Experience 2019.08.05

安藤忠雄建築が佇む森。丹後の地に拓かれた、自然と共存する『和久傳ノ森』

アルファ ロメオのバレンタイン試乗キャンペーンでプレゼントに使用された「艶ほくろ」を手がける、京都の和久傳(わくでん)が展開している、京都府北部の京丹後市の和久傳ノ森。これまで56種およそ3万本の植樹を行ってきたこの森に、2017年、安藤忠雄氏建築の森の中の家 安野光雅館と、工房レストランがオープンした。その2周年記念事業として、安藤氏が講演を行った日に和久傳ノ森を訪ねた。

料理旅館の流れを汲みながら成長する『和久傳』

cut_20190518_qetic-alfa-0109 安藤忠雄建築が佇む森。丹後の地に拓かれた、自然と共存する『和久傳ノ森』

この冬、アルファ ロメオは、バレンタイン試乗キャンペーンとして、試乗いただいた方に、『和久傳』の流れをくむ紫野和久傳の黒豆菓子「艶ほくろ」をプレゼントした。
明治3年創業の老舗『和久傳』は、伝統を守りながらも常に未来を見据えている。その『和久傳』が今、企業をあげて尽力しているのが、2017年にオープンした、『森の中の家 安野光雅館』、工房レストラン『wakuden MORI(モーリ)』や人気商品のれんこん菓子「西湖」の製作過程が見学できる工房などを含む、『和久傳ノ森』だ。

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れんこん菓子「西湖」の製作過程が見学できる工房

前述のキャンペーンで、会長の桑村綾氏に和久傳が見据える未来について伺った際、桑村氏は目を細めながら『和久傳ノ森』の取り組みについて語り、「暖かくなったらぜひ見にいらしてくださいね」と誘ってくれた。そして、5月、建築家・安藤忠雄氏がトークショーを行う日に合わせ、取材が実現したのだ。まず、『和久傳ノ森』について紹介しよう。『和久傳』の創業の地は現在の京丹後市峰山町だ。

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料理旅館として開業するが、地域の伝統産業の丹後ちりめんの生産が減少しはじめると、旅館も厳しい局面に立たされる。桑村氏は『和久傳』の名を残すべく、1982年、料亭として京都市内への進出を決めた。約15年後、料亭の味をおもたせとして販売するために、新たな工房が必要となった『和久傳』は、発祥の地である京丹後市に約8,000坪の土地を購入。ここに森を蘇らせることはできないだろうかと考え、植物生態学者の宮脇昭氏の協力を仰ぎ、2007年、「宮脇方式による土づくりから取り組み、地元の方1,600人にご協力いただき、約2万本の苗木を植えました」(桑村氏)。その後も隣接地に植樹を実施。現在までに56種約3万本の植樹を行なってきた。

植物が自然のままに育まれる森

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畑に続く入り口。看板には更地だった頃の写真が載っている

2007年に更地だった場所は、私たちが訪れた2019年5月には見事な“森”になっていた。魔法にかかったかのように。初めてこの地を訪れた人は、ここがわずか数年前まで更地だったとは想像がつかないだろう。
宮脇方式の混植密植は、その土地に生態系を育む雑木を含め、複数の種類の木を、1平方メートルに6、7本、植樹するというもの。それぞれの木が自分の種を残そうという競争原理が成長を促すのだという。1年で1メートル伸びる木も少なくないそうだ。

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取材時に、『和久傳ノ森』を案内してくれたのは、京丹後での『和久傳』の取組みに協力している、本田進氏だ。「あのネムの木、大きいでしょう。でも我々はネムは植えていないんですよ」本田氏が指差す向こうには、すでに3メートル近くあるだろうか、若々しいネムの木が、ここはずっと前から自分の居場所だと主張するかのように存在していた。こんな風に、苗木を植えていないのに、鳥や風が運んだ種が芽吹き、成長した植物がいくつもあるそうだ。

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山椒の実

森では、多くのフキノトウや桑、山椒、わらび、イチジク、ミョウガなど、料理の材料となる植物も育っている。
「この森では植物が喜んで生育しているんです。フキノトウはほぼ100%、自給自足できているのではないでしょうか」(本田氏)
敷地内には、離村した農家のものを移築した、土壁の米蔵もある。ここで、近くの水田で収穫した米を保管している。

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米蔵

堆肥は料亭で使ったカニ殻に米糠を混ぜたものを使用。ブルーベリーや柿のある果樹園もある。
「柿はツキノワグマの好物。食べられないように必死で戦っています(笑)。ツキノワグマは賢くて、なぜか渋柿には手をださないんです」(本田氏)
ツキノワグマだけではない。『和久傳ノ森』には新たな訪問者が続々と訪れている。最近は森のなかでミミズクも見かけたとか。ここに森ができたことを、喜んでいるのは人間だけではないようだ。
桑村氏は言う。
「宮脇先生との出会いによって、これからの地球環境・温暖化等に対しての、“いのちの森づくり”を知りました」

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森に抱かれるように佇む安野光雅館

『和久傳』、そして桑村氏の構想は、森を作ることだけに止まらない。森をさらに魅力的な場所にすべく、絵本作家・画家の安野光雅氏の作品を堪能できる『森の中の家 安野光雅館』を作り上げた。長年、安野氏の作品を収集してきた桑村氏は、この森に安野氏の美術館を作りたいと、古くから懇意にしていた安藤忠雄氏に設計を依頼する。

