Creativity 2018.12.07

タグ・ホイヤーの提示するスマートウォッチの新しい未来

Apple Watchの登場以降、様々なメーカーがスマートウォッチ市場に参入した。その中でも大きな成功を収めているのが『タグ・ホイヤー コネクテッド』だ。今回は高級腕時計専門誌の『クロノス』日本版で編集長を務める広田雅将氏に、タグ・ホイヤーが示す、スマートウォッチ、そして高級腕時計の新しいあり方について解説してもらった。

スマートウォッチの隆盛を受けて、今や様々なメーカーが、このジャンルに参入した。その中で、ひときわ際立つ“時計”がある。それがタグ・ホイヤーの手がける『コネクテッド モジュラー』だ。計器としての確かさに加えて、この時計には、自分だけの1本を作るという、全く新しい要素が盛り込まれたのである。

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もともとタグ・ホイヤーは計器メーカーだった

今や、スポーツウォッチメーカーとして、知らぬ人のいない存在となったタグ・ホイヤー。しかし、同社に最盛期をもたらしたジャック・ホイヤー氏(現名誉会長)はこう語った。「(私がホイヤーに入社した1958年当時)ホイヤーはほとんどストップウォッチを製作しており、今のような腕時計メーカーではありませんでした」。事実、彼が腕時計の分野で成功をもたらした72年の時点でさえ、ホイヤーは売り上げの多くをストップウォッチに頼っていたのである。タグ・ホイヤーは、どの時計メーカーにもまして、計器メーカーだった。

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▲タグ・ホイヤー 名誉会長 ジャック・ホイヤー氏

計器メーカーとしてタグ・ホイヤーが成功を収めた理由は、いち早くアメリカ市場に進出したことと、様々なジャンルに対応できるよう、様々な種類のストップウォッチを用意したためだった。中でも、モータースポーツのジャンルに関して、ホイヤーは実に多彩なバリエーションを揃えたのである。

ジャック・ホイヤーのセンスがホイヤーを時計メーカーに脱皮させた

こういう方向性を確立させたのが、ジャック・ホイヤー氏だった。学生時代からモータースポーツに熱中した彼は、弱冠28歳で、ホイヤーの筆頭株主となった。ラリーカー向けの『ダッシュボード・クロノグラフ』を刷新しただけでなく、モータースポーツにも向く、まったく新しい腕時計クロノグラフを開発したのである。

ちなみに当時、ホイヤーは世界最大のストップウォッチメーカーであり、強いて腕時計用クロノグラフを作る理由はなかった。しかし、ホイヤー氏は、腕時計クロノグラフこそ、ホイヤーの未来には不可欠だと確信していたのである。

そのホイヤー氏は、経営だけでなく、デザインセンスにも恵まれていた。本来、計器として考えるなら、高い視認性は重要だ。しかし、工科大学で工学を学び、建築に興味を持つ彼は、視認性を重視するあまり、デザインが洗練されなくなることを望まなかった。その好例が、1963年に発表された腕時計クロノグラフの『カレラ』だ。風防を支える部品を斜めに成型し、そこにタキメーター(1kmあたりの速度を計測できる目盛り)を加えた結果、カレラは大きな文字盤を持つだけでなく、クロノグラフらしからぬすっきりした見た目を持ったのである。

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▲腕時計クロノグラフ『カレラ』

以降、彼のセンスは、ホイヤーの時計にユニークな見た目を与え、やがてそれは、機能性に並ぶ、ホイヤーの個性となった。

経営権が移り、それに伴い会社名がタグ・ホイヤーに代わった後も、その個性はまったく変わらなかった。むしろ計器であり、ユニークなデザインを持つタグ・ホイヤーの個性は、1980年代以降、より開花したと言える。例えば、1990年代に一世を風靡した『S/el(セル)』。丸みを強調したそのデザインは、今までにないものだった。加えて、外装から角を落とすことで、この時計は、実に優れた付け心地を持っていたのである。つまり、タグ・ホイヤーは専門家向けの計器だったクロノグラフを、普段使えるものに洗練させたわけだ。

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▲『S/el(セル)』

進取の気性が生み出した全く新しいスマートウォッチ

こういう時計作りを続けるタグ・ホイヤーが、コネクテッドウォッチこと、スマートウォッチに注目したのは当然だろう。1960年代に、腕時計クロノグラフに新しい可能性を感じたタグ・ホイヤーは、時計のフロンティアをスマートウォッチに見出したのである。しかも、スマートウォッチは、搭載するアプリケーション次第では、市場にあるどんなクロノグラフよりも、いっそう計器になれるだけの可能性を秘めていた。

2015年3月、タグ・ホイヤーは、まったく新しいコネクテッドウォッチの開発を公表。そこからわずか8か月後には、『タグ・ホイヤー コネクテッド』を発売したのである(現在は販売終了)。タグ・ホイヤーで開発責任者を務め、コネクテッドの開発を指揮したギィ・セモン氏はこう語った。「今後、あらゆるものがコネクテッドになるだろう。良いか悪いかはさておき、私達はそれに乗る他ない。そして、200から1,500スイスフラン(日本円で2〜20万円程度)までの時計は、スマートウォッチの進出により少なからぬ影響を受けるだろう。それは言うまでもなく明確だ」。

