スローウェア。大人にふさわしいSLOWの本質が理解できる服

ファストファッションが世界を席巻するなか、そのアンチテーゼとして、スローという価値観を標榜するイタリア発のスマートカジュアルブランド、スローウェア。イタリアに存在する未来の洋服とは? スローウェアジャパン代表の鈴木雄一朗氏に話を伺った。
SLOWEAR(スローウェア)は時代に逆行しているのか?
仕立てや着心地の良さ。あるいはシルエットの美しさ。つまりは技術と経験に裏打ちされたカッコよさ……。この世界に数多存在するファッションブランドは皆、自社製品に対して同じようなアピールをする。しかし株式会社スローウェアジャパン代表の鈴木雄一朗氏は、違う言葉を用意した。
「スローウェアの服は、着るだけで自信や安心感が生まれます。それは、衣食住を含めた日々の暮らしの中で、自らのモチベーションが高まること。さらには、より豊かな生活が送れる幸せにつながります」
株式会社スローウェアジャパン 代表 鈴木雄一朗氏。
なんと斬新な回答だろう。確かに服とは、身につけてこそ仕立てや着心地やシルエットの実際が体感でき、着続けることで鈴木氏が口にしたような、生活の中で芽吹くおだやかな変化を起こすものだ。
だが現代は、ゆっくりとした変化を好まない傾向にあり、それに応じる形で、仮にワンシーズンで捨て去られるようと見映えの良さと低価格で勝負するファストファッションが台頭することになった。
事実、スローウェアはホームページ内で、“消費主義に対抗する長生きするスタイル”を宣言し、かつ大見出しで“イタリアに存在する洋服の未来”と謳い上げている。その強烈な自信はどこから来るのか? すべての答え、つまりスローウェアの知性[IQ]と感性[EQ]は、ブランドネームに記された“SLOW”に込められていた。
インコテックスはパンツだけ。それは尊敬すべき頑なさ
スローウェアの起源および核となるのは、1951年にイタリア・ヴェネツィアで誕生したINCOTEX(インコテックス)だ。創業時に“Solo Pantaloni(パンツ一筋)”というコンセプトを掲げて以来、仕立てや生地、あるいは穿きやすさに貢献する細部へのこだわりを貫き通し、世界中の服好きに比類なきパンツのマスターピースとして認知されているブランドだ。
INCOTEX パンツ ¥38,000 (+tax)
「決して安価な素材を使いません。欲しいものがなければ自らつくります。直近では、涼感が素晴らしいアイスコットンや、驚くほど軽いスーパーライトウェイトコットンという生地を生み出しました。シルエットにしても、ポケットの位置でヒップがより高く見えるなど随所に工夫を凝らしています。その差はごくわずかですが、微妙な加減を知っているのがインコテックスです」
自身もファンだという鈴木氏の語りは止むことがない。
「お客様には、インコテックスブランドでジャケットやシャツをつくればいいのにと言われますが、彼らはやりません。あくまでインコテックスはパンツだけだと。それは尊敬すべき頑なさです」
そうしたインコテックス以外を求める声に応じる形で生まれたのが、ニットウェアのZANONE(ザノーネ)。カジュアルシャツのGlanshirt(グランシャツ)。ジャケット、アウターウェアのMONTEDORO(モンテドーロ)。そしてイタリアメイドにこだわったシュ-ズ等々小物、雑貨類のOFFICINA SLOWEAR(オフィチーナ スロ-ウエア)。以上のブランドで、現在のスローウェアが構成されている。
ZANONEポロシャツ ¥27,000(+tax)/INCOTEXパンツ ¥29,000(+tax)/OFFICINA SLOWEAR バンダナ ¥11,000(+tax)/OFFICINA SLOWEAR シューズ ¥47,000(+tax)
ディティールを見逃さないのはイタリア人と日本人だけ
「ブランドネームの発案者はオーナーでした。実は、イタリアを語源とするスロ-ライフ、スロ-フ-ドがヒントになっているのです」
鈴木氏によれば、食に対するこだわり、ひいては豊かな暮らしを求めるイタリア人ならではの感性に満ちた生き方が、その命名に反映されているという。
