alfawoman 2020.09.03

自分の物語を生きる人へ。作家・甘糟りり子が描く、Be yourself.と美しさの本質

都会的な視点で人生の機微を丁寧に紡ぐ作家・甘糟りり子氏。都市での日常がはらむ、きらめきとほろ苦さを鮮やかに描きだす作風は、現代を生きる女性の共感を呼んでいる。プライベートでは、6台のアルファ ロメオを乗り継いできた生粋のアルフィスタだ。甘糟氏の住まいがある鎌倉にて、FCAジャパンマーケティング本部長のティツィアナ・アランプレセ氏をインタビュアーに迎え、甘糟氏が感じるアルファ ロメオの魅力、そして現代に生きる女性の物語を執筆してきた作家の視点で自分らしく生きることと、歳を重ねたからこそたどり着いた“美しさ”の本質について語っていただいた。

助手席では味わうことができない、感覚に訴えかけるクルマの魅力

20200731_qetic-alfaw-0105 自分の物語を生きる人へ。作家・甘糟りり子が描く、Be yourself.と美しさの本質
▲甘糟りり子氏

「私が最初にアルファ ロメオに乗ったのは25年ほど前ですが、当時は女性が乗っているというだけで珍しがられたんですよ。そのアルファ ロメオが、今やはっきりと女性に向けて発信しているのはとても嬉しいですね」
長雨の空に晴れ間がのぞいた7月某日。甘糟氏が暮らす鎌倉でのインタビューは、自身とアルファ ロメオとの出会いのエピソードから始まった。

「若いときはいろんなことを経験したくて、1年に1台のペースで中古の輸入車をどんどん乗り換えていました。ある日、アルファ ロメオのセダンがあるよと声を掛けられて、見に行きました。車体より何より、エンブレムから目が離せなくなっちゃって。だって人を飲み込む大蛇ですよ。これ、かつてはミラノ市を統治していたヴィスコンティ家の紋章なんですよね。それと今のミラノ市章を組み合わせたエンブレムの虜になりました。このエンブレムがついた雑貨やアルファ ロメオのレーシングチームの象徴であるクアドリフォリオのキーホルダーも集めていましたよ」

作家デビュー以前は、雑誌スタッフとして活動していた。初めて自分の名前で原稿を発表したのは、『OP』という雑誌だった。自動車を通して社会やカルチャーに触れる新しいスタイルを打ち立てた雑誌『NAVI』の別冊である。その後、『NAVI』や『ENGINE』でも原稿を発表するようになる。公私ともにクルマとは密接な関係にあった当時の甘糟氏の編集担当は、松本葉氏だったそう。

著書にも度々クルマに関する話題は登場する。女性モータージャーナリストの仕事と純愛を描いた『真空管(文藝春秋文庫/2008年)』では、スピードがもたらす高揚感とクルマの奥深さが著者自身の体感に基づいて語られている。プライベートでは、これまでに164スパイダー156 GTAブレラ156スポーツワゴンジュリエッタと計6台を乗り継いできた。「クルマの魅力って、いかに便利か、完成された機械であるか、ということではないと思います」。甘糟氏がクルマに求めることは、アルファ ロメオの哲学である“La meccanica delle emozioni(感情の力学)”にも共鳴している。

「6台すべてに共通する魅力もあるし、それぞれの個性もあって。なかでも特に、スパイダーが好きでしたね。昔はアルファ ロメオに乗っている女性が珍しかったせいか、街で同じアルファ乗りに遭遇すると、必ず声をかけられたり、合図のクラクションを鳴らされたり。156 GTA は黒いマニュアル車で、いわゆる走り屋が乗るようなタイプ。高速道路でうしろにピタッとくっつかれたこともあります。男性はよく数字で車を語りたがりますが、私は数字より何よりたたずまいが大切。停まっているときでも走っているような、周りの景色が飛んでいるように見えるクルマが好き。車は自分の背景だと思ってます。動く背景。それを自分で動かすのが運転の醍醐味だと思うので、やっぱり助手席ではなく運転席に座りたいですよね」

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自動車=男性的という見方がまだ当たり前だった時代、『ローマの休日』や『卒業』といった名作映画で目にする美しく官能的なイタリア車に恋する乙女は数多くいようとも、甘糟氏のように「運転することでその国の文化を知ることができるから」と、颯爽とハンドルを切る女性は稀な存在だった。いわゆる“大衆の感覚”に流されることなく研ぎ澄まされた美的センス。そこには、どんなときも自分らしく生きているBe yourself.の観念が息づいている。

「世間の評価でなくて、自分が好きかどうかをもっと優先していいんじゃないかな。自分がピンと来たかどうかって大事だと思います。何にピンとくるかって、その人を物語っていますよね。若い頃、乗っている車で男性を選ぶと書いて批判された経験があるのですが、車でその人の経済状況を測ろうというわけではないんです。車のセレクトもその人の個性だと言いたかった。なにを食べて、なにを着て、どんな映画を観てどんな本を読んでいるか、全部その人らしさをつくる要素だと思うので」

