Creativity 2019.03.04

オーストラリアからやって来たダンディで繊細なテーラー、ザ・クロークルーム

ザ・クロークルーム トウキョウはオーストラリアに本店を持つテーラー、ザ・クロークルームの3号店だ。なぜオーストラリアでテーラード文化が盛り上がっているのか? いま世界最先端のファッションシーンはどうなっているのか? 日本法人の代表・島田雅史氏に話を聞いた。

映画『クロコダイル・ダンディー』以来、オーストラリアはファッションとは無縁の国と思われてきた。しかし近年、かの国ではテーラード文化が大きな盛り上がりを見せ、多くのダンディたちが街を闊歩しているという。ザ・クロークルームは、そんなオーストラリアからやって来たテーラーだ。そこには、オージー(オーストラリア人)のグローバルで大らかな視点と、日本の繊細なモノ作りがあった。

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エレベーターのドアが開くと、磨き込まれた大理石のフロアと美しくディスプレイされたトルソーが目に入る。どこから見ても、エレガントな一流テーラーの風景だ。しかし、今回ご紹介するザ・クロークルームには、他のテーラーとは大きく違う点がある。それはオーストラリアからやって来たということだ。注文服といえば、英国やイタリアが本場とされているが、なぜオーストラリアなのか? 日本代表の島田雅史氏に伺ってみると、知られざる世界最先端のファッション・シーンが見えて来た。

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クロコダイル・ダンディーの国

『クロコダイル・ダンディー』(1986年)という映画をご存知だろうか? オーストラリアの原野からニューヨークへやって来た男が、特大ナイフを振り回し、都会の悪者どもをやっつけるという痛快コメディだ。当時大ヒットを記録し、シリーズ3まで作られた。

主演のポール・ホーガンは、素肌に革ベスト、そしてジーンズという出で立ちで、男らしさは全開だがファッション的には目も当てられなかった(まぁ、そういう狙いがあっての衣装だった)。以来、オーストラリアはファッションとは無縁の国であると、ずっと思われてきた。

しかし最近では、事情は大きく変わって来ており、オーストラリアはメンズ・ファッション大国になりつつある。メルボルンなどには、洒落たブティックが軒を並べ、街行くビジネスマンの身だしなみも、見違えるようになった。島田氏によると、その理由は2つあるという。

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「まずは景気がいいこと。街中には高級車がたくさんとまっていて、投資などもさかんに行われています」

長らく不況に喘いだ日本を尻目に、オーストラリアでは過去20年間に亘って好景気が続いた。その結果、特に若い層が、お洒落に目覚めたのだという。

「もうひとつの理由は、SNSの発達です。過去オーストラリアには、目立ったファッション雑誌がなかった。しかしインスタグラムなどの普及で、誰でも最先端のお洒落情報に触れられるようになりました。ザ・クロークルームも本国のマーケティング活動は、ほぼインスタグラムだけでやっています。それで十分なお客様が来るのです」

売っている服は日本製!?

2008年、ザ・クロークルーム第1号店は、オーストラリア東海岸のゴールドコーストにほど近い街、ブリスベンにて生まれた。創業者はオーストラリア人のアンドリュー・バーン氏で、これにイタリア×アラブ系のカナダ人、ルイ・イアレンティ氏が加わった。

190304_mondo_thecloakroom_08 オーストラリアからやって来たダンディで繊細なテーラー、ザ・クロークルーム▲ブリスベンにあるザ・クロークルーム第1号店

2015年、イアレンティ氏の地元である、カナダのモントリオールに、バーバーとバーを併設する第2号店をオープン。そして2017年12月に東京店をオープンさせた。世界に3つあるストアは、バラバラな場所に散らばっている。日本では、考えられない出店計画だ。

190304_mondo_thecloakroom_010 オーストラリアからやって来たダンディで繊細なテーラー、ザ・クロークルーム▲モントリオールのザ・クロークルーム第2号店

190304_mondo_thecloakroom_09 オーストラリアからやって来たダンディで繊細なテーラー、ザ・クロークルーム▲第2号店にはバーバーも併設されている

「オージーは、とにかく考え方が大らかでポジティブなのです。まずは、やってみようと。それに英語圏の人々は、どこでも言葉が通じるので、常に世界中を移動しています。だから、1カ所にこだわる必要もない」

そんなインターナショナルなザ・クロークルームで売られている服は、なんと日本製であるという。島田氏がバーン氏、イアレンティ氏に出会ったのも、前職である日本の服飾メーカーにおいてであった。

「以前は、香港やイタリア製のものも扱っていたようですが、現在ではほぼ100%、メイド・イン・ジャパンです。確かにイタリアの服には雰囲気があり、歴史が感じられますが、納期に問題があります。その点、日本の仕立て工場は、仕事が丁寧で、納期もきちんと守り、価格とのバランスもいい。これがインターナショナルなマーケットを持つ、ザ・クロークルームにぴったりだったのです。われわれのお客様は洋服マニアではなく、ビジネスマンが多い。ですから、クリーンで正確な作りを特徴とする日本製の洋服が好まれるのです」

今では、世界に発送される服のクオリティ・コントロールも、日本在住である島田氏に任されているという。

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筋肉を引き立てるスーツ

ザ・クロークルームの洋服には、オーストラリアのブランドならではの特徴がある。それは、筋肉質な体型をより引き立てる、ということだ。

「オーストラリア人は、とにかくデカい(笑)。健康志向で、筋トレも欠かさず行なっています。われわれのオリジナル・モデルである“ジョナサン”は、そういった体型を、いかに美しく見せるかを考えて作られたものです。実は筋肉隆々という体型は、スーツ・スタイルにはあまり向いていません。例えば大胸筋が大きいと、ジャケットの前身頃を持ち上げてしまい、裾が拝んで(内側に重なって)しまうのです。そこでパターンを工夫し、前を小さく、背中を広く、縦のラインを長くしました。結果として、体が大きくてもスマートに見えるスーツが完成しました。そしてこれは、筋肉質のみならず、太っている人にも効果的なのです」

