News 2022.02.01

アルファ ロメオと九谷焼の縁が結んだ、伝承と伝統が呼応するぐい吞み

アルファ ロメオの2022年度のノベルティは、石川県加賀地方で生産される九谷焼のぐい吞みに決定。アルファ ロメオの歴史的エンブレムと、日本の伝統的な色彩が融合した陶磁器は、アルフィスティに留まらず工芸品愛好家からも注目される予感が漂っている。その作者である新進気鋭の九谷焼作家、山近泰氏に今作の制作秘話をたずねた。

歴史的エンブレムと伝統的紋様で飾られた9種のぐい吞み

IMGP3404 アルファ ロメオと九谷焼の縁が結んだ、伝承と伝統が呼応するぐい吞み

まず伝えたいのは、今回のノベルティは過去との相対的な比較ではなく、一つのマテリアルとして絶対的な存在感を帯びているということ。いや、一つと言ったが全部で九つも用意されるのだから、価値の広がり方もおびただしくなりそうだと評すべきか。
アルファ ロメオの歴史的な9種のエンブレムに合わせ、九谷焼の伝統的な色彩による同じく9種の紋様をあしらったぐい吞み。350年を越える歴史を持つ九谷焼は、大胆な多色使いの絵付けが特徴なだけに、アルファ ロメオの故郷であるミラノの色彩感覚とも絶妙にマッチするというか、このコラボレーションがなぜ今まで見られなかったのか不思議な気さえしてくる。

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▲九谷焼作家・山近泰氏

「とても光栄でした。イタリアの有名なブランドから声をかけてもらえただけで、これからの仕事の励みになると思いました」

これは、今作の製作にあたった山近泰氏が語ったノベルティのオファーのファーストインプレッションだ。同時にアルファ ロメオと聞いて、歴代のジュリア(Giulia)を何台も所有した知り合いが頭に浮かんだという。全体のスタイルだけでなく、年代によって変わるエンブレムにも思い入れがあったのだろうと、改めてアルファ ロメオファンの気持ちを察したそうだ。

山近氏は、象を始めとする動物を描くことで知られる九谷焼作家。20有余年のキャリアで受賞歴は多数だが、特筆すべきは2012年と2020年の伝統九谷焼工芸展大賞だろう。二度の大賞受賞は稀らしく、つまりはそれが実力の証明になるわけだが、そのあたりをたずねても当人は「ラッキーでした」と謙遜するばかり。ちなみに大賞を二度獲得すると、石川県の無形文化財に指定される資格を得られるそうだ。ただし50歳に到達してからという条件が付くらしい。今年47歳になる山近氏を先に“新進気鋭”と紹介したのは、そうした伝統工芸界の深みに準じたものであることをここで断っておく。

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▲ヤモリをモチーフにした作品

エンブレムのデフォルメには細心の注意を

いずれにせよ、腕の立つ作家である事実は経歴でも明らか。にもかかわらず、「9種ものオリジナルぐい吞み製作は大変ではなかったか」と問うたのは、いささか無礼だったかもしれない。だが、そんなことなど気に留めず答えようとして、一瞬息を呑んでしまった様子に山近氏の性格が滲み出たように見えた。

赤絵小紋 アルファ ロメオと九谷焼の縁が結んだ、伝承と伝統が呼応するぐい吞み
▲初期段階のラフ画

「すごくおもしろくて難しかったです。もっとも苦心したのはエンブレムの表現でした。絵付けはぐい吞みの側面2㎝幅で行うことになりましたが、あまりに狭くてエンブレムの完全再現はほぼ不可能。そこで印象を変えないようデフォルメを施しましたが、エンブレムにはアルファ ロメオの思いが詰まっていますから、デフォルメの加減には細心の注意を払いました。」

1960×石畳紋  アルファ ロメオと九谷焼の縁が結んだ、伝承と伝統が呼応するぐい吞み
▲1960年『石畳紋』の最終デザイン画

9種のエンブレムに合わせて9種の色彩が用意されたが、九谷焼は緑・紫・黄・紺青・赤の“九谷五彩”を駆使すると聞いた。となると、4色ほど足らない計算になるのだが?