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「実は安藤さんには、一度、お断りされているんです」(桑村氏)
「ぜひ現地に足を運び、森を見てほしい」と桑村氏に請われ、建設予定地を目にした安藤氏は、この日のトークショーでは、「大阪からも京都市内からも遠い、地獄のような場所」と紹介し、笑いを誘っていたが、この土地に地域の人々とともに森を作ろうという桑村氏の意気込みに心を打たれ、協力を決めた。

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建築家・安藤忠雄氏。

「物事にはお金さえあればできることと、想いがなければできないことがあるけれど、デザインは想いがないとできません。想いのある人同士がつながっている──。この美術館も、最初はこんなところに(交通の不便な田舎に)誰が来るんだろうと思いましたが、実際に来てみたら、ここに美術館を作るのも面白そうだなと思ったんです」(安藤氏)

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美術館へは、曲がりくねったコンクリートの回廊を抜けてアプローチする。取り込まれる光を意識した、安藤氏が得意とする手法だ。森に抱かれるように佇む美術館は、2階建てで延べ420平方メートル。安野氏の繊細な水彩の絵に合わせてか、外壁に黒い杉板を使用するなど、安藤氏の建築ではコンクリートやガラスなどの素材が用いられることが多いが、ここでは木材を多用している。今年93歳の誕生日を迎えた安野氏は、今も精力的に作品を発表。過去の作品、新作を含め、約3カ月ごとに展示を総入れ替えしているそうだ。
壁に作られたスリットからは、安野氏の作品を彷彿とさせる、やさしい緑ややわらかな光が取り込まれ、自然のなかで絵画を鑑賞するという感覚が味わえる。

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副館長である伴とし子氏が、「自然に溶け込むように意図されているんです」と教えてくれた。安藤建築らしいアシンメトリーなデザインも印象的だ。

ちなみに、『森の中の家』と、海も山も近い京丹後の食材や森でとれた食材を使った、『和久傳』の味が楽しめる工房レストラン『モーリ(wakuden MORI)』のネーミングは安野氏の発案だ。「MORI」はイタリア語で「桑」の複数形を意味するという。

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工房レストラン『wakuden MORI』

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工房レストラン『wakuden MORI』内にあるミュージアムショップ

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「最初に植樹を行なってから10年以上たった現在、当初から森があったような姿になり、“癒しの森”として広がっています。今後は、丹後半島を含め、日本海側の発展の一端を担う“交流の森”、“文化の森”そして、私どもの商品生産基地となる“生産の森”として、自然豊かに、長く愛される和久傳ノ森の夢が現実となることを願っています」(桑村氏)

人生を楽しむサポートを続けていきたい

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この日行われた安藤氏の講演は、「地方都市は生き残れるか」をテーマにしたものだった。安藤氏は、独特のユーモアを交えながら、地域づくりには「世界中でそこにしかないもの」が必要だと提唱。それは、地域づくりだけでなく、個々の人生にも関連する考え方でもあると語った。
「自分の考えをしっかりと持ち、地球すべてが自分のグラウンドだと思って、世界を相手に一歩を踏み出してほしい。人間は新しいことをどんどんやったほうがいい。ただ今日、ここに来ている方は、日々面白いものを探している人。長生きの秘訣を知っています」(安藤氏)

また、講演前に、安藤氏にMondo Alfaの読者に向けて、メッセージをいただいた。
「アルファ ロメオのふるさとであるイタリアはデザインの国。経済状態はあまりよくないかもしれませんが、人々は元気です。イタリアの現場に行くと、みなさん楽しそうに仕事場から帰っていきます。さあ、これからワインでも飲みに行くぞ、という感じでね。この森もそうですが、合理的で便利なものがいつの時代もいいわけではありません。想いの強さが人を動かす──。イタリアには想いが強い人がたくさんいます。講演でも、デザインは想いがなければできないとお伝えしましたが、車を作るのも一緒です。どうしてもここでやりたい、これを作りたいという想いが大事だと思うんですよ。面白いことを追求すれば、いいことがあります。」

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「そして、イタリアの人々は人生の楽しみ方を知っています。そう、人間は楽しく生きてナンボ。デザインも車も楽しまないと!でもモノは作る人だけでなく、使う人にもかかっています。私はその中間ランナー。人生を楽しむためには自分で決断することが大切ですが、私もみなさんが人生を楽しむサポートを続けていきたいと思っています」
誰もが人生を楽しめるように──。アルファ ロメオもまた、「Be Yourself.」をスローガンに掲げ、すべての人々が自分らしく輝ける社会づくりをサポートしていきたいと考えている。

和久傳ノ森では、鳥のさえずりと人々の笑い声が心地よいハーモニーを奏でていた。土づくりから始まった土地に植樹した苗は根を張り、10年強の時間をかけて、さまざまな生き物が集う「鎮守の森」となった。そしてその森は日々、命を紡ぎ、さらに深さを増していく。

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INFORMATION
和久傳ノ森

所在地 京都府京丹後市久美浜町谷764
URL https://mori.wakuden.kyoto/
TEL 0772-84-9901(森の中の家 安野光雅館)

0772-84-9898(工房レストラン Wakuden MORI)

Text:長谷川あや
Photos:大石隼土

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