Be yourself 2021.09.28

もがき続ければ、未来は開ける。誰も置いていかない食材“チョコレート”に魅せられた、『久遠チョコレート』夏目浩次の挑戦

北海道から九州まで全国に52拠点34店舗(2021年度出店分含む)に展開する『久遠(くおん)チョコレート』。豊富なバリエーション、常温で楽しめる気軽さが人気を集める同ブランドは、障がい者の雇用、就労の面でも注目される存在だ。2021年9月現在、久遠チョコレートでは、従業員500名のうち300名以上がなんらかの障がいを抱えている方だという。『久遠チョコレート』を運営する一般社団法人ラ・バルカグループの代表理事で、『久遠チョコレート』の創始者である夏目浩次氏にブランド創設の経緯、今後の展望を聞いた。

仕方ないで済ませていては何も始まらない

「久遠チョコレートの従業員は全国で550名ほど。そのなかで障がいを抱えている方は350名ほどいらっしゃいます。ほかにも、子育て中のお母さんや介護中の方など時間の融通が利かない方、LGBTQの方、引きこもりなどの悩みを抱えている若者など、さまざまな方に働いていただいています」

そう語るのは、『久遠チョコレート』を運営する一般社団法人ラ・バルカグループの理事長で、『久遠チョコレート』代表の夏目浩次氏だ。

夏目代表(2020) もがき続ければ、未来は開ける。誰も置いていかない食材“チョコレート”に魅せられた、『久遠チョコレート』夏目浩次の挑戦 ▲久遠チョコレート代表・夏目浩次氏

「95%はお菓子の初心者で、業界には『あんなのはチョコレートじゃない』とおっしゃる人もいらっしゃるそうです」と屈託なく笑う。
「そういった声は横に置いておいて、カラフルででこぼこな人たちで真剣に一流を目指していく──。かっこつけるつもりはありません。日々大変です(笑)。でも、もがける人生は幸せですし、だからこそ成長していけると考えています」

この力強い言葉だけで『久遠チョコレート』の急成長の要因を十分に感じとることができるが、改めて同ブランドの取り組みについて、夏目氏の言葉をもとに探っていきたい。

QUON本店_店内カウンター001 もがき続ければ、未来は開ける。誰も置いていかない食材“チョコレート”に魅せられた、『久遠チョコレート』夏目浩次の挑戦

もともとの専門は土木工学だ。大学卒業後は、駅などのバリアフリーの計画・設計など、都市計画にかかわる仕事に従事した。

「鉄道の駅のバリアフリー設計に携わったことがあるのですが、しかし経済的な制約から、“みんながフラットに使えるもの”を設置することができませんでした。『これが世の中なんだ、仕方ないという言葉を覚えろ』と言われ、日々悶々としていました」

そんな折、ある本を読み、障がい者が働いても月に1万円の給料しかもらえないという事実を知る。また、バリアフリー化を担当したことをきっかけに障がい者との接点ができ、その暮らしぶりを目の当たりにした。

福祉作業所で働いても賃金は、工賃は月に1万円になるかならないかだと知り、衝撃を受けた夏目氏は休みの日にさまざまな福祉作業所を回ったが、「当時の豊橋市では、1万円どころか3,000円〜4,000円程度でした。でも事務所のみなさんは、『仕方ない、福祉とはそういうものだ』とおっしゃいます。それで何かのスイッチが入ってしまいました(笑)」

こうして、2003年、「仕方ないで済ませていては何も始まらない」と脱サラ。
パンが好きだったこと、また、不特定多数の方が来てもらいたいと、愛知県豊橋市に、障がい者の方が働き正当に賃金をもらえる場所として、パン工房『花園パン工房ラ・バルカ』を開業する。

