Experience 2019.07.18

自然との共生を目指して。アートビオトープの新たなシンボル『水庭』

栃木県・那須にあるアートレジデンス『アートビオトープ那須』。ここに隣接する広大な土地に昨年6月、建築家・石上純也氏が手掛ける『水庭』が誕生した。庭の概念を変えるようなこのアート空間は、どのような経緯で生まれたのか? 総合プロデューサー・北山ひとみ氏に話を伺うとともに、アルファ ロメオ ステルヴィオ ディーゼルモデルで現地へ向かい、アートビオトープおよび水庭が表現するライフスタイルを探った。

石上純也氏による、四季折々で異なる表情を見せるランドアート

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アートビオトープ那須』のオープンは2007年。以来、豊かな自然環境の中で“シンプル・ローカル・アットホームなおもてなし”を大切に多くのゲストを迎えてきた。 この施設は宿泊だけでなく、中庭に面したギャラリー兼カフェでは25マイル(約40km)圏内から届けられる食材を中心とした食事が楽しめるほか、本格的な創作体験をすることができる陶芸スタジオ、ガラススタジオも併設されている。

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このアートレジデンスを含む『アートビオトープ プロジェクト』の総合プロデューサーである北山ひとみ氏は、栄光ゼミナールを展開する株式会社栄光の創業に携わり、退任後は“文化リゾートの先駆け”と呼ばれる二期倶楽部を1986年に設立。二期倶楽部を舞台に毎年開催していたオープンカレッジ“山のシューレ”では、北山氏曰く「すべてが商品化された現代において、人間同士が触れ合う新しい学びの場」を提供してきた。

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▲総合プロデューサー・北山ひとみ氏

その実践の延長線上にあると言えるのがこのアートビオトープ那須。オープン以来、人間が継続的に自然と関わり、新たな環境を生み出していくことへ積極的に取り組んできた。そして、その活動に共感した株式会社タカラレーベンが進めるCSR活動との共同事業として、2018年6月に誕生したのが『水庭』だ。

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その作品づくりを任されたのは、日本建築学会賞、第12回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展金獅子賞といった数々の賞を受賞し、世界から注目を集める建築家・石上純也氏

「まず私は若手の作家さんの場合、少なくとも5年ぐらいは見続けるんですね。中には10年近く見続けて決めることもありますし、その時代に対する強いメッセージのある作家が好きなんです。石上さんは、2010年に資生堂ギャラリーで開催した展覧会(『石上純也展 建築はどこまで小さく、あるいは、どこまで大きくひろがっていくのだろうか?』)を見て、『庭というコンセプトで建築家に依頼するのならこの人しかいない』と決めていました。そこから依頼し、完成するまで約3年半。テーマは、「山のシューレ」のテーマでもあった「庭」。ある日、彼が一枚の絵を見せてくれて、瞬間的に『これでいきましょう』と決めたのを覚えています」(北山氏)

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▲『水庭』イメージスケッチ

水庭は318本の木、160個の池、地面を覆い尽くす苔から成る。そして水庭に植えられている木々は落葉樹で春は芽吹きの美しさを感じられ、初夏は新緑、夏は緑、秋は黄葉に。冬は落葉するがそれによって日差しが入り、水庭全体が明るくなることで独特の風景が生まれ、さらに真っ白な雪の中に池が黒く鮮やかに浮かび上がる。四季折々、この地の自然と水庭ならではの表情を見ることができるのだ。

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▲初夏(6月)の水庭

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▲左:秋の水庭 / 右:冬の水庭

“五感”を刺激され、“インテリジェンス”を問われるような空間

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庭を建築家が手掛ける意外性と、庭そのものの概念を覆すようなその空間は、オープンするやいなやすぐさま数々のメディアで取り上げられ、著名な建築家やアーティストも含めて国内外から多くの人が訪れた。

「これだけ多くのメディアで取り上げられたのは、水庭がただのファッションではないからでしょう。世の中に必要なものの本質を見ようという人たちは、世界にも日本にもたくさんいます。そもそも日本人はとてもインテリジェンスが高い。本質に目を向けてくれた多くの方が、注目してくださったのでしょう」(北山氏)

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思想や概念の部分を石上氏と徹底的にディスカッションを重ね、その間にワークショップやセミナーも重ねながら水庭へと具現化していった。共にプロセスを共有しながら、徐々にこの庭のかたちが誕生した。その意味で「石上さんは真面目に、真摯に私の想いに応えてくれました」と、北山氏は感謝の想いと信頼を込めて語る。そして、石上氏にまつわる印象的な出来事も教えてくれた。

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▲建築家・石上純也氏

「パリのカルティエ財団による展覧会のオープニングで、ジャン・ヌーベルさんと石上さんが対談したときに、ジャン・ヌーベルさんは『今の建築家たちは、石上にアティテュードを学ばなければいけない』と仰ってました。建築がただのプロダクツになりがちな昨今、石上さんは丁寧なハンドワークと最新のテクノロジーとのバランスを保ちながら作品を作り上げていく、ユニークな建築家です」(北山氏)

