alfawoman 2021.02.02

吉本ばななが語る、自分の世界を守り抜く決意。

デビュー作の『キッチン』は社会現象ともいえる大ヒットを博し、その後も発表する小説が立て続けにさまざまな文学賞を受賞。瞬く間に時代の寵児となる。吉本ばなな氏の人気は日本にとどまらない。彼女の作品は30を超える国で翻訳されており、とりわけイタリアでは爆発的な人気を誇る。デビュー時から独自の世界を確立し、“自分らしさ”をしなやかに貫き続けている吉本氏。その世界観と魅力を、彼女と親交のあるFCAジャパン マーケティング本部長、ティツィアナ・アランプレセ氏との会話から紐解いていく。

文化人ではなく職人の家で育った

5歳の時に作家になることを決めたと、吉本氏はさまざまなインタビューで名言している。父親は文芸評論家の吉本隆明氏、7歳年上の姉は絵がとてもうまく後に漫画家(ハルノ宵子氏)としてデビューするという、ある種特殊な環境が、吉本氏にどんな影響を与えたかとアランプレセ氏は問いかける。

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▲吉本ばなな氏

「祖父は木で船を作る職人だったんです。父親も職人気質で、家の奥の書斎ではなく、玄関の脇の部屋で執筆することを好む人でした。私は文化人の家というよりも職人の家で育ったと思っていますし、父と祖父の影響は強く受けています」

日本では、文芸評論家はやがて大学で教えるようになることが多いというが、隆明氏は、どんなに誘われても、大学教授になることはなかったという。「今でもすごいことだと思っているし、尊敬しています」と語る彼女もまた、父親と同じスピリットを守り続けている。

「大学やサロンなどある特定の階層に属すると、ほかの階層に入っていくことができなくなってしまいます。それは私にとって小説が書けなくなることを意味します」

自分が社会の中でどの位置にいたいかという気持ちがぶれたことは一度もないと、穏やかな口調ながらもきっぱりと言い切る吉本氏に、アランプレセ氏は、「自由、そして、パッションのためにアカデミックなことを断った──、ばななさんらしいですね」と語りかける。

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▲FCAジャパン マーケティング本部長 ティツィアナ・アランプレセ氏

「いろいろな方に『文学賞の審査員になりなさい』、『大学で教えなさい』といったことを言われましたが、器用にいろいろできないので、小説を書くという自分の活動に制限がかかることはすべて排除してきました。ただ、拒み続けるのもつらいんですよ(笑)」

自分にしか書けないものを書きたいと思い続けてきた。だからこそ、「山田詠美さんや金原ひとみさんなど、作風は違っても、独自の道を歩み、独自の世界を描いている人に、シンパシーや興味を覚えます」

アランプレセ氏は、『キッチン』から現在に至るまでに、吉本氏に起こった変化についても尋ねた。

「子どもを産んでから、小説の中で、簡単に人を殺せなくなりました。以前はもっと大胆に人が死んで物語を展開させていたのですが、少し書き方を変えました。でも今、『キッチン』を読み返しても、根本のところは変わっていないんですよね。むしろ戻っている気がするんです、昔の作品に」

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▲『キッチン』

自然に“進化”を受け入れる

デビュー時も現在も「やっていることは同じ」(吉本氏)だが、私たちをとりまく環境は大きく変化した。ブログを頻繁に更新。Noteでも『どくだみちゃんとふしばな』を配信するなど、積極的にインターネットを活用している。

「ネット上で直接話せるようになったのはとても大きなことです。もちろんさまざまな問題はありますが、進化は自然なかたちで受け入れていきたいと思っています。昔のほうが良かったこともあるかもしれませんが、より便利になって救われていることもたくさんあります。私はそういったところをきちんと見ていきたいんです」

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通信の発達によって、選択肢は大きく広がった。

「今は学校を頼らず、自分自身で学ぶことができます。いずれは学校を捨てる人が増えてくると思います。息子は、小学校一年生まではインターナショナルスクールに通っていましたが、ある時、すべてを捨てました。私は、学校には通っていましたが、自分の中では放棄をしていました。同じ教科書の同じページをどうしてみんなで一緒に読まなければならないのか、まったく理解できなかったんです。自分ができなかったことを、人に強要することはできません」