「美味しいものができあがるには、食材の生産者やシェフの思いが欠かせません。もちろん食材や調理法には旬がありますが、美味しいものを気持ちよく楽しみたい気持ちは、流行などに左右されない普遍的な欲求です。それが“SLOW”の基本。パンツ一筋のインコテックスの考え方もまったく同じ。そのインコテックスを軸にブランドグループをつくるなら、スローなウェア、スローウェアという名前以外になかったのでしょう」
おそらくイタリア人が口にする“SLOW”には、直訳的な「ゆっくり」や「遅い」以外の、たとえば「慌てない」「穏やか」「手間をかける」というような意味合いが含まれている気がする。それは、我々日本人も作法や所作といった文化によって本質的に理解できるものだと思う。
「彼らは言います。より良く着るためにしつらえたディティールを見逃さないのは、世界の中でもイタリア人と日本人だけだと。クルマもそうですよね。確かに私たちは、レザーシートのステッチの色に愛着を覚えることができる。むしろシンプルなものにこそ“SLOW”を感じられる点で、私たち日本人にもスローウェアの良さがわかる感性があります」
タイムレス・コンフォートを求める人は今後さらに増えていく
スローウェアの“SLOW”さが見て取れるのは、服ばかりではない。衣食住全般に渡って魅力的なトピックスを紹介するオンラインジャーナルマガジンや、年2回発行のオリジナル雑誌も、スローウェアの世界観を表すアイテムとなっている。誤解を恐れずに言えば、各メディアの記事は仮にスローウェアを知らなくても十二分に楽しめる内容だ。それほどまでにコンセプトの価値を多くの人々に伝えたい意欲を持つファッションブランドは、やはり稀有と言って間違いないだろう。
年に2回発行されている『スローウェア マガジン』
だがしかし、スローウェアが提唱する“SLOW”には、“FAST”が主流を占めつつあるファッション業界に向けた警告や挑戦という意味もあるはずだ。鈴木氏は、現オーナーがミラノの服飾学校で行ったスピーチの中に、スローウェアの知性を感じる言葉を見つけたという。
「Buy Less. Buy Better. 要約すれば、より良いものだけを求めていこう。ファストファッションが時流に逆らえないものだとしても、その中でクリエイティブに関わる人間は、本当に愛着を持てるものを見極める力を育てなければならないと彼は訴えました。どんな時代であれスローウェアが目指すのは、モードを超えることです。それは簡単なチャレンジではありません。しかし、タイムレス・コンフォート、時代に関係なく自分らしさを表現してくれる快適な服を求める人は必ずいらっしゃいますし、むしろ今後はさらに増えていくでしょう。その事実を知っているのがスローウェアの強みです」
非常に残念だが、ここではスローウェアのフィロソフィーの断片しか伝えられない。なぜなら先にも触れたように、服は身につけてこそその素晴らしさが体感でき、着続けることで生活の変化を実感できるものだからだ。なのでせめて、身につけたい衝動だけでも覚えてほしいと願う。そして一度でも体感すれば、大人にふさわしい“SLOW”の本質が理解できるはずだ。
「それはごく些細なことから始まるのです。たとえばインコテックスのパンツをはいていて、奥さんや友人に『スタイルがいいね』と褒められたらうれしいじゃないですか。そんな言葉にワクワクできるのが、ファッションを楽しむ原点ですからね」
THE SLOWEAR STORE TOKYO MIDTOWN
住所 | 東京都港区赤坂9丁目7−4 東京ミッドタウン Galleria1F |
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TEL | 03-6721-1583 |
営業時間 | 11:00〜21:00 |
URL | https://www.slowear.com/ja/enter-slowear |
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Text:田村 十七男
Photos:大石 隼土