実施など、国際目標であるSDGsを達成するための活動を行なっている。

「社会貢献は呼吸をするように、私の生活に当たり前のようにあるものです。誰かのために何かができるのは幸せなことですし、自分の人生がより豊かになっているとも考えています。最近はインターネットを通して、1、2クリックで誰でも気軽に支援が行えるようになり、社会貢献がより身近になった気がします」

競い合う時期と競い合わない時期、どちらもあっていい

世界の第一線でトップモデルとして活躍する冨永氏は、世界における日本人女性の立ち位置をどのように考えているのだろうか。世界経済フォーラムが毎年発表している、男女格差を測る上で指標となる『グローバル・ジェンダーギャップ・レポート』では、日本は153カ国中121位。先進国では最低ランクとなっている。

「非常に低いですね。ただ、実はファッション業界にいると、女性であることの閉塞感はあまりないです。雑誌の編集長も女性の方が多いですし、ファッション業界では多くのセクシャルマイノリティーが活躍されています。ジェンダーに関してはもっとも先進的な業界だと思います。ただこればかりは環境によって違うので……。苦しんでいる方が多くいらっしゃるのも知っています」

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それでもダイバーシティーという言葉が今のように一般化する前には、国籍や肌の色による壁を感じたこともあれば、差別を受けたこともあるという。

「闘い甲斐はありましたし、その経験があるから今までやってこられたのだと思っています(笑)。負けず嫌いな性格なので、めげることはありませんでした」

10、20代は、「とにかく競い合っていたし、その勝負に勝つことが大切でした」と語る冨永氏。だが、「今は競い合うことよりも、自分のなかの豊かさが大事だと思っています。コロナ禍の今、自分の内面に目を向け始めている人は多いのではないでしょうか。人生において、競い合う時期、競い合わない時期、どちらもあっていいと思うんです」。

イギリスの絵本の翻訳にも挑戦

こうして冨永氏は自らの人生、そして、日本人モデルの世界への道を切り拓いていった。2005年に長男を出産。「子どもとの時間が大切になったので」と、一時、ランウェイから距離を置くが、2020年には10年ぶりにパリコレに復帰を果たす。その理由をたずねると、「シンプルにやりたくなったからです」と気さくな笑顔を見せた。

「子育てがひと段落して、あの臨場感を味わいたい、ランウェイに立つことで今を実感したいと思ったんです。10年ぶりに見た景色ですか?変わってなかったですね(笑)。そうそうこの景色だよねって懐かしさを感じました」

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同時に劇的な変化も感じ取ったという。

「労働環境は10年前よりも良くなっていましたし、肌の色や年齢などを問わずに活躍できる土壌──、それこそダイバーシティーの広がりを感じました」

少し前の考え方だと、モデルとして活躍できるのは、10代から20代という認識が主体だったが、「年齢による限界はなくなりつつあると感じています」。

2020年、冨永氏はもうひとつ大きな挑戦をした。2018年にイギリスで出版された絵本『Girls Can Do Anything』(文:キャリル・ハート/絵:アリー・パイ)を翻訳し、『女の子はなんでもできる!』(早川書房)を上梓している。

世界中の女の子の無限の可能性を描いた同作を、冨永氏は、「子どもだけでなく、大人も元気づけられるとても素敵な絵本です」と紹介する。

「翻訳は初めてでしたが、半年くらいじっくり時間をかけて取り組ませてもらいました」

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そう、翻訳は英語をそのまま日本語に訳せばいいというものではない。

「子どもに伝わりやすい言葉を選び、リズムにもこだわりました。金子みすゞさんからインスパイアされたフレーズも使うことで、日本の文化も取り入れています(笑)。英語を直訳しただけでは伝わらない言葉もありますし、百通り以上の日本語の言いまわしがあるフレーズもあります。たくさんの選択肢の中から言葉を選ぶのは、とても難しかったけれど、同時に興味深い体験でもありました」

原作の持つ力はもちろん、日本語に訳された本の随所に、訳者である冨永氏の思いがあふれている。ほかにも特徴的なところがある。「〜〜だわ」「〜〜なの」といった俗にいう“女の子ことば”はまったく出てこない。

「ジェンダーを感じさせる言葉を、使いたくありませんでした。どちらかというとかっこいい言葉を使うことを意識して、ジェンダーや国籍を超え、たくさんの子どもたちに響くような言葉を選んだつもりです」

『女の子はなんでもできる!』には大人がどきっとするような言葉も隠れている。男性が子どもに読み聞かせしても発見があるはずだ。自分の子ども時代に思いを馳せる人もいるだろう。

「そう言っていただけるとうれしいです。英語と読み比べても、面白いかもしれませんよ」

生きている限り、私たちは未知数

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絵本には、「あなたはこれから何をしてみたい?」という印象的な言葉がある。冨永氏にその言葉を投げかけてみた。これから何をしてみたいですか──? 

「大きな夢は世界平和です。目標はモデルを続けていくことです。表現は無限です。さきほど年を重ねることは敵だとも言いましたが(笑)、経験を積んだ今は若い頃にはできなかった表現ができます。年齢を重ねることでできなくなることはもちろんありますが、私はできることのほうが増えていくと思いたいですし、そう信じています。まだまだだなと思うことばかりです。もっとできるはずだと思いながら、毎日を生きています」

冨永氏は少し硬い質問にも、雑談のような質問にも気さくに軽やかに答える。使い古されたフレーズで恐縮だが、“自然体”という言葉が脳裏に浮かんだ。そう、きっと多くの人が冨永氏に持つイメージそのままだ。思わず、「とても人生を楽しんでいるようにお見受けします。悩みってあるんですか」と少し不躾な質問をすると、「もちろん人間ですからありますよ」とにっこりと微笑んだ。

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冨永愛氏着用:トップス、パンツ、ベルト/ISABEL MARANT(イザベル マラン 03-5772-0412)ピアス/SHIHARA(シハラ ラボ 03-3486-1922)ブレスレット/MESSHIKA(メシカ ブティック 日本橋三越本店 本館6館 03-6262-7688)パンプス/Sergio Rossi(セルジオ ロッシ カスタマーサービス 0570-016600)

「でも切り替えは早いです。悩んでいる時間がもったいない、悩んでいるよりも前進したいと思ってしまうんです(笑)」

そう語る冨永氏は、しっかりと地に足をつけ、自分の人生を歩いている人が持つ、独特な美しさを有している。インタビューの最後に、そんな彼女に自分らしい生き方を模索する女性たちへのメッセージをもらった。

「自分で自分に制限をかけるのをやめてみてはどうでしょうか。じつはこの言葉は、私が子育て中にある方からいただいた言葉なんです。子どもの才能は未知数で無限の可能性を秘めている、だから親が制限をかけてはいけないと言われました。これは、大人の女性、いえ、世界中の人々にあてはまる言葉だと思うんです。親であることや、ジェンダー、国籍、そして年齢で、自分に制限をかける必要はありません。生きている限り、私たちは未知数なのですから」

Text:aya hasegawa
Photos:Kei Ogata / Hisho Hamagami
Stylist:Rena Semba
Makeup:Yuka Washizu / Norikata Noda
Hair:Dai Michishita
撮影協力:ヒルトン東京お台場

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