「五彩をメインにしていますが、各色には中間色も存在します。九谷焼はその辺をアレンジできるのも強みなんですね。僕は色には非常にこだわっていまして、よくモチーフとして用いている象を表現するときの“青”、サイを描くときの“紫”など自分なりの色がありますが、今もって思い通りの青や紫が出せていないというか、まだまだ他にあるだろうと思いながら日々研究し続けています。先生からは『キリがないからいい加減にしろ』とたしなめられていますが」

どうやら気さくな人らしい。あるいは九谷焼を語るのが好きなのだろう。話題をどんどん展開してくれる。色彩を含め、紋様についてもたずね直してみた。

「伝統を生かしつつ縁起のいいモチーフを選びながら、初めての挑戦もさせてもらいました。たとえば1982年のエンブレムがあしらわれた『赤絵丸紋』は細かい図柄で今風に。2015年の『小紋柄清海波』で用いた赤の十字は九谷でやったことのないデザインです。出来上がった9種をテーブルに並べたら、ウチのスタッフが集まってきて『私はこれがいい』とそれぞれの好みを言い始めたんです。あれはうれしかったですね」

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▲左:1982年『赤絵丸紋』/右:2015年『小紋柄清海波』

最近になって九谷焼がおもしろくなってきた

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「僕は絵を描くのが下手なんです」
会話が進むにつれ吐露が深くなる。そこまで謙遜されると恐縮してしまうが、山近氏が話してくれた九谷焼作家となった経緯に鑑みれば、そんな自己分析もあるのだろうと思えた。
石川県能美市で4代続く九谷焼の窯元の生まれ。販売も行う家業の大変さを肌で感じながら、いつかは自分が家を継ぐのだろうと思いながら育った。そんな長男に父は、学校を卒業したら3年間は北陸3県から離れろと切り出した。いわゆる武者修行のお達しだった。

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▲山近氏の工房

「僕は素直で従順なんです(笑)。だから言い付けに従って大阪で営業職に就きました。25歳になった頃に父から帰って来いと連絡があり、いきなり絵を描けと。僕はそれまで焼き物づくりに絵の才能が必要だなんて知らなかったんです。そこから言われるまま九谷焼の勉強をしましたが、もし最初から九谷焼が好きだったり絵が上手だったら、現在のようにはなっていなかったんじゃないでしょうか」

それを血筋と言えば安易だが、元よりの才覚で九谷焼に打ち込み、あるいは素直ゆえに神髄をつかもうとして苦闘する。代表作となった象をモチーフにした逸話は、実に山近氏らしかった。

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「ウソやろと言われますが、夢で見たんです。お釈迦様の誕生日を祝う花まつりでお釈迦を乗せる象が出てきて、目が覚めた瞬間にこれを描こうと決めました。それが売れたおかげで個展ができるようになったんです」

嘘ではないと思う。なぜならアイデアが突然降ってきたという類の真実は、アイデアが偶然を装って降るのを待つだけになるほど考え抜いたケースがほとんどだからだ。おそらく当時の山近氏は、自分だけの新しい九谷焼を必死で求めていたに違いない。求めるから答えに導かれる。最初の伝統九谷焼工芸展大賞のときがそうだった。

「実はこのとき、九谷焼を辞めようと考えていたんです。望んだものがつくれず、一度家を離れたりもして、この出品を最後にしようと思っていました。そのせいでいつも以上に気持ちがこもったのかもしれません。受賞の報せを聞いて泣きました。何でしょうね、ずっと必死でやってきて、最近になってようやく九谷焼がおもしろくなってきたんです。やっとスタートラインに立てたという感じなんですよ」

伝統工芸に携わる者の使命

将来の目標をたずねたら、作家活動と後継者育成を並行させながら、「陶芸家なら誰しも……という流れで言うならば、夢は大きく無形文化財」という答えが返ってきた。今の山近氏であれば叶えられないものではない気がする。何しろお釈迦様を乗せた象の夢を現(うつつ)に仕上げてしまった人だから。
ここでノベルティの話題に戻る。周囲に止められるほど色彩研究に没頭し続けた陶芸家がついに九谷焼のおもしろさを悟ったタイミングで実現した、アルファ ロメオとのコラボレーション。こんな神様のシナリオに沿ったような出会いがあるだろうか。

IMGP3457 アルファ ロメオと九谷焼の縁が結んだ、伝承と伝統が呼応するぐい吞み

「強い思い入れでつくってしまったので、できれば気に入っていただき、心の豊かさを求める特別なときに使ってもらえたらうれしいです」

これが作家の作品に向けた願い。山近氏はまた、伝統工芸に携わる者の使命として伝承と伝統という言葉を挙げた。
「先人がやってきたことを受け継ぐのが“伝承”。次の新しい九谷焼をつくっていくのが“伝統”」
アルフィスティであれば、それがアルファ ロメオの思想に呼応すると感じ取れるはずだ。であればこそ、この器がアルファ ロメオを愛する人々にとって絶対的な価値を持つ存在となるのも間違いないところだろう。

※ソーシャルディスタンスを保ち、安全に十分に配慮したうえで取材を行っております

Text:田村十七男

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