alfawoman 2021.04.30

ピッチを駆けて、私は変わる。ブラインドサッカー選手・鈴木里佳が目指す“誰もが対等”な場所

近年盛り上がりを見せるパラスポーツ。なかでも、ブラインドサッカーは、その競技性と思わず息を呑む迫力のプレーで注目を集めている。インクルーシビティを理念に掲げるFCAジャパンでは、2011年より日本ブラインドサッカー協会とパートナーシップを契約。以降継続的な支援を行ってきた。今回は、女子日本代表キャプテン・鈴木里佳選手を招き、FCAジャパン マーケティング本部長、ティツィアナ・アランプレセ氏によるインタビューを実施。多様性を認め、互いを支え合うことで形づくられる目指すべき社会の在り方を、両者を強く結びつけてきたブラインドサッカーとアルファ ロメオの哲学を軸に語り合っていただいた。

それまでの“当たり前”を一瞬で覆した、ブラインドサッカーとの出会い

95P0341w ピッチを駆けて、私は変わる。ブラインドサッカー選手・鈴木里佳が目指す“誰もが対等”な場所
©︎JBFA/H.Wanibe

2017年4月に発足したブラインドサッカー女子日本代表。そのキャプテンを務めるのが、宮城県のブラインドサッカーチーム・コルジャ仙台ブラインドサッカークラブに所属する鈴木里佳選手だ。現在、障がいを持つ子どもたちが通う施設に勤務する傍ら、まだ競技人口の少ない日本女子ブラインドサッカーのアイコン的存在として積極的に活動を続けている。

彼女がブラインドサッカーに出会ったのは、大学入学時のこと。生まれつき視力が極端に低く、ときに介助を必要とする生活を送るなかで抱えていた苦い思いが、将来への道筋を照らすきっかけになったという。

「中学生の時、視覚障がいがあることで“周りから認めてもらえない”と感じたことがあって、その状況がイヤで仕方がありませんでした。卒業後は一般の高校に進学し、健常者と一緒に生活をしてくためにはどうしたらいいのかと考えると同時に、自分が経験した苦い経験を他の人にはしてほしくないという想いから、福祉の仕事に就きたいという気持ちを持つようになりました。大学は、自分と同じ視覚障がいがある人のことを知りたいと思い、茨城県の筑波技術大学に進学。そこで先輩に誘われて初めてブラインドサッカーを観戦したのですが、弱視の私はまったく見えない状態でなにかをすることに慣れているわけではなかったので、“どうしてなにも見えない状況でこんなに走れるんだろう?”と最初は驚くばかりでした」

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目が見えなければ、サッカーは出来ない。ブラインドサッカーとの出会いは、そんな彼女にとっての当たり前を一瞬で覆す出来事だった。以降、サポートスタッフとして活動に参加。声を出して選手にゴールの位置やシュートのタイミングを伝える“ガイド(コーラー)”として直接試合に関わることも増えていった。大学卒業後は地元・宮城県に戻り、ブラインドサッカーの活動は続けつつ機能訓練指導員として高齢者施設に勤務。しかし、仕事をするうえでの気掛かりや焦りから、気持ちが落ち込むことが次第に多くなっていたという。

“こんな自分を変えたい”、そう感じる彼女の背中を押すように、ひとつのニュースが舞い込む。それは、ブラインドサッカーの女子代表チームが発足するという知らせだった。鈴木選手がピッチに立つことを決意したその年、女子日本代表チームが発足。同年に開かれた女子初の国際大会でチームは見事優勝を果たし、強豪国としてその存在を示すことになった。

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「女性がスポーツで活躍できる環境は、多くありません。それは世界中の問題です。特に今の日本には、社会的なジェンダーの問題に加えてスポーツ界で解決しなければならない差別のテーマもあります。そして、あなたには身体的な面でのチャレンジもあった。つねに挑戦し続けるあなたの情熱の源は、どこにありますか?」アランプレセ氏からのこの問いかけに、鈴木選手はまっすぐに答えた。

「ずっと自分を変えたいという気持ちがあるなかで、ひとつの挑戦としてブラインドサッカーの選手になろうと決意しました。今、私がブラインドサッカーに情熱を注げるのは、学生時代に感じた”みんなと同じ立場でいたい”という想いと、誰もが安心して同じ立場で過ごせる場所を作りたいという気持ちです。ブラインドサッカーを多くの人に知っていただくことで、障がい者への理解を深めるきっかけづくりをしたり、視覚障がいのある方に向けてブラインドサッカーは人生を変えられるスポーツだと発信していけたらと思っています」

“競技とエンジョイ”2つのカテゴリを作ることで将来につなげていきたい

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スポーツ界でもジェンダーの平等性についての議論が進むとともに、パラスポーツへの関心も年々高まりを見せているが、ブラインドサッカーの世界は未だ女子の競技人口が男子のそれに満たないのが現実だ。この点について鈴木選手自身も、「日本の競技環境でいうと、女子は男子の中に混ざってプレーしているのが現状。ブラインドサッカーをより広めていくためにも今後より一層女子の活躍が大事だと思っています」と語っている。

アルファ ロメオでは、”すべての人が、自分らしく生きていける社会の実現”を目指し、“Be yourself”をテーマとした社会活動の一環として2011年より日本ブラインドサッカー協会(JBFA)の支援をスタート。女子日本代表チームについても発足当初からパートナーシップを築いてきた。長きにわたりブラインドサッカーの発展をサポートしてきた観点から、アランプレセ氏は女子チームの現状をこう指摘する。「女子サッカーのムーブメントは国際的なものです。しかし、サッカーだけではなくどこの分野でも素晴らしい結果を出しているのに女性のランキングは低い。このことを里佳さんはどう感じていますか?」

