Products 2020.03.13

新しい体験と感動を ~開発担当者が語る、ソニーのαシリーズが負うべき使命~

世界初のフルサイズミラーレス一眼カメラとして登場したソニーの『α7』。2013年の発売からわずか数年にもかかわらず、フルサイズ一眼市場ナンバーワンシェアを獲得するに至ったαシリーズの商品企画担当者は、開発の目的をこう語った。
「技術革新でクリエイターに驚きを与え続けたい」
アルファ ロメオが掲げるブランドステートメント“感情の力学”にも呼応する、ソニーのαシリーズのイノベーションの真実に迫る。

『α7』に至るデジタルの可能性と野望

「ようやく比較してもらえるところまで来ました」
フルサイズ一眼カメラ市場で老舗メーカーを圧倒するシェアを確立した点について意見を求めたら、岩附豊氏は間髪入れず、実に謙虚な言葉を返した。岩附氏は、ソニーイメージングプロダクツ&ソリューションズ株式会社の商品企画部に属し、2019年までデジタルカメラ商品企画の現場最前線でαシリーズ開発の中心にいた人物だ。現在は、デジタルイメージング全体のビジネス戦略担当部長を務めている。

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▲ビジネス戦略担当部長 岩附豊氏

「後から市場に参入した者として、我々がカメラ産業にいる理由を突き詰めて考えました。そこで出た答えは、誰もやってこなかったイノベーションによる新たな価値と体験の提供でした。ソニーはそこにこだわっていこうと」

市場参入経緯で記しておくべきは、2006年に行われたコニカミノルタからソニーへのカメラ事業譲渡だ。大きな話題となったので覚えている方も多いだろう。同時に、「ソニーがカメラ?」という疑念を抱いたカメラファンも少なくなかったと思う。そんな世間の耳目を集めたニュースの渦中に、当時の岩附氏はいた。

「正直、大変なことになったと思いました。何しろコニカミノルタにはすでにαシリーズが存在し、カメラ本体に留まらずレンズのユーザーも数多くいらっしゃいましたから、αシリーズを選んでいただいた方々の未来に対する責任と使命を強く感じました。ただしそれ以前から我々は、デジタルカメラ全域における可能性を根拠にした、密かな野望を抱いていたのです」

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その道筋を明確にした最初の出来事は、2008年頃に始まったミラーレスカメラブームだ。各社が新機種を投入する中、ソニーは2010年にα NEX(アルファ・エヌイーエックス)シリーズを発売。人気を博していたコンパクトデジタルカメラのサイバーショットとは一線を画してαの名を冠したこと。さらにこのモデルから現在のαシリーズで使われている機構の一つのEマウントを採用したこと。これらが『α7』登場の布石となった。

従来の一眼レフカメラは、構図やピントを確認するための光学ファインダーに、像を反射し映し出していたミラー(レフ)がある分、カメラ本体も大きく重たかった。ミラーレスカメラは、レンズの直後に置かれるイメージセンサーに像が直接届き、デジタルに変換して電子ビューファインダーやモニターに映し出す仕組みになる。

②ミラーレスカメラ構造図 新しい体験と感動を ~開発担当者が語る、ソニーのαシリーズが負うべき使命~

「ミラーレスは、ミラーを収めていたボックスも省略できるのでカメラの小型軽量化が叶います。そのメリットを活かせば新たなユーザーを獲得できるという狙いがどのメーカーにもありました。それに加えて私たちが託したのは、小型軽量で機動力が向上したミラーレスが映像制作の現場で活躍する期待でした。となれば次に求められるのは、より高画質の映像が撮れるフルサイズ。我々にはそうした計画が早い段階から存在していました」

再び専門用語の説明を。フルサイズとは、レンズから入った光を電気信号に変換する撮像素子=イメージセンサーの大きさが35mm判フィルムで用いられていた画面サイズ(およそ36mm×26mm)に相当することを意味している。

その大型イメージセンサーの登場が岩附氏たちの計画に組み込まれていたのはなぜか? 
「我々の強みは、半導体の撮像素子を含め、光学エレメントやアクチュエーターというモーター関連など、デジタルカメラの主要部品を社内で内製していることです。だからこそイメージセンサーの将来や可能性を具体的に構想することができました」