1207_mondo_tagheuer_6 タグ・ホイヤーの提示するスマートウォッチの新しい未来▲『タグ・ホイヤー コネクテッド モジュラー 45(2017年発表)』

極めて短期間で開発したとはいえ、この“時計”は、老舗らしくいかにも隙のないものだった。というのも、タグ・ホイヤーならではの機能性と、様々なシチュエーションに対応できるソフトウェアに加えて、スマートウォッチらしからぬ、すっきりしたデザインを持っていたのである。また、保証期間の後に追金をすれば、コネクテッドウォッチ部分を機械式時計に交換できたのも(2015年当時)、まったく新しいアイデアだった。もちろん、中身もぬかりない。タグ・ホイヤーは共同開発のパートナーに、グーグルとインテルという一流メーカーを迎えたのである。

その結果は、驚くべきものだった。タグ・ホイヤーはたちまち10万本を売り切っただけでなく、当時のCEOジャン-クロード・ビバー氏に言わせると「5倍の本数があれば、それも売り切っただろう」というほどの人気を集めたのである。事実、タグ・ホイヤーの成功を見たある時計メーカーは、路線を変更して、スマートウォッチ分野への参入を決めたほどだった。その成功は日本も同様である。タグ・ホイヤー コネクテッドは、タグ・ホイヤーに馴染みのなかった人々にも選ばれているのだ。その後の2017年3月には、ストラップ、ベゼル、ケース素材などを自由に組み合わせることが可能な『タグ・ホイヤー コネクテッド モジュラー 45』を発表。

1207_mondo_tagheuer_7 タグ・ホイヤーの提示するスマートウォッチの新しい未来▲LVMH ウォッチメイキングディビジョン会長 ジャン-クロード・ビバー氏

そして、その最新作に当たるのが、小ぶりな『タグ・ホイヤー コネクテッド モジュラー 41』だ。コネクテッドウォッチとしての機能はモジュラー 45に同じ。もともとモジュラーは、チタンやセラミックスケースを持つ、きわめて軽い時計だった。加えてサイズが小さくなった結果、タグ・ホイヤーならではの装着感はいっそう改善された。また、外装部品のバリエーションも増え、自分好みの時計が、簡単に仕立てられるようになったのである。

1207_mondo_tagheuer_8 タグ・ホイヤーの提示するスマートウォッチの新しい未来▲『タグ・ホイヤー コネクテッド モジュラー 41』

普通、スマートウォッチを作るメーカーは、外装がモディファイされることを好まない。というのも、壊れても修理できないからだ。今のタグ・ホイヤーはハイテクなコネクテッドウォッチを作っているが、あくまで時計メーカーである。壊れても修理できる、という自信が、コネクテッド モジュラーに多彩なバリエーションを与えることになった。ビバー氏はこう語る。「私達はアップルでもLGでもない。私達は違う種類の仕事をやっているのだ。彼らの仕事は電気で動くものを作ること、私達の仕事は時計を作ることだ」。時計、つまり、よりエモーショナルな存在ということだ。

スマートウォッチにおける新しい可能性

タグ・ホイヤーが目指し、磨き上げようとしているのは、コネクテッドウォッチというありふれたプロダクトで、個性を演出することだった。いまのスマートウォッチは、基本的に同じ形を持っている。個性を演出するには、せいぜいベルトを変えるしかない。対してホイヤーは、外装を様々に変えられることによって、自分だけの1本が欲しい、という消費者の要望に対して、真摯に答えたのである。

1207_mondo_tagheuer_9 タグ・ホイヤーの提示するスマートウォッチの新しい未来▲『タグ・ホイヤー コネクテッド モジュラー 41』

いくつかのリサーチに従うと、あと数年でスマートウォッチの出荷本数は年に8,000万本になると、予想される。とりわけ、もっとも時計の需要が大きい北米市場に目を向けると、500ドル以下の時計の半数以上は、すでにスマートウォッチが占めるに至った。

しかし、たしかに便利だが、人と全く同じ時計を着けるのは嫌い、という人はいるだろう。現時点で、それに対する唯一の解決策を提示したのがタグ・ホイヤーだった。いかにも高級時計らしい精密な外装とともに、である。見た目は自分だけの高級時計。しかし、今まであるどんな時計よりも使えるという点で、これは高級時計の新しいカタチ、といえないだろうか。

タグ・ホイヤーらしいユニークなデザインに加えて、他ではありえない、外装でも遊べるスマートウォッチ、コネクテッド モジュラー 45と41。しかし重要なのは、これは、“計器屋”が作った“時計”ということだ。かつてのラリードライバーたちが信頼を託したタグ・ホイヤーの真摯な時計作り、そしてエモーショナルなプロダクトで有り続けようという同社の姿勢は、最新鋭のハイテクウォッチでも、何ひとつ変わることはないのである。

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INFORMATION
LVMH ウォッチ・ジュエリー ジャパン タグ・ホイヤー

TEL 03-5635-7054
URL https://www.tagheuer.com
PROFILE
広田 雅将

時計専門誌『クロノス日本版』編集長。1974年大阪府生まれ。サラリーマンを経て2004年からフリーのジャーナリストとして活動。朝日新聞&、GQ JAPANなどに連載多数。

Text:広田雅将
画像提供:タグ・ホイヤー

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