妊娠・出産だけが女性の“唯一無二”ではない

「甘糟さんは言葉が意識の外にはみ出ているから、物語が書けると思う」。名物編集者として知られる石原正康氏から掛けられたその言葉が、モノ書きとしての転機になった。“24時間ずっと取材をしているという感覚でなければ、物語は生まれない”と、小説家としてデビューしてからは自分の感じた物事を物語として昇華することに日々情熱を注いできた。

デビュー作『甘い雨のなかで(幻冬舎文庫/2000年)』をはじめ、オシャレに彩られた“街で生きる女の子”の物語を描いてきたトレンドセッターの目は、自身のライフステージの変化もあり、次第に“若くなくなった女性がどう生きているのか”を追いかけるようになったという。その後、『中年前夜(小学館文庫/2010年)』『エストロゲン(小学館文庫/2016年)』等、壮年期の女性をテーマにした作品を発表。エッセイ『穴の空いたバケツ(毎日新聞社/2010年)』では歳を重ねた自身の等身大が、近著『鎌倉の家(河出書房新社/2018年)』では数年前に都心から移り住んだ、稲村ヶ崎の実家での暮らしが丁寧に綴られている。自身の思い出やエピソードとともにグルメスポットを紹介する最新刊『鎌倉だから、おいしい。(集英社/2020年)』は、単なるガイドブックではなく読み物としての面白さで読者を鎌倉へと誘う、甘糟氏ならではの視点が生きるユニークな一冊だ。いずれの作品も、“今ここにいる自分”を楽しむスタイルがありありと描かれている。

IMG_0166 自分の物語を生きる人へ。作家・甘糟りり子が描く、Be yourself.と美しさの本質▲画像提供:甘糟りり子氏

「昔みたいにオシャレをしてトレンディなところへ行くよりも、今は庭に水を撒いたり、お茶を淹れたりっていう生活のひとつひとつの方が愛おしく感じます。最近ドリップでコーヒーを淹れるようになったのですが、同じ豆で同じように淹れてもなかなか同じ味にはならなくて。そういう生活の細部が楽しくなりました。かつては消費が自分の物語だと思っていました。若かったバブルの頃は、チャラチャラしてチヤホヤもされていたので、あまり人の痛みがわかっていなかったかもしれません。今は自分の手で自分の暮らしを作っているという手応えがあるし、他人のことへの想像力も変わりました」

20200731_qetic-alfaw-0131 自分の物語を生きる人へ。作家・甘糟りり子が描く、Be yourself.と美しさの本質

恋愛のやるせなさ、大切な人とのすれ違い、社会からのプレッシャー。甘糟氏の描く物語は、誰しもが経験する痛みに寄り添っている。だからこそ、自分の人生に物語を重ねる読者からの反響は大きい。なかでも、妊娠・出産をめぐる女性の岐路を描いた短編集『産む、産まない、産めない(講談社/2014年)』、『産まなくても、産めなくても(講談社/2017年)』は、不妊治療や死産といったセンシティブな側面にスポットを当てるとともに、男性の育児休暇取得やステップファミリーといった現代の家族像を描写し、大きな話題を集めた。

20200731_qetic-alfaw-0175 自分の物語を生きる人へ。作家・甘糟りり子が描く、Be yourself.と美しさの本質

同著の執筆は、山のような資料と“どこか別の場所で行われる神秘的な出来事”に向き合い続ける、ひとつのチャレンジでもあったという。

「私自身、結婚・妊娠・出産を経験していません。切望して叶わなかったわけではないし、したくないという意思があったわけでもなく、特に深く考えることもなくいい歳になっていたというだけなのですが、経験がない人間が出産をテーマにしてもいいのだろうかと悩みました。実際に、刊行後に自分の出産とは違う、やっぱり産んでない人が書いたからリアリティがない、といった声も聞きましたしね。だけど、ミステリー作家の人はみんな殺人を経験しているのかというと、多分違いますよね。妊娠・出産って、女性の人生においてはもちろん大きなトピックですし、大体の女性が悩むこと。だからこそ、自分の書く物語で“濃い経験ではあるけれど、必ずしも唯一無二ではない”と感じてもらえればいいなとは思っています」

失敗や無駄だって、自分らしさの糧になる

同著で特に印象的なのは、食事のシーンだ。「なにを食べるかも、その人らしさ」という前述のとおり、登場人物それぞれのパーソナリティが食べものを通して緻密に表現されている。同時に、食事のような生活の一片を丁寧に描くことで、人生の岐路はあくまで日常の延長に起こり得るものだと示唆されているようにも感じられるのだ。もちろん、それは妊娠・出産に限ったことではない。こと女性を取り巻く環境や価値観は、時代とともに刻々と変化している。
『産む、産まない、産めない』発表時の2014年、「この社会は、女性が生きるには未成熟なのかもしれない」と語っていた甘糟氏には、6年後の今がどう見えているのだろうか。