この点について鈴木選手は、国際試合での交流を通じて知った海外の競技環境をひとつの好例に、今後は競技人口を拡大していく必要性、そして、ブラインドサッカー発展に向けた明確なビジョンについて語ってくれた。

合宿写真 ピッチを駆けて、私は変わる。ブラインドサッカー選手・鈴木里佳が目指す“誰もが対等”な場所
©︎JBFA

「ブラインドサッカーの話をすると、今の日本は女子チーム=日本代表チームだけなんですが、たとえばアルゼンチンには女子だけのチームが4つほどあってリーグ戦もやっていたりするそうです。今後日本でもっと女子のカテゴリを発展させていくためには、プレー人口を増やすことが必要だと考えています。趣味として楽しみたいという人もいると思うので、”競技とエンジョイ”その2つのカテゴリを作ることが出来れば、ゆくゆくは競技人口も増えていくのかなと。そのためにまずは、いろんな方にブラインドサッカーを知ってもらって、体験会などをきっかけに挑戦してもらえる環境を積極的に作っていきたいです」

ピッチでの“自由”、主導的に考えなければいいプレーは生まれない

「ブラインドサッカーは、視覚障がいのある人とそうでない人が対等な立場で協力して行うスポーツ」という鈴木選手の言葉のとおり、競技の根底にあるインクルーシビティが最大の特徴にして魅力と言えるだろう。選手としてピッチに立つ。その経験は、普段の生活で実感することが難しい“自由”を彼女に体感させたという。

「普段誰かの助けを借りながら行動することが多いなか、プレー中は自分たちで考えて動くことが多いので、そういう意味で自由さを感じます。ピッチの中では主導的に考えなければいいプレーは生まれないので、そういった面を実生活でも生かして、どうすれば気持ちが上に向くのかを考えていけたらと思っています」

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日常生活を送るうえで、ハンディキャップが選択の基軸になるのは必然かもしれない。しかし、歩むべき道を見つめ一歩を踏み出す勇気の源流は、ほかでもない彼女の人間力だ。チームメイトは「鈴木選手がいるとチームの中のバランスがすごくいい気がする」と評している。では、鈴木選手が感じる自分らしさと理想とする人間像とはどんなものだろうか?

「私にとっての理想は、自分を大切にできること。自己中心的にということではなくて自分の良さも悪さも理解して発揮できる、それが理想の人間像・女性像です。そうすることで他の人のことも思いやれたり、愛することができるんじゃないかなって。自分らしさというところでいうと、周りを見ることが得意なので、“この人には今なにが必要なのかな”って考えたり、優しくしたいという気持ちで人に接するところが自分らしさなのかなと思っています」

自分自身を深く理解し他人を思いやる、精神的な美しさ。“Be yourself”とも強いつながりを感じさせるテーマに深い共感を寄せたアランプレセ氏は、もうひとつ「里佳さんにとって、今どんなことが支えになっていますか?」 という質問を投げかけた。

スクリーンショット ピッチを駆けて、私は変わる。ブラインドサッカー選手・鈴木里佳が目指す“誰もが対等”な場所
▲インタビューはオンラインにて行われた

「今、女子日本代表は試合の数も少ないんですけれど、横断幕や選手一人一人の応援歌を作って応援してくださるサポーターの方やボランティアで来てくださるスタッフの方たちがたくさんいて。私たちはもしかしたらレベルはまだ低いかもしれないけれど、支えてくださる方たちがいることはやっぱりとても嬉しいことですし、それに応えたいという気持ちです。発足当初からサポートしてくださっているアルファ ロメオさんにもいい報告を出来るようにがんばりたいと思っています」

この言葉にアランプレセ氏は、「チームにアソシエーション出来たことは、私たちにとって興奮することでした。たくさんの希望があったし、だからこそこの4年間のあいだにみなさんは成長出来た。それは、アルファウーマンが掲げる“情熱・美しさ・チャレンジ・自分らしさ”という哲学すべてに通じています」と顔をほころばせた。

最後に、いつかの自分と同じように“変わりたい”と願っている人へ向けられた鈴木選手からのメッセージをお届けしよう。

「これまでブラインドサッカーでも仕事でもいろいろな経験をしましたが、今は回り道をしてもいいのかなって思っています。目標やゴールにたどり着くまでにいろんな経験をしたいし、いろいろな選択肢があるなかで、数年後に自分がこの道を選んでよかったなと思える道を選べるように、今なにをしたらいいのかなって悩んでいる方がいらっしゃれば、少し回り道をしても自分が数年後に納得のいく選択をしてほしいなと思います」

日本女子ブラインドサッカーの歴史はまだ始まったばかりだ。だからこそ、これまでの“普通”が通用しない大番狂わせを起こせるだけのポテンシャルを予感させるワクワク感に溢れている。ピッチにいる者同士が声を掛け合ながらゴールを目指すように、仲間からのポジティブな言葉とまっすぐな気持ちを道しるべに、鈴木選手は実現したい世界に向かって走り出している。

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©︎JBFA/H.Wanibe

Interviewer:FCAジャパン株式会社
マーケティング本部長
ティツィアナ・アランプレセ

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Text:野中美咲(NaNo.works)

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