News 2020.06.23

イタリアらしさを止めなかったアルファ ロメオ110周年の歴史、オフィシャルブック『IL LIBRO DELLE EMOZIONI』総合監修者 加藤哲也氏

アルファ ロメオ創立110周年記念に向けて制作されたオフィシャルブック『IL LIBRO DELLE EMOZIONI』。その編集主幹を務めたのが、自動車専門誌『CAR GRAPHIC(カー・グラフィック)』を運営する株式会社カーグラフィック代表取締役社長の加藤哲也氏だ。「アルファ ロメオを語るとき、なぜかいつもより雄弁になる」という加藤氏が、それほどまでにアルファ ロメオに魅了される理由と、本書の見どころについて伺った。

「アルファ ロメオを語るとき、なぜかいつもより雄弁になる」

アルファ ロメオ創立110周年に向けて制作されたオフィシャルブック『IL LIBRO DELLE EMOZIONI』。90ページを超える誌面は、貴重な写真資料の豊富さが特徴だ。この大作の編集主幹を努めたのが、株式会社カーグラフィック代表取締役社長加藤哲也氏。同社の名称が1962年に創刊された自動車専門誌を引き継いでいる(あるいは加藤氏が同誌の歴代編集長に名を連ねる)事実は、少なくとも日本の自動車ファンなら周知のことだろう。

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▲株式会社カーグラフィック代表取締役社長の加藤哲也氏

「エディトリアルの専門家として、決してカタログの延長線にせず、また他のメーカーやブランド、すなわちグローバルスタンダードを知っている目線を生かしながら、アルファ ロメオの魅力を掘り下げていく」

これは、加藤氏が語った『IL LIBRO DELLE EMOZIONI』の編集方針だ。監修者として適切な回答だが、「PREFAZIONE(序文)」と題された最初の項ではこんな前書きを寄せている。

「アルファ ロメオの魅力について語ったり書いたりするとき、僕はなぜかいつもより雄弁になる。自分でも驚くほど自然に言葉が湧き出てくる。まるで恋に落ちたときのように」

何とスイートな文章だろう。恋を持ち出すなんて、アルフィスタが目にすればその胸中に共感の嵐が吹き荒れるかもしれない。だが、額面通りに受け取っていいものだろうか? 何しろ「グローバルスタンダードを知っている」と自負する元編集長なのだ。本書用に設えた余所行きの表現ではないかと疑いたくなるところはある。

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しかし嫌疑そのままがオチだったら、創立110周年記念制作の話すらそれこそ余所行きだったはずだ。加藤氏は、疑念の余地なく本作の監修者にふさわしいアルファ ロメオ・ラバーである。その経緯、または真意を明らかにするのが本文の役割になるが、アルファ ロメオへの恋心を吐露してしまった加藤氏がどのような監修を行ったかは、ある部分でこのオフィシャルブック『IL LIBRO DELLE EMOZIONI』の見どころになると思う。

ドライビングの楽しさを最初に教えてくれた1台

何はともあれ、加藤氏がアルファ ロメオに恋したきっかけから話を始める。世間では生粋の編集者と思われているだろうが、前職はイタリア出身の映画監督ベルナルド・ベルトルッチに憧れ、主にテレビ番組を請け負う映像制作会社のディレクターだった。

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「その頃にカメラマンだった父親が他界したんです。父は、僕が小さい頃からレースに連れて行ってくれた、僕を自動車好きにしてくれた人でした。その父が亡くなったあと、撮影旅行用に持っていたワンボックスが残ったんですね。それをバンド活動している大学の同級生が譲ってほしいと言ってきた……」そうして息子は形見でもあるクルマを売ってしまうのである。

「ワンボックスに乗るのも違う気がしたから(笑)」
それを機会に手繰り寄せたのが、1976年に登場したアルファスッド・スプリント。加藤氏が購入した80年代半ばでおよそ10年落ちの中古車だった。

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▲アルファスッド スプリント(画像提供:FCAジャパン株式会社)

「あの時代はクルマに絶望していたんです。排気ガス規制に準じて機械式キャブレータが電子制御になり、多くの車種がフロントドライブに変わり、僕らが興味を抱いていたクルマではなくなっていった。そんな中で唯一の希望となったのが、比較的小型でよく走るホットハッチと呼ばれる車種でした。アルファスッド・スプリントもそれに属するモデルで、何よりジウジアーロがデザインしたスタイルがよかった。1.3リッターで76馬力のエンジンだったけれど、ギアリングが低いおかげで高回転まで回せて、実際のスピード以上に速さを感じさせてくれた。僕の人生でスポーツドライビングの楽しさを最初に教えてくれたクルマでしたね。その代り、あちこち壊れてずいぶん泣かされました。それでも大事な局面では最後まで走ってくれたりするから、これは気まぐれな女の子に惚れた弱みと思って付き合いました」

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時代の流れもあり、望んだ作品が映像業界でつくれない現実に直面した加藤氏は、愛読していたカーグラフィック誌の求人広告を頼りに出版社の門を叩く。ちなみにアルファスッド・スプリントは、同誌の「売りたし買いたしコーナー」で発見したそうだ。

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「自分でも書けるだろう」という驕りと、映像手法が雑誌制作に生かせる期待を胸に編集者となった加藤氏は、初恋のアルファスッド・スプリントを友人に譲ると同時に、“もっとも憧れていた”ジュリアGTVを手に入れた。主に60年代のツーリングカーレースを席捲した車種の流れを汲むハイスペックモデルだ。