パン屋-1 もがき続ければ、未来は開ける。誰も置いていかない食材“チョコレート”に魅せられた、『久遠チョコレート』夏目浩次の挑戦

「当時の豊橋市の最低賃金は時給681円でした。これを保障し、知的障がいのある3人の女性スタッフを雇用しました」

しかし事業は順風満帆とはいかなかった。

「50種類ほどのパンを焼いていたのですが、パンによって作り方が違うので動線はぐちゃぐちゃになってしまいます。レジで計算ができずにパニックを起こしてしまったり、朝3時、4時から作ってしまったパンを壊してしまったりと、マンツーマンで見なければならないことも多く、赤字は崖から落ちるように増えていきました」

そんななかでもスタッフの成長は顕著だったという。

「パニックを起こしていたレジの担当者は、パンの名前と値段をノートに書いて、一生懸命に覚える努力をしていました。人にはみな可能性がある、それを生かすも殺すも環境次第で、誰にも等しくチャレンジする選択肢があっていいはずだと改めて感じました」

ショコラティエ・野口和男氏との出会い

誰一人排除することなく、顧客をサービスするにはどうすればいいか──そう模索するなか、夏目氏は、名だたる高級ホテルや菓子ブランドのプロデュースや受注での製造を専門にしているショコラティエである野口和男氏に出会う。

野口さん宣材 もがき続ければ、未来は開ける。誰も置いていかない食材“チョコレート”に魅せられた、『久遠チョコレート』夏目浩次の挑戦▲ショコラティエ・野口和男氏

それまで「チョコレートや生菓子はクオリティを維持するのが大変で、障がい者が働く事業としては難しい」と考えていた夏目氏にとって、「正しい材料を使って正しく作れば、誰でも美味しいチョコレートを作ることができる」という野口氏の言葉は衝撃ですらあったという。「俺のラボを見に来い」という野口氏の言葉に従い、早速、東京の工房に出向き、数週間働いた。

「作業は溶かして固めるという単純なもので、その繰り返しです。失敗したらまた溶かしてやりなおせばいいですし、危険な作業はほとんどありません。パンの場合は、発酵の時間、焼きあがる時間に合わせて人間が動く必要がありますが、チョコレートは人間に時間を合わせてくれます。何よりチョコレートをもらって嫌な顔をする人はいません」

ドライフルーツ・イメージ集合 斜め もがき続ければ、未来は開ける。誰も置いていかない食材“チョコレート”に魅せられた、『久遠チョコレート』夏目浩次の挑戦

チョコレートこそが作る工程で誰も排除しない食材と確信した夏目氏は、2014年、もう一度借金をして『久遠チョコレート』を立ち上げる。

『久遠チョコレート』が手がけるのは、カカオの味わいを楽しめる混ぜ物をしないチョコレートだ。「常温で楽しめるカジュアルなチョコレートがいい」と、野口からアドバイスがあったという。

「当時の日本では、チョコレートといえば、油や生クリームなどを加えた、ボンボンショコラや生チョコレートが主体でしたが、そうなると冷蔵での保管が必要になってきますし、そもそもチョコレートの原料となるカカオは、産地の違い、発酵の仕方で味わいが変わってきます。同じ産地であっても年によって味わい異なります。ワインのようなものです。そんなカカオそのものの味を楽しんでほしいと考えました。もともとカカオ本来の油は人と同じ温度帯で、人との相性がとてもいいんですよ」

そもそも大前提になっているのは、障がい者が作っているからではなく、美味しいものを作り、それを購入して欲しいという考え方だ。余分な油分を加えない、カカオ100%のピュアなチョコレートにこだわる理由はそこにある。

「いろいろな国のカカオを味わっていただきたいので、現在は30ヵ国ほどのカカオを使ってチョコレートを作っています」そんな『久遠チョコレート』のスタイルに大手百貨店のバイヤーは早い段階で着目。催事にも引っ張りだことなり、『久遠チョコレート』の名が全国に広がっていくのに、そう時間はかからなかった。