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新しい体験と感動を提供したい

αシリーズの圧倒的な優位性を支えるのはソニーの半導体技術。その開発史をさかのぼっていくと、今から約70年前の事実にたどり着く。驚くことにソニーは、社名がまだ東京通信工業だった1953年に半導体プロジェクトに着手していた。しかも翌1954年には日本初のトランジスタ試作に成功。その技術開発の気概は脈々と受け継がれ、岩附氏によればソニーが初の商品化を実現させたCCD(これも撮像素子の一種)は全日空の旅客機用オンボードカメラに採用されたという。それら半導体事業の成果があってこそ様々なソニー製品が誕生したのである。現行のαシリーズも然り。登場からわずか数年でフルサイズミラーレス一眼カメラ市場を席捲できたのは、ソニー独自の歴史に裏打ちされた、ある意味で必然の結果と言っていいのかもしれない。

④トランジスタ 新しい体験と感動を ~開発担当者が語る、ソニーのαシリーズが負うべき使命~
▲初期のトランジスタ

驚きはまだある。先に触れたように、2013年に発売された『α7』は“世界初”のフルサイズミラーレス一眼カメラだった。αシリーズはその“世界初”を連発するのである。詳細な技術情報は割愛させていただくが、2014年の『α7Ⅱ』、2015年の『α7RⅡ』、さらに2017年の『α9』にはいずれも製品コピーに“世界初”が記されている。技術項目が異なるにせよ、同じシリーズ内で著しい自己記録更新が行われる様子は、今は懐かしい昭和の高度経済成長時代を彷彿させると岩附氏に伝えると、照れたような表情を見せた。

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「目標の一つは、1日も早くプロフェッショナルに認められることでした。世界初を連発したと言っても、発売からしばらくは自ら上げたハードルの高さに苦労していたのです。様々なご意見もいただきました。『ソニーのカメラがいいはずがない』から始まり、プロの方には『仕事で使うのにそんな小さなカメラはダメ』と言われたり……。そうしたご指摘に向き合うのはもちろん、我々自身が足りないと気付いた部分もあって、意識的に開発速度を高めたところはあります。それと同時に、イノベーションを起こし続けることでカメラの世界を活性化させたいという願いもありました。αシリーズが認められ始めたのは、2015年に発売した『α7RⅡ』くらいからでしょうか。それでも『まだこれが足りない』とおっしゃっていただいたので、開発陣はそれをリストアップし、一つずつクリアするのが仕事の大部分を占めていました」

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αシリーズに関してこんな個人的トピックがある。このカメラに無音・無振動の電子シャッターが使われたことを知ったゴルフ関連フォトグラファーがこぞって“宗旨替え”を実施したのだ。プロゴルフの試合では、ゴルファーがクラブを構えてからボールを打つまでの間、シャッターを切ってはならない(シャッター音を出してはいけない)暗黙のルールがある。ゆえにスチールカメラマンはボールを打つ瞬間を記録できずにいたが、シャッター音がしないならとαシリーズが注目されたのである。ただしプロのフォトグラファーがシステムも使い勝手も異なる機材に換えるのは、一時的であれ職業生命を危険に晒すほどの勇気を必要とするものだ。にもかかわらず、という点がこのエピソードの肝である。

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「一人1台スマホを持ちSNSのアカウントを備えるこの時代にあって、個人の考えや思いを映像で表現したい人はさらに増えていくでしょう。我々はそんなクリエイターに技術で感動と驚きを与え続けたい。そしてクリエイターが表現した世界観に憧れる人が増えてくれることにも期待したいのです。ソニーがやるべきは、新しい体験と感動の提供です。AIの発達で簡単にキレイな写真が撮れるというような、道具の便利さがゴールではありません。もちろん技術革新は必須ですが、たとえばAFがより進化すれば、シャッターチャンスや構図など被写体との関係にさらに集中することができます。我々が注力すべきは、言葉にならない喜びを生み出す想像力を技術でサポートすることです。現在いただいている声に応えるだけでなく、将来の要望も予測しながらそれを越えた製品をお届けしていく。それはソニーという企業が負っている使命だと思っています」

モノが導き出すコトの感動。そこに作用するのは感情の力学。アルファ ロメオと同じように、ソニーのαシリーズもまた未知の世界へ連れて出してくれる頼もしいパートナーになるに違いない。

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Text:田村十七男
Photos:まるやゆういち

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