だが、これも間もなくレース車両購入を理由に手放すことになる。以降、仕事ではアルファ ロメオに触れるも、プライベートでは家族に合わせて恋とは無縁のクルマを選ぶようになった。
「でも、子供が大きくなったらやっぱり買っちゃったんですよ。1965年のジュリア・スプリントGTA。一度惚れたオンナはそうそう忘れられるものじゃない(笑)」
だが、加藤氏とアルファ ロメオをめぐるlove affairは、さらに予想を上回る形でめぐってくる。

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▲ジュリア・スプリントGTA(画像提供:FCAジャパン株式会社)

イタリアそのものと言うべきアルファ ロメオの伝統

2002年の『ツール・ド・フランス』。かの有名な自転車レースと同タイトルだが、自動車でもフランス全土の公道やサーキットを結んで行われていたクラシックレース。そのイベントの復刻版が1週間に渡って開催された際、加藤氏は古(いにしえ)のアルファ ロメオで参加する機会を得た。
「それがティーポ33/2デイトナ。1967年に登場したレーシングプロトタイプで、ボディラインの美しさもアルファ ロメオV8エンジンの気持ちよさも、この世のものとは思えなかった。ゴールしたくなかったですね。いつまでも乗っていたかった。もし生涯でたった1台を選べと言われたら、迷わずこのクルマを挙げます」

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▲ティーポ33/2デイトナ(画像提供:FCAジャパン株式会社)

職業柄ハンドルを握ったクルマの台数は数え切れないだろう。世界各地のイベントに招待され貴重な名車をドライブした経験も多いはずだ。にもかかわらず古いアルファ ロメオを“たった1台”に選ぶという発言には衝撃を受けた。

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「これも序文に書きましたが、110周年を迎えたアルファ ロメオの歴史の中で、僕が実体験として触れているのは40年に過ぎないわけです。しかしこの40年でクルマは大きく変わり、僕は職業的にもリアルにその変容を経験する幸運に恵まれました。にもかかわらず、なんです。アルファ ロメオがつくり上げた60年代後半のトップテクノロジーは、今でも人の感情に、強いて言えば魂に直接訴えかけてくるものがある」

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加藤氏はまた、このティーポ33をベースにイタリアを代表するプロダクトデザイナーたちが幾多のショーカーを生み出したことから、自動車デザイン史に重大な役割を果たした1台でもあると語った。そのあたりは『IL LIBRO DELLE EMOZIONI』でもページを割いて解説されている。

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「今回の監修で改めて気付かされたのは、イタリア自動車業界のスターたちがアルファ ロメオに心血を注いだからこそ110年もの歴史を刻めたということ。高い技術。優れたデザイン。そしてオイル臭さ。別の表現をすればカッコよさ。速さ。強さ。それらイタリアそのものと言うべきアルファ ロメオの伝統を愚直に継承することを誰も止めようとしなかったし、止めざるを得ない場面に直面しても必ずホワイトナイトが現れた。それはアルファ ロメオだけが持つ揺り戻しの力学と言えるでしょう。愚直なだけに不遇な時代も多かったのですが、30年代に入り産業復興公社の支配下に置かれたときも、新たにやって来た社長はアルファ ロメオからレースを奪いませんでした。それがブランドの要だからと。そうした確固たる信念は、2018年に亡くなるまで14年間FCAのCEOを務めたセルジオ・マルキオンネ氏にも受け継がれたと思います。ティーポ33以来のミッドシップモデルとなった4Cの発売や、フォーミュラ1の世界に戻る決断は、アルファ ロメオがすべきことだと考えたからでしょう」

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そう語る加藤氏の口調は、経験を積んだジャーナリストらしい冷静さに満ちたものだ。であれば、恋という熱を帯びた単語を用いずともアルファ ロメオを説けるのではないかと思うのだが?

「バックグラウンドを深く知り思い入れが強くなると、悶絶しながらも出る言葉というのがあるんですよ。それを的確に伝えたいと思いながら、行き過ぎると“アルファ ロメオはただの自動車メーカーじゃないぞ”みたいな、訳の分からないことを言い出しかねない。そこが惚れたブランドを伝える難しさかなあ(笑)」

その訳の分からなさが恋。他の言葉では語れない思いを託した加藤氏監修のオフィシャルブック『IL LIBRO DELLE EMOZIONI』。共感の嵐に巻き込まれる覚悟とともに、ぜひご一読を。

PROFILE

加藤 哲也(かとう・てつや)

1959年2月20日生まれ 東京都出身
玉川大学文学部卒業。テレビ番組制作会社に勤務後、二玄社に入社。自動車雑誌『CAR GRAPHIC』に配属され、副編集長、編集長を務めてきた。2010年4月に二玄社から『CAR GRAPHIC』の発行を引き継ぎ、株式会社カーグラフィックを設立。現在は代表取締役社長として活躍している。

INFORMATION

アルファ ロメオ創立110周年記念ブック『IL LIBRO DELLE EMOZIONI』

編集主幹 加藤哲也(株式会社カーグラフィック)

アルファ ロメオが日本のファンに向けて刊行する初の書籍。日本屈指のアルフィスタでもある株式会社カーグラフィック代表 加藤 哲也 氏を編集主幹に迎え、アルファ ロメオを「ヘリテイジ」「デザイン」「モータースポーツ」「イノベーション」「ブランドカルチャー」「オーナースタイル」などマルチアングルで捉えなおし、アルファ ロメオの世界観を描き出すコンテンツ。6月24日に公式サイト上にてeBookとして公開。

Text:田村十七男
Photos:大石隼土

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