主力となるのは『QUON(くおん)テリーヌ』だ。チョコレート生地に、ドライフルーツやナッツなどの食材を入れて固め、スライスしたもので、さっくりとした独自の食感と多彩なフレーバーが受けている。心躍る華やかなルックスは贈り物にしても喜ばれること請け合いだ。

お皿とテリーヌ_I0K9824。 もがき続ければ、未来は開ける。誰も置いていかない食材“チョコレート”に魅せられた、『久遠チョコレート』夏目浩次の挑戦

「南北に長く、四季のある日本にはさまざまな食材があります。いろいろな地域の食にまつわるストーリーを集め、日本を再探求し、世界のチョコレートと合わせていったところ、テリーヌだけで150種類くらいになってしまいました(笑)」

種類は多くても作業はシンプルだ。「一度、作り方を覚えれば、溶かすカカオと、混ぜるものを変えればいいだけです。誰も置いていくことはありません。ドライフルーツにチョコレートをディップした『QUONフルーツ』もご好評いただいていますが、こちらもフルーツの横軸、チョコレートの縦軸を増やせば、マトリックスは無限に広がっていきます」

イメージドライフルーツミニ  もがき続ければ、未来は開ける。誰も置いていかない食材“チョコレート”に魅せられた、『久遠チョコレート』夏目浩次の挑戦

凸凹はパズルのように補え合えばいい

2021年7月には、最重度の障がいの方の雇用の場として、『QUON chocolate パウダーラボ』(以下、パウダーラボ)を立ち上げた。『パウダーラボ』では、重度障がい者に月給5万円以上を支払っているという。

パウダーラボ2 もがき続ければ、未来は開ける。誰も置いていかない食材“チョコレート”に魅せられた、『久遠チョコレート』夏目浩次の挑戦▲QUON chocolate パウダーラボでの作業の様子

「QUONテリーヌには、粉末にした茶葉やフルーツを用いたものも多くあります。これまでは外注していたのですが、外注では合理化が優先されるので、たとえば、それぞれ味が異なる、お茶の茎の部分も、葉の先端も、根元もすべて一緒に機械を回すことになります。また、機械を使うと素材そのものに余計な熱が入ってしまいます。パウダーラボでは、現在、17人の重度障がい者の方が手挽き石臼を使って、いろいろな音を立てながらパウダー化しています。その粉末を使った、宇治石臼ほうじ茶シリーズは今、イチ推しのテリーヌです」

宇治石臼ほうじ茶シリーズ(茎茶・まろやか・濃茶) もがき続ければ、未来は開ける。誰も置いていかない食材“チョコレート”に魅せられた、『久遠チョコレート』夏目浩次の挑戦▲宇治石臼ほうじ茶シリーズ

積極的に地域の特産品を使っていることも同ブランドの特徴だ。実際、店舗に行くと、多彩で色鮮やかなチョコレートが並んでいて、目移りしてしまう。そして、ワクワクする。

「同じフルーツでも、カカオによって味わいは大きく異なります。日本人には自分の味を見つけ出してくことが苦手な方が多いですが、誰もが同じものを求める必要はありません。お客様なりの楽しみ方があっていいんです。ぜひ自分なりのチョコレートの楽しみ方を見つけてほしい、そんな商品展開を意識しています」

そのスタイルは、“凸凹はパズルのように補え合えばいい”という、『久遠チョコレート』のブランドコンセプトそのものだ。たとえば、温度調節をしながらチョコレートを混ぜ合わせていくことでカカオの油脂を安定させるテンパリング作業は集中力が高いスタッフが担当している。接客を行うものもいれば、チョコレートを型に流す担当や食材を混ぜ合わせる担当、チョコレートの飾りつけ担当もいる。

「一人で完結する作業が得意な人もいれば、全行程をやるのが楽しいという人もいます。ある程度の合理的な配慮は必要ですが、行き過ぎるとやりがいとか充実にふたをしてしまうことになってしまいます。障がいが重たいからこうだろうと決めつけるのではなく、単純に尊厳がどうあるべきかを直視する必要があると思います」

