Diversity 2019.06.19

ウガンダのシングルマザーとともに作る、世界にひとつのバッグ ”RICCI EVERYDAY”

カラフルなアフリカンプリントを用いたハンドメイドの布バッグを販売する、ウガンダ発のファッション小物ブランド、リッチー・エブリデイ。アフリカの魅力を発信している創業者の仲本千津さんにブランドをはじめたきっかけや今後のビジョンについて話を聞いた。

来る6月20日(木)は国連総会で制定した「世界難民の日」だ。難民の保護や援助についての国際的関心を高め、理解と支援を促進することを目的とした国際デーで、世界各地でさまざまなイベントが実施される。そんな折、紹介したいのが、ビビットなアフリカンプリントを用いたバッグを、ウガンダで製作している日本企業『RICCI EVERYDAY(リッチー・エブリデイ)』だ。

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創業者の仲本千津氏は、ウガンダ駐在時にアフリカンプリントと出会い、その魅力を伝えるべく、同ブランドを立ち上げた。“世界中の女性が自らのポテンシャルに気づき、意志と誇りをもって生きる世界を実現すること”をブランドのビジョンとし、ウガンダの工房では、都市部に暮らすシングルマザーを中心とした現地スタッフが、ハンドメイドで、バッグトラベルグッズを製作している。

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大胆な模様と原色の鮮やかな色合いの『RICCI EVERYDAY』のバッグは、ひと目をひく。ブランドの創業者で、COO(最高執行責任者)の仲本千津氏は、「このバッグを持っていると色んな人に、褒められるんです」と笑顔をのぞかせた。「電車で、突然、声をかけられることもあるんですよ」。
『RICCI EVERYDAY』は、アフリカ・ウガンダ発の日本企業だ。バッグをはじめとする同社のアイテムは、すべて、ウガンダの首都・カンパラの工房で製作している。ウガンダがどんな国かわからないという人も多いと思うので、仲本氏の言葉を借りて紹介しておこう。
「首都カンパラは標高1,200メートルほどに位置し、赤道直下でありながら高原気候。とても過ごしやすいんです。人ものんびりしていて付き合いやすいですし、ほかのアフリカの国と比べれば、治安もそう悪くありません」
現在、仲本氏は日本で生活しているが、「日本の夏と冬は、過ごしやすいウガンダに行くようにしています(笑)」

ウガンダで、アフリカンプリントに出会う

大学院でアフリカ研究を専攻した仲本氏は、2014年、アフリカの国々で農業支援を行うNGO団体の仕事で、ウガンダに駐在することになる。空き時間には地元のマーケットなどに足を運び、異文化体験を楽しんでいた彼女は、そこでアフリカンプリントに出会った。

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「カラフルで見たことのないような柄が数えきれないくらい並んでいるんです。たくさんの生地から、お気に入りの柄を探すのが楽しくて、わくわくしました」
そういって、仲本氏はスマフォで撮ったマーケットの写真を見せてくれた。

IMG_0827-2 ウガンダのシングルマザーとともに作る、世界にひとつのバッグ ”RICCI EVERYDAY”

「これはビジネスになるのではないかと考えました」
しかし、仲本氏に裁縫のスキルはなかった。そんな折、友人の紹介で、4人の子どもを持つ、ウガンダ人のシングルマザー、ナカウチ・グレース氏に出会う。

Graceと初めて会った日 ウガンダのシングルマザーとともに作る、世界にひとつのバッグ ”RICCI EVERYDAY”
▲仲本氏がナカウチ・グレース氏と初めて会った日の様子

「彼女はいつも自分を責めていました。子どもたちに十分な教育を与えられないのは自分が教育を受けていないからだ、子どもには自分のような大人になってほしくないとも言っていました。そもそもウガンダには、そんな風に悲壮感を漂わせている女性が少なくないんです」
そんな状況下でも、グレース氏は生活を少しでも向上させようと、鶏や豚を飼ったりと試行錯誤を繰り返していた。この人となら、一緒にビジネスができるかもしれない──そんな思いが仲本氏に去来する。しかし、グレース氏にも縫製の技術はなかった。そこで仲本氏は、職業訓練校で、グレース氏に裁縫の技術を身につけてもらうことを思いつく。学費は仲本氏が負担した。

