Art of Taste 2021.02.05

石川の自然や先人の知恵に和菓子を学ぶ、『森八』中宮千里さんの果てなき挑戦

アルファ ロメオというブランドが今に至るまでには多くの職人による手作業や熟考の時が積み重なっている。創業から続く先人たちの思いの連なりは、一車ブランドと呼ぶにはあまりにも背負うものが深い。そしてそのような部分は食の世界にも通じるものがある。ブランドの哲学を、食を通じてあぶり出してみようというのがこのArt of Tasteプロジェクト。今回は、金沢に続く老舗の和菓子店『森八』の若女将、中宮千里さんを追った。フードジャーナリストの山口繭子がレポートする。

金沢の和菓子屋に生まれたことを幸せに感じています

華やかな茶の湯文化が息づく北陸の町、金沢。この町を代表する和菓子店として昔も今も愛され続けているのが老舗『森八』だ。寛永2年、すなわち1625年に加賀藩御用達の菓子司として創業されたというからその歴史は396年。まもなく400年に手が届かんとしている老舗で次代を託されている19代目若女将の中宮千里さんは、これまでの当主とはいささか異なる道を選び、ここまで歩んできた。
祖父母や両親、皆が和菓子に関わる家に生まれ、高校卒業後はいったん東京に出てデザイン事務所でエディトリアルデザインの仕事に従事するも、再び家業に戻ってひとりの和菓子職人として精進を重ねてきた中宮さん。努力が身を結び、2017年には和菓子の一級菓子製造技能士を取得し、続く2018年に『選・和菓子職 優秀和菓子』に石川県の女性としては初めて認定され、続く2019年には『選・和菓子職 伝統和菓子」に最年少で、しかも女性としても初めて認定されるという栄冠に輝いた。日本でこの2つにダブル認定されたのは中宮千里さんただ一人だという。
“和菓子職人兼若女将”という重責を担い毎日を過ごすが、和菓子、そしてそれらを形成するために必要不可欠な“食材”に対する深い思いや愛情は、昔も今も変わらない。

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▲まだ雪深い能登地方珠洲市にて。同じ石川県内といっても、金沢と能登半島の先にあるこの地は気候も風土も異なる。

この日、中宮さんが訪ねたのは石川県の北端に近い、能登地方の珠洲市。この地の名産である高級小豆、『能登大納言』の選別作業を見せてもらうために、小豆農家の皆口和寛さんの家を訪ねることとなった。
「石川県は豊かな自然に恵まれた地域で、森八をここまで育ててくれたものも、この自然だと思っています。手取川の伏流水や農作物、そういったものすべてが揃って初めて、森八のお菓子の味が完成するんです」と中宮さん。
水? 水ってそんなにお菓子の味に影響するのだろうかと思って聞いてみると、「何にも替えがたい存在です」とのこと。
「例えば、同じ材料を手に入れて、同じ技術であんこを炊いたとしても、その味わいの違いは職人であれば必ずわかります。結局、どんなに技術を磨いたとしても自然の存在無くしては成り立たないのが私たち菓子屋の仕事だと思っているんです」

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▲大きな作業台の上で一つ一つ、目視手作業で選別されていく能登大納言。雪に閉ざされた部屋で、何人もの大人が総出となって1日何時間もこの作業を地道に続ける。

珠洲市でかれこれ50年間、高級小豆『能登大納言』を作り続けている農家の皆口さんも、中宮さんのそんな話に深く同調している様子。
「50年といえば、50回です。それほど能登大納言作りの回数を重ねても、難しいものでね。満足がいったことなんて、数えるほどしかありません。自然の恵みで作らせてもらっていると感謝しつつ、自分の思う通りになるようなものでもなく……。それでもやはり、来年もまた理想の能登大納言を目指して頑張ろうと思うんですけどね」
“赤いダイヤ”と呼ばれる、能登大納言。有名な丹波の小豆に比べるとひとまわり大きく、異名の通り、鮮やかな赤い色が特徴的だ。収穫数は一定せず、その栽培には大変な手間がかかる。11月ごろに収穫してから出荷する春先までの間も、乾燥や選別、磨き……と、お姫様のようにたっぷりと手間がかかり、それらを経てようやく出荷され、いよいよ和菓子の命であるあんこへと変身する時を待つ。作り手の皆口さんにとっても、数ヶ月先にこの赤い豆に向き合うことになる中宮さんにとっても、この作業を見守る2人の目にはなんともいえない表情が宿っているようだ。