凸凹は排除するのではなく、“パズルのように組み合わせる”ことでひとつの絵を描けばいい。夏目氏の信念に揺るぎはない。

やりがい、そして収入を得たことで多くの雇用者は変化を遂げた。

本店スタッフ2021 もがき続ければ、未来は開ける。誰も置いていかない食材“チョコレート”に魅せられた、『久遠チョコレート』夏目浩次の挑戦

「iPadを買ったり、コンサートに出かけたりと自己実現をしている姿をまぶしく感じています。キャラクターを描くのが好きなスタッフは、いずれ3Dプリンターを買うのが目標だと話してくれました。『お給料をもらえるようになったのは大人になった証だから』と、妹にプレゼントをあげたという話も耳にします。従業員のお母さま方からの、『夕食をたくさん食べて、早く寝るようになった』という話もとてもうれしく感じています」

インクルーシビティとは特別なことではない

QUON本店_店内全体 もがき続ければ、未来は開ける。誰も置いていかない食材“チョコレート”に魅せられた、『久遠チョコレート』夏目浩次の挑戦

さて、『久遠チョコレート』の事業形態だが、福祉事業所などがオーナーとなり、全国でフランチャイズ(FC)展開を行っている。「そもそも京都の1号店もFCで、京都の福祉事業所が『チョコレートを作りたい』と、声をかけてくれたことがきっかけです」
豊橋の本店など直営店も設けているが、「私は一隻の豪華客船を作るつもりはありません。強いイカダを組み合わせることで、より強靭なものにしていきたい、共に社会のナンセンス(理不尽なこと)に立ち向かっていきたいと考えています」公式オンラインショップを作らない理由もそこにある。「それぞれのFCのマーケットを侵したくないんです」と語る言葉は力強い。

そんな夏目氏が今、心血を注いでいるのは、地方や山間部でも経営が成り立つブランドの確立だ。

テリーヌ スタンダード13枚 もがき続ければ、未来は開ける。誰も置いていかない食材“チョコレート”に魅せられた、『久遠チョコレート』夏目浩次の挑戦

「やりたいという熱い思いに寄り添っていける、そんな経済システムを作りたいと考えています。私は障がい者雇用やインクルーシビティというのは決して特別なことではなく、また、特別なノウハウも必要なことでもないと考えています。むしろそういった言葉のない、シンプルな世界を実現したいんです。目の前に泣いている人や困っている人がいれば手を差し伸べればいい、おかしいと思ったら見て見ぬふりをするのではなく、声を上げればいい。とても単純なことです。経済的な成長のためには、ある程度、理不尽なことがあってもいいという風潮がありましたが、これからの時代は変わってくるのではないでしょうか。ナンセンスなものを直視し、どうやってセンスのあるものに変化させていくか──。いま経済や社会は、本気でもがく時だと感じています」

夏目氏の言葉を聞いていたら、カラフルな『久遠チョコレート』のテリーヌが食べたくなった。

Be yourself.すべての人々が、自分らしく生きていける社会のために

INFORMATION
久遠チョコレート

QUON本店_正面ファサード もがき続ければ、未来は開ける。誰も置いていかない食材“チョコレート”に魅せられた、『久遠チョコレート』夏目浩次の挑戦

URL https://quon-choco.com/
PROFILE

夏目浩次

ラ・バルカグループ代表。
2003年、愛知県豊橋市において障害者雇用の促進と低工賃からの脱却を目的とするパン工房(花園パン工房ラ・バルカ)を開業。その後、2005年に社会福祉法人豊生ら・ばるかとなり、2012年にはラ・バルカグループを一般社団法人化。現在では豊橋市をはじめ全国10箇所以上の直営事業所を運営するほか、様々な企業へ経営参画し企業連携・事業開発に取り組みながら、障害者の雇用、就労促進を図っている。

Text:Aya Hasegawa

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