シングルマザーが出現しやすい環境

「責任感の強いグレースは、3ヵ月である程度の技術を身に付けてきました。でも作ってもらったサンプルは、日本で販売できるクオリティには至っていなかったんです。すると、職業訓練所で働いていた裁縫を得意とする、別の女性が一緒にやりたいと言ってきたんです。サンプルを作ってもらったところ、これなら商品になりそうだというものができあがってきました」
さらに革を縫う技術を持つ、ウガンダ人女性が加わった。こうして仲本氏は、2015年2月、カンパラで3メートル四方の小さな工房をスタートする。スタッフは仲本氏をのぞいて3人、その全員が期せずしてシングルマザーだった。

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「シングルマザーを支援しようと思って事業を興したわけではないのですが、なぜこれほどシングルマザーが多いのか調べてみたところ、ウガンダは非常にシングルマザーが出現しやすい環境にあったんです」
18歳以下が全人口の半分を占めるウガンダでは、高等教育を受けられない子どもが少なくない。慣習的に一夫多妻制も認められており、離婚率も高い。日本以上にシングルマザーは一般的だ。
「セックスワーカーとして働きながら、家庭を支えている女性もいます。彼女たちと働き、彼女たちの生活を垣間見たことで、ウガンダのシングルマザーたちのやる気と技術をいかすことができ、安心して働ける場所を作りたいと思うようになりました」
こうして仲本氏と3人のスタッフは、その小さな工房でサンプルを作り始める。デザインは仲本氏が担当。日本市場で販売することを鑑み、日本人が好むデザインを追求した。

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「日本人のお客様は“かわいい”だけでは買ってくれませんし、せっかく買ってくれても使い勝手が悪ければ、タンスの肥やしかゴミになってしまいます。せっかく作ったバッグですから、ぜひ使って欲しいんです」
こうして完成したのが、『RICCI EVERYDAY』の看板商品でもある“アケロ・バッグ(Akello Bag)”だ。

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「自分が欲しいバッグをかたちにしました。大きなクラッチが欲しかったんです(笑)。いろいろな用途に使えたら便利だよね、というフィードバックを受け、紐を調節することで、トート・ショルダー・クラッチ・ハンドバッグと4通りで使えるデザインにしました。ママバッグとして使われる方もいますし、1泊2日の旅行やお仕事用のバッグにもおすすめです」
持ち手部分にはレザーを使用。なかにはおそろいの布地のポーチが入っている。品質にもデザインにも徹底的にこだわった。

DSC_6403 ウガンダのシングルマザーとともに作る、世界にひとつのバッグ ”RICCI EVERYDAY”

DSC_6310 ウガンダのシングルマザーとともに作る、世界にひとつのバッグ ”RICCI EVERYDAY”

立ちあげから約半年後の2015年8月には、日本市場に進出できるだけのサンプルが完成する。当時、仲本氏はウガンダに拠点を置いていた。日本市場への進出にあたっては、日本で販売をサポートしてくれる人材が必要だ。そうはいっても新たに人を雇う資金はない。
「そんな時、思い浮かんだのが、母の顔でした」

違ったかたちでの豊かさが存在する

現在、『RICCI EVERYDAY』の社長を務める律枝氏は仲本氏の実母だ。オンライン販売の商品発送もしながら、全国各地のデパートで行われる催事では販売員も務めている。

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▲仲本千津氏と実母の律枝氏

「最初は売り場に立ってもらうだけでいいと考えていたのですが、専業主婦で営業経験のなかった母がみるみるうちに才能を発揮していったんです。4人の子どもを育てながら地域の活動にも積極的に参加していたことで、コミュニケーション能力やマルチタスク能力が鍛えられていったのでしょうね」
律枝氏の活躍は、仲本氏の想像を遥かにこえていた。ある時はアポイントなしで大手百貨店に乗り込み、インフォメーションセンターの人に、バイヤーさんを呼んでもらったことも。
「インフォメーションセンターって、こんな風に使うんだって初めて知りました(笑)」

お気づきだろうか。『RICCI EVERYDAY』というブランド名は、2人の名前、律枝と千津を合わせたものだ。
「リッチという単語は経済的な豊かさを想起させますが、違ったかたちでの豊かさがあることもお伝えしたいと、RICHではなく、“RICCI”としました」