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▲能登大納言を一粒、光に照らして眺める中宮さん。「まだ森八で買わせていただく前のものにむやみに触れることはできません」と、この日手にとったのはこの一粒のみだった。

自分たちでコントロールできる部分は少なくて。だからいいんです

珠洲市から金沢に戻った中宮さんは「自然に対する深い畏敬の念を持ちながらも、絶えずその恵みを最大限無駄にしないように努力し続ける、それが菓子屋の仕事であり、農家の本懐でもあるという気づきを得ました」と、語ってくれた。
「自分たちがコントロールできる部分は本当に少なくて。それでも、土地に育てられているんだ、石川のすべてがお菓子だけでなく今の私を作り出してくれたんだ、と考えると、なんだかパワーが生まれるのを感じます」
高校卒業後、いったんは金沢を離れた中宮さん。東京という場所で、故郷を外から眺めてみることで新たな視野が開けたのかもしれない。

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▲和菓子作りのインスピレーションを与えてくれるのは、日常の風景であることも多い。茶屋街近くの『梅の橋』は、日々よく歩くなじみの場所。

迷う時に道を示してくれるもの、それが先人たちの残した仕事

中宮さんの仕事といえば、森八ののれんを守り続けること。しかし、長く続くものを守るためには、新しいものを創造することもとても大切だ。
「先人たちが作り上げたお菓子のデザインや味わいは、もちろん守らなくてはなりません。が、彼らもまた、その時代にあって何かしらの“創造”を求められ、作り続けてきたはずです。発想の源になるのは、散歩中の景色であったり日常のことだったり、いろいろです。その中から色だとか意匠だとか、デザインのヒントをもらうことが多いです」
そんな中宮さんにも、時には自分のアイデアに自信が持てない時もあるという。そんな時に力を与えてくれるのが、先人たちが残してくれたたくさんの仕事。森八には数え切れないほど多くの和菓子作りの木型が残されており、美しい工芸品のようなそれらは、本店2階にある『金沢菓子木型美術館』にも展示されている。植物、動物、伝説の生き物、吉祥模様など、あらゆる事象を形にした木型の数々を眺めているうちに、自分が発想したデザインの意味を裏打ちするものを見出すこともあるという。
「それはまさに、自分のアイデアが合っているか、進む道は間違っていないか、その答え合わせをしているようです」と語る中宮さんにとって、ご先祖さまは今でも現役の先輩なのかもしれない。

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▲今回、アルファ ロメオと森八を繋ぐ意味を探り、それらをモチーフにしたオリジナルの和菓子の創造に取り組んだ中宮さん。アルファ ロメオの創業以来のフィロソフィーやブランド美学を綴ったオフィシャルブック『IL LIBRO DELLE EMOZIONI』を元にその作業は静かに続けられた。

例えば茶事に使われる菓子であれば、季節や祝い事など、茶席の意味を宿した菓子が求められる。本来、茶事の菓子として用いられる上生菓子は、茶席や茶の味を引き立てるものとして、一歩控えた存在であることが多かった。今もそれは変わらないけれど、茶事でなくても人は茶に親しめる。茶の作法を知らなくても海外から訪れる人であっても、気軽に茶を楽しめる手助けをしてくれる親切なキャラクターとしても、和菓子の存在は重要だ。
森八の上生菓子は、400年弱続く老舗としての伝統は守りながらも、見る人の心までも和ませてくれる意匠が印象的。着色料などは使用せず、すべてが自然の色で出来ている。
今回、アルファ ロメオからのスペシャルオーダーで、イタリア・ミラノの車ブランドと日本の金沢の老舗菓子店を繋ぐような上生菓子のクリエイションに挑戦した中宮さん。どんなものが出来上がるのだろうか。

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▲考える作業が終わったら、あとは工房で静かに食材と向かい合うのみ。迷いのない手さばきで、脳裏にあったデザインと味が形になっていく。

