Heritage 2021.02.25

ebook『Passione』公開記念。チーフデザイナーが語るアルファ ロメオの知られざるデザインメソッド

111年の歴史の中で、自動車史に名を残す数々の名作を生み出してきたアルファ ロメオ。そのイタリアを代表するプレミアムブランドにとって、非常に重要な役割を担っているのがデザインだ。アルファ ロメオ チェントロスティーレ(デザインセンター)は2021年2月上旬に、自らが手がけたebook『Passione』を公式HP上で公開。またその発表に合わせ、チーフエクステリアデザイナーであるアレッサンドロ・マッコリーニ氏によるオンラインプレゼンテーションを行った。アルファ ロメオに情熱を傾け、数多くのアルファ ロメオを手掛けてきたミラノ出身のアルフィスティは、何を語ってくれたのか。アルファ ロメオがebookに込めた情熱を、マッコリーニ氏の言葉を交えながら紹介していこう。

イタリアの芸術や文化が生み出したアルファ ロメオのデザイン

ebook『Passione(パッシオーネ)』のページをめくるとすぐに目につくのは、イタリアの建造物や工業デザイン。それらは一見クルマに結びつきそうにないが、そこには深い意味が込められていたのだ。アレッサンドロ・マッコリーニ氏はこう説明してくれた。

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▲チーフエクステリアデザイナーのアレッサンドロ・マッコリーニ氏。『ジュリア』や『ステルヴィオ』、ebookに登場する新型SUVの『トナーレ』など、現代を代表する数々のモデルを生み出している。

「このebookは自動車の話題ばかりを取り上げているのではありません」
そう言って、ミラノの街角の風景やイタリアの代表的な絵画のスライドをいくつか見せてくれた。

「ミラノには素晴らしい建造物がたくさんあります。たとえばミラノのシンボルであるスフォルツェスコ城には、ミケランジェロの彫刻を始め、数多くの彫刻が飾られています。これはどういうことかというと、スフォルツェスコ城はロンバルディア地方の芸術ばかりを見せているのではなく、イタリアの芸術を発信しているということです。またミラノではそういった芸術が美術館の中だけでなく、街の至るところに散見できます」

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そう語るマッコリーニ氏のコメントには、ミラノという街がアルファ ロメオのデザインや生い立ちに重要な意味を持つことが含意されていた。スフォルツェスコ城の正門にあるフィラレーテの塔には、中世ミラノを支配していたヴィスコンティ家の家紋が描かれている。アルファ ロメオが誕生して間もない頃、ひとりの設計者はトラム(路面電車)を待っている時に、たまたまその家紋が目に止まり、そこに着想を得て大蛇をブランドのロゴとして採用することを会社に提案、その案は採用された。それがアルファ ロメオ ロゴの起源となったと言われている。このエピソードにも表れているように、ミラノには街の至るところに芸術に溢れ、刺激を得るには格好の場所である。ミラノに誕生したアルファ ロメオにもそこで吸収されたものが多く、カーデザインに反映していったようである。

「今回、文化や芸術、建築などを取り上げたのは、我々が自動車のデザインを考えるときに、色々な要素からヒントを得ていることをわかっていただきたいからです」
マッコリーニ氏はそう言って、次のスライドを見せてくれた。そこにはレオナルド・ダ・ヴィンチの『人体表現と解剖学』と、新旧アルファ ロメオのイラストが対比されていた。

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「人体と自動車は一見関係ないように思えますが、ダ・ヴィンチの研究は私たちアルファ ロメオの研究にも反映されています。人間の体とクルマは極論すると同じ基準点を持っています。腱や筋肉、そのバランスを考えるときに、ダ・ヴィンチの人体解剖学の考え方がカーデザインにも反映されているのです」

さらにアルファ ロメオが着想の源として得た研究結果は、スタイルのみならず、カラーリングにも反映されることがあるようだ。
「こちらはティツィアンレッドと呼ばれる赤です。情熱的で、官能的なレッドです。これは16世紀のイタリアの画家ティツィアーノ・ヴェチェッリオが用いたことでそう呼ばれていますが、アルファ ロメオはそうした情熱的な赤をエクステリアだけでなく、インテリアにも用いています。これも文化にインスピレーションを得て、デザインに反映しているという一例です」

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こうしていくつかのサンプルを見せながら解説してくれたマッコリーニ氏。イタリアには古くから建造物や製品デザインにアートを求める土壌があり、アルファ ロメオも様々な作品に目を向け、そこに刺激を求めていることをうかがわせてくれた。

機能に密接に結びついたカーデザイン

幅広い分野からデザインのインスピレーションを得ると同時に、デザインとテクノロジーがリンクしていることもアルファ ロメオの特徴だ。アルファ ロメオは古くからカーデザインを本業とするデザイン工房、いわゆるカロッツェリアと協業を積極的に行ってきたブランドである。カスターニャトゥーリングギアザガートベルトーネピニンファリーナイタルデザインなどアルファ ロメオと手を組んだ工房は多い。そしてこれらカロッツェリアの特徴的なデザイン要素が、そのクルマの特徴として話題を呼び、後に発展した例もある。これもアルファ ロメオのデザイン、歴史を面白くしているひとつの要素である。

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▲左:『アルファ ロメオ ジュリアGTA』 / 右:『アルファ ロメオ スパイダー 1600“デュエット”』