吉本氏はぶれない。時に代償を払いながらも、自らの信念を守り通して今日がある。彼女は、チャレンジをしたいと思いながら、なかなか第一歩が踏み出せずにいる人にこんなメッセージを贈る。

「急にすべてを変えることができないのなら、せめて家の中では、自分のやりたいように、自由に振舞えばいいと思うんです。家の中でも誰かに見られているかのように行動する人も多いですが、まずはそこから始めてみてはいかがでしょうか。新しい何かが始まると思います」

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イタリアとの付き合いは20年以上に

冒頭でも触れたが、吉本氏とイタリアは関わりが深い。カプリ賞(1987年に創設された、優れた作家や芸術家らに贈られるイタリアの文学賞)をはじめ、さまざまな文学賞も受賞している。

「イタリアで、みなさんの前でお話しをさせていただくことがあるのですが、20年前も今も会場に来てくださるのは若い方が多いんです。つまり、もう世代が引きつがれているんですよね。イタリアとの付き合いが深く、長くなったことを実感しました」

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イタリアで自身の作品が愛されていることを、吉本氏はこう分析する。

「“家族”というテーマでしょうか」

吉本氏は作品のなかで、血縁のある“家族”に限らず、さまざまなかたちの“家族”を描きだしている。それが、イタリア人の国民性に合っているのかもしれないと語る。

「また、少し前に、イタリア語で『キッチン』を朗読したのですが、イタリア語の形容詞の種類の多さに驚きました。訳してくださった方の才能に拠るところも大きいなと改めて感謝しました」

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その後、吉本氏とアランプレセ氏は、しばしイタリア談義に話を咲かせた。そのなかで印象的だったのは、イタリアで見かけるアルファ ロメオの印象だ。

「イタリアで見かけるアルファ ロメオはやはりかっこいいですよね。イタリア人って、あまりきれいに車に乗らないじゃないですか(笑)。駐車も縦列駐車にさらに縦列駐車を重ね、最初に止めた人はもはや出ることができない状況になっています(笑)。そんな中で鍛えられたアルファ ロメオを見ると、イタリアに来ていることを実感します」

愛のあるお金の使い方をしたい

吉本氏から発せられる言葉は理知的で、それでいてその世界観は彼女が紡ぎだす作品に似ている。そして、その根底には彼女が抱いている雄大な愛が見え隠れする。

アランプレセ氏は、Alfa womanのインタビューには欠かせない質問を口にした。

「ばななさんにとってloveとはなんですか?」

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そのアンサーは、私たちの予想をはるかに凌駕する、また、一時代を築き、独自の世界を歩み続ける吉本氏らしさにもあふれるものだった。

「自然の中で、loveはひとつの大きな力だと思っています。経済的な話になりますが、自分で稼いだお金の使い道を考えていくにあたって、これからの時代はloveが重要になってくるのではないでしょうか。もっと自分が本当に好きなものに、お金をかけることが大切な時代になってくると考えています。そう言うと、『私は収入が少ないのでこれくらいしかできない』とおっしゃる方が多いのですが、ほかの何かを切り詰めれば、ある程度、好きなことにお金は回せるはずです」

吉本氏自身は、クルマにしろ食材にしろ、その根本に賛同できるものにしかお金を使いたくないという。

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「お金を使うことをもっと慎重に考えたいです。それが今の私にとって、そして、これから生きていく上でとても大切なことだと思うんです」

女性とお金──。自分らしく生きてくために避けては通れないこのモチーフは、今回、吉本氏が、愛とジュリエッタ(Giulietta)を題材に、アルファ ロメオのために書き下ろしてくれた掌編『私の赤い車』にもつながっていく。

「たとえローンであったとしても、自分のお金でジュリエッタに乗れるのは、ある程度、自分で道を切り開いてきた女性だと思うんです。そんなジュリエッタのイメージに、ヴェローナの街の思い出を重ねました」

自分の欲しいものにお金を使うこと、それはひとつの、そして美しいloveのかたちだ。『私の赤い車』は、もっと自由に、もっと自分らしく生きたいと願う女性たちへの、吉本氏からのメッセージでもある。いや、小難しいことは考えず、“吉本ばなな”という世界に二つとしてない、ジャンルの物語を堪能してほしい。

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Interviewer:FCAジャパン株式会社
マーケティング本部長
ティツィアナ・アランプレセ

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Text: 長谷川あや
Photo:大石隼土

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