4つのお菓子に込められた、アルファ ロメオと森八の友好の思い

アルファ ロメオのスペシャル和菓子として4つが完成した。一見、鮮やかで美しい、「これぞ森八」とも言うべき菓子ばかりだが、よく見るとそこにはブランドに対する憧憬や石川県の素晴らしさ、中宮さんなりの理解がたくさんの意匠となって散りばめられていた。
「アルファ ロメオのロゴマークは、蛇と十字がモチーフになっているんですね。それで思い出したのが、森八にも長く伝わる“三つ鱗(みつうろこ)”の木型です。三角を3つ合わせたこの紋様は蛇を表しているんですが、これは脱皮や再生を意味する、いわばお守りの紋。三つ鱗の木型を用いた白い菓子を作りました」

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▲大正時代ごろの作かと思われる森八の三つ鱗の木型。ここにあんを押し付けて型を写し、徐々に和菓子の形に仕上げられていく。

見ていると感じられる。海を隔てていても同じ職人の思い

「続いて、十字はミラノ市のマークでもあると聞き、ならばと、金沢の象徴でもある前田家の家紋、赤い梅のお菓子も作りました。また、アルファ ロメオといえば幸せの象徴、クアドリフォリオ(四葉のクローバー)も有名ですよね。同じく和の文化で幸せを表す唐松の模様に四葉のクローバーをのせた緑のお菓子も、いい具合に仕上がりました。そしてアルファ ロメオならではの心地よい疾走感は、ちょうど能登に向かう海沿いの道で感じた風を思い出させます。それらを表現する青い菓子が完成し、4つのお菓子が出来上がりました」
4つの和菓子を作りながら、中宮さんはあることに気づいた。それは、遠く離れたイタリアでアルファ ロメオを製造する仕事に従事している職人たちの思いだという。完璧であること、正確であることを求められつつ、心に情熱を持ってないと前に進めないという職人としての性(さが)。国も違う、文化も異なる存在でありながら、人が考えること、世のために叶えたいことや願うことというのは、時代を経ても海を隔てても、それほど変わることはないのだという気づき。
能登の小豆農家を訪ね、イタリアの車ブランドに捧げる菓子を作り、その結果たどり着いた一つの答えが今、中宮さんの心を熱くさせている。

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▲完成した4つの和菓子。右から時計回りに、金沢の象徴である梅の菓子、疾走感を表現した菓子、アルファ ロメオのロゴマークと森八に伝わる木型を融合させた菓子、めでたい唐松とクアドリフォリオを映した菓子。

INFORMATION

Art of Taste Gastro Journeyオリジナル上生菓子

抽選で3名様にプレゼント

応募期間: 2021年2月5日(金) 〜 3月8日(月)23:59

アルファ ロメオに宿る情熱と日本古来のモチーフが融合したオリジナル和菓子4個セット。『森八』19代目若女将であり、和菓子職人でもある中宮千里氏が創作した、アルファ ロメオの伝統と走りを感じる特別な和菓子をお楽しみください。

https://www.alfaromeo-jp.com/art-of-taste/gastrojourney02/

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※画像はイメージです。実際とは異なる場合があります。

PROFILE

中宮千里/Chisato Nakamiya

石川県金沢市出身。
代々、和菓子作りを営む老舗和菓子店『森八』に生まれ、幼少時より和菓子の味に親しんで育つ。高校卒業後は東京に出てデザインの専門学校に学び、卒業後はエディトリアルデザイン事務所に勤務する。退職後、東京製菓学校和菓子本科に入学し、和菓子を一から学び始める。2009年『森八』入社。現在、19代目若女将、チーフコンフェクショナーとして活躍中。

PROFILE

山口繭子/Mayuko Yamaguchi

神戸市出身。
『婦人画報』『ELLE gourmet』(共にハースト婦人画報社)編集部を経て独立。現在、「食とライフスタイル」をテーマに、動画やイベントのディレクション、ブランド・新規レストランのコーディネートなどで活動している。近著に、自身の朝食をまとめたレシピエッセイ『世界一かんたんに人を幸せにする食べ物、それはトースト』(サンマーク出版)。

Text:山口繭子
Photos:前川拓也(道洋行)、前川裕介
Hair & Make:今村喜美枝

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