水庭を訪れた人々は、大小さまざまな踏み石を辿りながら進んでいく。所々に置かれた大きな石に腰を下ろし、ゆったりと葉擦れやせせらぎの音に耳に傾けるのも良いだろう。そして周囲の風景に目を向けたときにハッとする。この空間にある木々は一つとして重なっていない。ガイドの方に聞くと、石上氏は木々をこの場所に移植する際、模型を作って“どこに木を配置するか”を綿密に計算したという。それによってこの空間には独特の広がりが生まれ、木々の先には那須の空と山々が目に飛び込んでくる。そして川から導水管で水を引く池にはアメンボや蛙が生息し、さえずる水鳥たちとともにこの空間で共存する。植物、動物、そして人間。そのすべてが関わり合いながら、異なる表情を見せるーーその捉えどころのないはかなさは、また訪れたいと思う不思議な魅力を持っていた。

独創的な建築家とのコラボレーションによって誕生した水庭。それでも北山氏は、「水庭はある意味で完全性を持った庭ではない」とも付け加える。

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水庭は人間の手による丁寧なメンテナンスといった知恵や努力を積み重ね、自然の変化を受容し、共生していくことでさらに美しい庭となっていくだろう。ここはこれから先も、常に変化し続ける空間なのだ。

“五感”を刺激され、ある意味で自身の“インテリジェンス”を問われる深い内省のための場所。それに関して、北山氏はこの土地の元所有者さんと話したときに驚きを感じたエピソードがあるという。

「水庭を見て『きれいになったな〜』と言うんです。『昔から美しい林だったじゃないですか』というと、『いや違う』と。この水庭は元々あった素材をデザインの力で編集し直してできた、人間が作った意匠です。それに対して、誰よりもこの土地を知り尽くした方がその美を五感で感じ、感動されている。自然と人間の叡智を重ね合わせたアートの美しさは万人に伝わると思いましたし、感動というのは理屈抜きなのですね」(北山氏)

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▲時には水鳥が泳いでいる光景も見られる

アートビオトープ那須では今後、建築家・坂茂氏が手掛ける、“天と地を繋ぐ”をテーマにしたスイートヴィラを2020年にオープン予定。坂氏は2014年にプリツカー賞を受賞、災害時の復興住宅やフランスのポンピドゥー・センター・メスなどで名高い日本を代表する建築家だ。

「造成工事が終わって7月から建築施工に入り、来年の七夕前にはグランドオープンを予定しています。坂さんは長らく社会貢献をテーマにお仕事をされてきた方ですし、いつか一緒にお仕事をしてみたかった。新たに作るコテージのテーマは“天と地”。ここの土地の上段が那須連山を望める“天”のような場所、そこから逆L字のような形で緩やかに下り、最も低いところが川で、それが“地”。その天と地を繋ぐ緩やかな傾斜を生かした独立型のスイートヴィラは、これまで二期倶楽部が大切にしてきた“自然との共生”という思想の延長線上により一層、自然を感じていただけるものになると思います。」

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ブランドストーリーの大切さと、先人から受け取ったメッセージ

最後に今回のインタビューにあたって、北山氏がアルファ ロメオ、そしてヨーロッパ全体のブランドというものへの共感を語ってくれた。

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「ヨーロッパのブランドは、それぞれがしっかりと創業者によるブランド・ストーリーを持っていますよね。そのブランド・ストーリーに沿って、文化活動をしていく姿勢は本当に素晴らしいと思います。私が尊敬する芸術家のオスカー・シュレンマーは、“あなたはあなたのダンスを踊りなさい”というメッセージを残しています。それは神様から与えられた時間を豊かに、自分なりにデザインすることこそが本来のアートの目的であり、人間の自由や尊厳に繋がっていくということです。アルファ ロメオというブランドとは、単に移動する手段としての車ではなく、自分と車との関係や、そこから生まれる時間を考えているブランドであるように感じています」(北山氏)

北山氏が自らの人生をデザインし続けてきた結果、今、アートビオトープ那須を中心に美意識で繋がるゆるやかな共同体が生まれつつある。そして水庭を始め、今後もさまざまな作品がその可能性を広げていくだろう。それはきっと、北山氏が二期倶楽部の創業から30数年に渡って描き続けてきた姿に限りなく近いはずだ。

INFORMATION
アートビオトープ那須

住所 〒325-0303 栃木県那須郡那須町高久乙道上2294-3
TEL 0287-78-7833
定休日 不定休(水庭見学は完全予約制)
URL https://www.artbiotop.jp/

Text:ラスカル(NaNo.works)
Photos:安井宏充(weekend.)

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