古くは1914年にカロッツェリア・カスターニャが手掛け、発表されたエアロダイナミカ(正式名称:アルファ 40-60HP“エアロダイナミカ”)。ワンボックスの起源ともいえるモデルだ。とはいえ単なるワンボックスに終始しないところが、アルファ ロメオらしさの表れである。その名の通り、エアロダイナミクス(空力)という発想を自動車に取り入れた先駆け的な存在で、流線型のフォルムを特徴とした。マッコリーニ氏によると、エンジンなどのメカニカルな部品はボディの内部に搭載されたとのことだが、そうした奇抜な発想さえ、アイデアの元となるという。

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▲『アルファ 40-60HP エアロダイナミカ』

もうひとつのサンプルは、カロッツェリア・ベルトーネによるデザインスタディ『アルファ ロメオ カラボ』。斬新なグリーンのカラーリングや、シャープなボディ形状のそのクルマを、マッコリーニ氏は“新鮮なモンスター”と表現した。カラーだけでなく、くさび型のボディや、後に一世を風靡するシザーズドア(俗にいうガルウイング)を採用したのも大きな特徴。そのカラボは、アルファ ロメオの珠玉の名車『33ストラダーレ』のシャシーをベースとしている。33ストラダーレからカラボなどが誕生した(他にも33ストラダーレからは様々なモデルが派生した)背景について、マッコリーニ氏は「ヨーロッパの著名なデザイナーがアルファ ロメオのシャシーを使い、色々なクルマを作ることを望んだ」と説明した。

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▲『アルファ ロメオ カラボ』

もうひとつアルファ ロメオの代表的なデザインが“コーダ トロンカ”。ボディの後端をスパッと切り落としたようなそのデザイン手法は、車体の空力性能を高めるのが狙い。これはザガートが『アルファ ロメオ ジュリエッタSZ』に採用し有名になったもので、他にも“風がデザインしたクルマ”のキャッチコピーで知られる60年代の『ジュリア』を始め、数多くのアルファ ロメオ車に採用されている。現代のクルマでは『Alfa Romeo Stelvio(アルファ ロメオ ステルヴィオ)』にも、コーダ トロンカにヒントを得たデザイン手法が取り入れられているという。

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▲コーダトロンカが採用された『アルファ ロメオ ジュリアTZ』

このようにアルファ ロメオのデザインは、美しさだけを追求したものではなく、機能と密接に結びついている。特にエアロダイナミクス(空力)面においては様々なアプローチが取られ、カーデザインに大きな影響を与えたものもある。

過去から未来へ。受け継がれるアルファ ロメオスピリット

アルファ ロメオは、様々なものからインスピレーションを得る一方で、ブランドとして一貫した世界観を貫いていることも、プレゼンテーションから知ることができた。アルファ ロメオ チェントロスティーレでは、日々デザインの研究が行われ、過去の作品から得たヒントを、現代の新しいクルマへと受け継いでいるのである。

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▲左『アルファ ロメオ ジュリエッタ 1300 スプリント』/右『アルファ ロメオ ジュリア クアドリフォリオ』

注目したいのは、単純にデザインをエレメントとして抽出して再利用するのではなく、研究段階において、過去の作品がどのような意図や狙いから生まれたのか、という点まで踏み込み、その思想を時代背景と照らし合わせながら解釈するという作業が行われていることだ。つまり、あるデザインをモチーフとするときに、必ずしもそっくりの形状が再現されるとは限らない。それは過去のデザインを最新の技術で蘇らせるためだ。

その一例が、『トナーレ』に採用されたトリプルヘッドライト。これは1989年にジュネーブモーターショーで披露された『アルファ ロメオSZ』にヒントを得たものだそう。そこには確かに共通するデザイン手法が認められるが、酷似しているわけではない。マッコリーニ氏は次のように話す。

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▲左『アルファ ロメオ トナーレ』/右『アルファ ロメオSZ』

「SZとトナーレでは、エアベントやトリプルヘッドライトに共通するデザインが伺えます。これは過去のクルマからアイデアを引用した例ですが、コンセプトは同じであっても、テクノロジーの進化がおわかりいただけると思います。SZのそれは3つの階層のそれぞれにライトを配置したものでしたが、トナーレではその意匠が最新の3次元のデザインで表現されています」

「また、トナーレのサイドウインドウとリアウインドウは、『8Cコンペティツィオーネ』にヒントを得ています。それはトナーレを平凡なSUVにしたくなかったからです。デザインエレメントをカテゴリーの異なるスポーツカーから持ってきた。これこそがアルファ ロメオなのです。同様の例は、同じく8Cコンペティツィオーネと、『MiTo(ミト)』にもあてはまります。コンセプトカーとして生まれ、500台しか生産されなかった8Cコンペティツィオーネ。そのスピリットをMiToに再現することで、若者にもアルファ ロメオの世界観を感じてもらいたい。“Beauty for everyone”すなわち乗り手を選ばない美しさ。これもアルファ ロメオの精神の表れなのです。大切なことは、アルファ ロメオのデザインはスタイルだけではないということ。その裏にある文化や歴史がアルファ ロメオのクルマづくりを支えているのです」

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一見、無関係に思えるものからデザインのインスピレーションを得ていたり、思わぬデザインエレメントが過去と現在をつなぐ橋渡しの役割を担っていたりと、アルファ ロメオ デザインについて、興味深い話をしてくれたマッコリーニ氏。なおここで紹介したのは、『Passione』に書かれたごく一部で、全200ページにおよぶebookにはアルファ ロメオ デザインに関する様々な情報が書かれている。ぜひ目を通してアルファ ロメオの世界観を肌で感じてもらいたい。

▶︎ebook『Passione』はこちらから

Text:曽宮岳大

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