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以来、全国の大手百貨店やセレクトショップ、自社オンラインストアを中心に販売を行ってきた、『RICCI EVERYDAY』だが、2019年5月、東京・代官山に、日本における最初の実店舗をオープンした。現在は“アケロ・バッグ”のほか、トートバッグやデニムと合わせたデザインのバッグや、ポーチやパスケースなどの小物、布の販売も行っている。ワンピースのカスタムオーダーも可能だ。
「代官山って丘になっているらしいんです。カンパラも7つの丘に囲まれた場所、どこか共通点を感じて。また、昔は代官山から富士山が見えたそうで、静岡出身の私は富士山というキーワードにもぐっときました(笑)」

DSC_6375_6373 ウガンダのシングルマザーとともに作る、世界にひとつのバッグ ”RICCI EVERYDAY”

期待はしないけれど、希望は持つ

現在、仲本氏は東京に、律枝氏は静岡に拠点を置く。3人のスタッフでスタートしたウガンダの工房は少しずつ規模を拡大。現在は一軒家の工房で、約20人のスタッフが働いている。事業は順調に成長しているように見えるが、距離の離れた場所で文化の異なる人たちと仕事をするのは簡単なことではないはずだ。

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「やりたくない仕事は振りません。縫うことが好きな人に、買い付けやお金の管理をやらせるなど、やりたくない仕事をお願いしても、効率があがらないことは自分の経験からわかっています(笑)。また、期待値は常にゼロにしておくと決めています。人は自分で培ってきた価値観をベースに物事を考えてしまいがちですが、自分の物差しではかれないことが世の中にはたくさんあります。私にはウガンダ人のスタッフたちが生きている環境や、どういう思いで暮らしているかは、どんなに頑張っても100パーセント理解することはできません。勝手に期待値を高く設定し、それが実現できなかったからといってイライラしても、相手は委縮し、効率も下がるだけです。何もいいことはありません。だから私のモットーは、期待はしないけれど、希望は持つ、なんです(笑)。そうはいっても、私もウガンダに来た当初は、毎日、怒り狂っていました。たとえば、ウガンダでは、レストランでオーダーしたものが1時間かかっても出てこないなんてことはよくあります。そんな小さなことでイライラしても無駄、期待していなければ、早く出てきた時にハッピーな気持ちになれる──。そのことに気づいてから、だいぶ楽になりました」

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私がウガンダ人化したのかもしれないですね、と笑う仲本氏に今後のビジョンを聞いた。
「お客様が増えれば増えるほど、作り手も増えていき、そこで生み出されるソーシャルインパクトも増えていきます。スタッフたちのメンタリティーもどんどん変わってきています。私は工員を雇いたいわけではなく、プロフェッショナルを育てていきたいんです。弊社の事業に関わるスタッフ全員に、自己肯定感と自信を持って仕事をしてもらい、自分の能力で家族を養っていることを誇りに思ってほしいです。その結果、スタッフたちが、新しいステージに進んでいく、その過程を支えていくことができればうれしいです」
事業を立ち上げるきっかけになったグレース氏は、彼女ひとりの稼ぎで4人の子どもを学校に行かせているそうだ。彼女は、「子ども全員に教育を受けさせることができるなんて、これまで考えたこともなかった」と語っているという。

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 「日本のお客様には、この店、この商品を通して、いくつもの選択肢から何かを選び取ることが、いかに豊かなことであるかということを発信していきたいと思っています。ウガンダで暮らしていると、日本の女性の生きづらさをひしひしと感じます。見えない天井のようなものが設定されていて、能力を発揮できずにいる女性もたくさんいるのかなと。私もプライベートでも仕事でもさまざまな場面で選択を迫られてきました。自分の中の何を軸にして選ぶか──、バッグ選びも人生の選択もそのプロセスはじつはとても似ていると思うんです。どんなものでも、自分で選んだものが正解なんですよね、きっと」

『RICCI EVERYDAY』のアイテムは、布の種類の多さに加え、裏地との組み合わせを鑑みると、「弊社の製品は、ほぼ一点なんです」と、仲本氏は誇らしげな笑顔を見せた。いくつもの選択肢の中から、自分が本当に求めるものを探し出す作業は楽しく、難しく、そして、尊い。

DSC_6391 ウガンダのシングルマザーとともに作る、世界にひとつのバッグ ”RICCI EVERYDAY”
INFORMATION
RICCI EVERYDAY

所在地 東京都渋谷区猿楽町24-1 ROOB2 2階C
TEL 054-250-2350
営業時間 11:00〜19:00
定休日 不定休
URL https://www.riccieveryday.com/

Text:長谷川あや
Photos:安井宏充(weekend.)

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