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▲『ジョナサン』 315,000円(+tax)

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もちろん、普通の体型の人には、ノーマルなパターンを使ったモデルも用意されているのでご安心を。

ザ・クロークルームのスーツは、インターナショナル・マーケットを相手にしているから、全体的に端正でクセのないシルエットを特徴とする。ディテールでは、ややコンケーブした肩山や、細く繊細な玉縁ポケットなどが目につく程度だ。しかし、そのこだわりは、内側にこそあるという。

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▲『312』 261,000円(+tax)

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「胸部のバス芯や肩パッドを外し、軽さと着心地のよさを追求しました。ものすごく着心地にこだわるお客様がいて、その方のリクエストにお応えしていったら、こうなりました(笑)」

素材としてプッシュしたいのは、ドーメルの“アマデウス アクション”。

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「ウール100%の天然素材なのに、ストレッチ性があるのです。実に動きやすくて、着心地もいい。290gと薄手ですから、スリーシーズン着られますし、復元性も高くて、シワも入りにくい。おすすめです」

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色柄は? との問いには、

「日本においては、紺やグレイ無地などのベーシックなものばかりです。ところがオーストラリアでは、派手な色や強めのチェックなどが人気です。ここは両国が大きく違うところですね。思うに、オーストラリア人って、あまり他人の目を気にしないのです。自分が好きなものだったら、躊躇なく身に着けるという……」

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ブラジル移民が作った最高級シルク

コーディネイトも、実にシンプル。オリジナルのタイは、無地のソリッドのみの展開だ。しかし、その素材には並々ならぬこだわりがある。

「“ブラタク”と呼ばれる最高級シルクを使っています。これはブラジルで産出されているシルクなのですが、作っているのは日系の企業です。戦前、日本人がブラジルへ移住するときに、当時の特産品であったシルクを生産するために、カイコを連れて行ったのです。その後、日本人がブラジルで生み出すシルクは世界最高との評判を得ました。その伝統を守り続けているのが、ブラタクシルクなのです。例えば、某有名メゾンが使っているシルクは、今でもブラタクのみです」

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もうひとつの目玉商品は、オーダーメイドのレザージャケットである。素材は、とろけるような柔らかさを持つラムレザー。サイズはもちろん、デザインまで細かく指定することができ、自分だけの1着が手に入る。

「ラムレザーの原皮はとても小さく、さらにいいところだけを使います。これも日本製で、クオリティの高さが自慢です」

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世界中のいいものだけを集めたのが、ザ・クロークルームなのだ。

島田氏は、これからの日本のテーラーは、ただスーツを売るだけではなく、カジュアルにも対応していかなければならないという。

「今どきの日本でスーツを買う人というのは、本当にきちんとした格好が必要な人です。スーツが使われるのは、とてもマジメなシチュエーションなのです。例えば、お客様の中にはIT系企業の経営者の方も多いのですが、スーツは“株主総会用”なのです。日本のファッション・マーケットは二極化しています。つまりストイックなスーツか、革ジャンか、といった具合です。その点、オーストラリアは自由ですね。ビジネスにおいても、さまざまな色柄を楽しんでいる。ちょっと、羨ましくもあります」

こういった自由な土壌があることも、オーストラリアのファッションが急成長している理由かもしれない。

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夢は“キモノ”を扱うこと

最後にこれからのザ・クロークルームの未来を伺うと、これまた視野の広い答えが返って来た。

「グローバルには、4月にメルボルン店がオープンします。冒頭に申し上げたように、ビルの最上階に位置し、テーラーとバーが一緒になったような店舗です。紳士の社交場のようなイメージでしょうか? 服好きの仲間が集まって、1杯やりながらファッションの話をするという……」

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こんなスペースは、日本でもぜひ実現して頂きたい。

「日本においては、いずれ“キモノ”のオーダーをやりたいと思っています。私には2歳半になる息子がいて、もうすぐ七五三を迎えるのですが、日本の七五三は母親と息子は着物、そして父親だけはスーツということが多い。これは変じゃないかと(笑)。日本の冠婚葬祭には、やはり男も着物を着るのがいい。われわれの店では、フォーマル用の服を作る方が多くいらっしゃいますが、選択肢のひとつとして和装をご提案できたら、とても面白いと思うのです。勉強のために、最近茶道を始めました」

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決して外国人顧客を狙うわけではない、と仰っていたが、ザ・クロークルームは、海外を拠点とするテーラーだ。これからは日本の文化を、外国へ発信していく可能性も大いにありとみた。

オーストラリアからやって来たザ・クロークルームは、グローバルな視点と成長力を持ったテーラーだ。そこに島田雅史氏という日本人が加わることによって、繊細な感性がプラスされている。

ずばり、このテーラーをおすすめできるのは、筋肉質な肉体と高い美意識を持つ、グローバルに活躍するビジネスマンだ。それは、すべての男にとって、理想ともいえる存在であろう。気後れすることはない。なぜなら“体型補正”も、テーラーの腕の見せ所だからだ。

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INFORMATION
THE CLOAKROOM TOKYO

所在地 東京都中央区銀座7-10-5 ランディック第3銀座ビル5階
TEL 03-6263-9976
営業時間 12:30〜19:00(予約制)
定休日 月曜日
価格 スーツ¥180,000〜、ジャケット¥100,000〜
納期 1ヶ月半〜2ヶ月
URL https://thecloakroom.jp/

Text:松尾健太郎
Photos:Masato Yokoyama

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