20200731_qetic-alfaw-0042 自分の物語を生きる人へ。作家・甘糟りり子が描く、Be yourself.と美しさの本質

「やっとスタート地点に立ったなという感じですよね。マタニティハラスメントなんて言葉は、あの時はなかったですし。#MeToo運動などは、6年前に比べたらすごい進歩ですが、女性の立場が変わっていくのはまだまだこれからじゃないかなと思います。今くらいで変わったなんて言わせたくないですよ。ひと昔前は、フェミニストっていうとなりふり構わずにヒステリックに主張する人みたいな偏見がありましたけれど、それも間違っていますよね。主張する人はフェミニンもしくはセクシーなおしゃれをしてはいけない、なんて思っているおじさんもいるし。いや、おじさんだけじゃないですよ。むしろ、頭の中が偏見にまみれた旧価値観を持ったおじさんと同じ思考の女性も考えを変えるべきだと思います。そういった女性は、決定権を持った社会的地位の高い女性、例えば、役職についている女性政治家なんかに少なくない。今、ハラスメントについても定期的に書いているので、来年には一冊にまとまる予定です。書くだけではストレートに伝わらないかもしれませんが、女の人の社会的立場やハラスメントについては地道にしつこく、うるさがられながらも発信していくしかないと思っています」

ジェンダーギャップの解消やハラスメントの根絶が声高に叫ばれるこの時代においても拭いきれない前時代的な風潮に、しばしば私たちは悩まされてしまう。その感覚は、70年代の終わりに大きなムーブメントとなったイタリアのフェミニズム運動を体験したアランプレセ氏から見ても厳しく奇異なものだという。「日本人の女性は、自分の生活についての責任をとっていく必要があります。それは、自分を受け入れ、失敗することを恐れず、もっとルーズにオープンマインドで生きるための責任なのですーー」。その言葉に、甘糟氏も頷いた。

20200731_qetic-alfaw-0079 自分の物語を生きる人へ。作家・甘糟りり子が描く、Be yourself.と美しさの本質▲FCAジャパン・マーケティング本部長 ティツィアナ・アランプレセ氏

「“ルーズに”という言葉は、すごくいいですね。自分で自分の理想を持つことはすごく大事だと思います。それはルックスであったり、心の状態であったり、生活スタイルであったり、最終的にイメージを自分で持っているかどうか。そういった理想のイメージを持つためには自分の好みを把握しなくてはいけないし、そのためには失敗や無駄も必要ですよね。車なら乗ってみる、服なら着てみる、食べものなら食べてみる。そういうことが大事だと思います。最初にビューティーというお話がありましたが、きちんと自分の声をあげている人は美しいと思います」

この日のインタビューは、アランプレセ氏と甘糟氏、それぞれにとっての“自分らしさをあと押ししてくれるものとは?”というポジティブな話題で締め括られた。2人のアルファ ウーマンのフィロソフィーは、自分の感性に従うあなたの人生をさらに輝かせるヒントになるはずだ。

「私にとってお守りのような言葉、それは“ありがとう”です。私たちは、いつもたくさんのことを求めて、なにか見つけたいと思ってしまう。けれど、まずはそばにあるものをもっと大事にしなくてはいけません。感謝がなければ自分を認めることは出来ませんし、自分を認めないと次のステップには進めない。そのために一番大切なのは、ありがとうと思う心。そして、自分にとっての小さなハピネスを見つけることです(アランプレセ氏)」

「モノとかではないのですが、やっぱり海を見るといろんなことが些細なことと思えますね。自分にとってはどんな言葉よりもあと押ししてくれる。積極的になにもしない時間は大切です(甘糟氏)」

今後、自身が体験したきらびやかなバブル時代回想記の出版を控えているという甘糟氏。11月からは、当メディアでのコラム連載もスタート予定だ。
自分をよく知り、自分を愛せる人は、どんな時代でも輝いている。そして、そんな女性が綴る物語は、ありのままで在りたいと願う誰かの背中を今日もそっと押している。

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Interviewer:FCAジャパン株式会社 マーケティング本部長
ティツィアナ・アランプレセ

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※ソーシャルディスタンスを保ち、安全に十分に配慮したうえで取材を行っております

▼今回、取材にご協力いただいた『La vie』

INFORMATION
La vie(ラ・ヴィ)

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住所 神奈川県鎌倉市由比ガ浜2-11-9
TEL 0467-95-2585
URL https://www.lavie-kamakura.com/

Hair&Make:合田和人(D-GO)
Text:Misaki Nonaka(NaNo.works)
Photos:大石 隼土

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