Heritage 2020.03.05

連載第3回/松本 葉の『アルファ ロメオに恋してる』

第3回 ミラノ郊外にザガートを訪ね、創設者の孫に聞くBeauty

※『ENGINE Web』に掲載されている内容を一部改変して転載したものです。

アルファ ロメオに必ず“ミラノ”と添えられるのは、誕生の地、発展の場所であるため。ここに疑いはない。同社は1910年、ミラノのあるロンバルディア地方のクルマ好きによって起業された。最初はポルテッロという街に構えられたが、その後、アレーゼに移った。どちらもミラノ近郊である。

同時にアルファ ロメオとミラノは誕生の地や製作の場以上の関係、この点にも疑いはない。現在、エンジニアリングもスタイリングもミラノを離れているが、それでもアルファは今もミラノの味がすると言われる。自動車というのはどんなにグローバル化が進んでもいつも根っこを引きずった工業製品だ。たとえば大陸の異なる、海を隔てたふたつの国がプラットフォームを共有してクルマを作っても、出来上がったプロダクツにはいつも風土の匂いが漂い、この匂いこそクルマの個性になる。であれば、ミラノという都市の特性を理解することが出来ればアルファ ロメオにもっと近づけるはず。こう思った時浮かんだのがザガートだった。

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「ともにミラノで生まれて」

ザガートはミラノにあるデザイン工房。ウーゴ・ザガートが100年前に興した。機械好きであった彼は航空機製作技術を学び、自動車デザインの世界に足を踏み入れた。アルファ ロメオとの結びつきは戦前から。ヴィットリオ・ヤーノの設計したツインカム・エンジンを搭載したシャシーに航空機技術で培った軽量ボディを架装したのが最初のコラボレーション。この時から両社は手を組み、互いの発展に貢献しながら共に名声を築いた。軽量と空力にフォーカスしたザガートの十八番は、アルミ製ボディ、鋼管スペースフレーム・シャシー、コーダトロンカなどなど。

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アルファ ロメオのスタイリングはピニンファリーナやベルトーネといったトリノのカロッツェリアも手がけているものの、それらはザガートとのコンビネーションとは趣が異なる。アルファ ロメオとザガートは同志とでも言えそうな強力なコンビ。アルファが求め続けるスピードを具現化したばかりでなく、人間がそうであるようにアルファもまた秘めた強さを携えるが、その強さをエアロダイナミクスに優れた前衛的なスタイリングで引き出したのがザガートだ。モンスターとあだ名されたモデルもある。いずれもトリノからは生まれなかったもので、この辺りもミラノがキーワード、そんな気がする。

ではどうしてこんなコンビが誕生したのか。教えてくれたのは現在3代目としてザガートを率いるアンドレア・ザガート。創設者の孫にあたる。

「まず距離です」
言われてみればザガートのあるローという街とかつてアルファ ロメオの本拠地であったアレーゼは目と鼻の先。
「非常に密に行き来することができた。これは大きかったと思います。モディファイだってアイデアの交換だって道を渡るだけでできるわけですから。でもね、やはりミラノ人同士であったこと、これは同じ気質を持つ点で重要だった」

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そうだ、自分がわからないのはまず“ミラノ人の気質”なのだとこの時気づいた。が、ではどんな気質ですか? という問いかけに対するアンドレアの答えには耳を疑った。
彼はこう言ったのだ。「ミラノ人は働き者です」
イタリア人と働き者が結びつかなかったわけではない。働き者はトリノ人と聞いていたから驚いたのだ。
「駐屯地の歴史を持つトリノの人々は働き者ですが、上からの命令に従順な働き方。オーストリアの占領を受けたミラノは占領の重圧を押し除けて自分たちで何かを作り出そうとする働き方。上下関係と横への広がりの違いとでも言いましょうか」

ミラノ人はクリエイティブという意味だろう。アンドレアによれば20世紀初頭の時点ですでにミラノは欧州の都市のなかで「何事も6ヶ月早い」という言い回しが定着していたそうだ。つまりトレンド・セッター。特にファッションやデザインの分野で力を発揮した。
「アルファとザガートが絶妙なハーモニーを生み出すことができたのは、共に新しいものを作り出したいというミラノ人だったから。アルファ ロメオのクリエイティブな技術を新しさで表現したのが我々です」

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ではザガートのスタイリングにおけるミラノらしさとは?
「馬車工房から移行したトリノのカロッツェリアは装飾に強かった。“加える”という手法です。これはフランス領だった影響も大きい。ミラノはオーストリア、ドイツの影響を受けている。デザインで言えば合理性を追求するドイツのバウハウスです。ザガートは祖父が航空機技術に精通していたことから、装飾による加重とは反対の“削ぎ落とし”を重視した。デコラティブとは反対のエッセンシャル・ビューティ。これもミラノ的、アルファ向きであったと言えます」

「ザガート家に生まれて」

1960年生まれのアンドレアは最初ザガートに入ることにはためらいがあったという。大学でデザイン・プロダクションを専攻。卒業論文を書き上げたとき彼はこう結論づけた。「ザガートのような規模のデザイン工房には未来はない」
自動車のグローバル化、メーカーの統合、生産システムの変化、コストの切り詰め、どの要素を掴み上げても今後自動車作りは大きく変化することを確信していた。生き残ることはできない。ところが就職先も決まっていたにもかかわらず最終的に家業を継ぐ決心をする。

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「自分自身と対話するうち、私の躰はザガート病に侵されていることに気がついたんです。病と呼ぶに相応しいほど家族の作ってきたクルマが好きで、誇りだということです」

ザガート病なら私も侵されてみたい。羨ましいと言うと彼が、「これはこれで大変ですよ」と苦笑する。確かに。ザガートという名字を持っている以上、初対面の人に名前を告げただけで出自がわかるのだ。それほどザガートは知られている。

現在のザガートはアンドレアの指揮のもと、SZデザインという名に生まれ変わり、デザインを統括する企業となっている。生産システムを大幅に見直し近代化を果たして自らの手で老舗に未来を与えたのである。アルファ ロメオのマシーンをベースにしたプロジェクトもある様子。内容はシークレットだが、ミラノの魂が込められていることだけは確かだ。

「ミラノはアルファ ロメオの原点、それはザガートにとっても同じです。何事も半年早い都市」

“半年早い”とは未来を先取りするという意味なのだと思う。つまりアルファ ロメオ&ザガートが生み出すのは未来であると言いたいのだろう。この強力なコンビを作りあげたのは間違いなく“ミラノ”である。

PROFILE

松本 葉(まつもと・よう)

自動車雑誌「NAVI」の編集者、カーグラフィックTVのキャスターを経て1990年、トリノに渡り、その後2000年より南仏在住。自動車雑誌を中心に執筆を続ける。著書に、「愛しのティーナ」(新潮社)、「踊るイタリア語 喋るイタリア人」(NHK出版)、「どこにいたってフツウの生活」(二玄社)、「私のトリノ物語」(カーグラフィック社)ほか、「フェラーリエンサイクロペディア」(二玄社)など翻訳を行う。

Text:松本葉
Photos:Alberto Cervetti/アルファ ロメオ/ENGINE archive
制作:ENGINE編集部

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