Experience 2018.09.20

“所有する喜び”を得られる。日本製のラグジュアリーボート「イグザルト43」

日本が誇るヤマハの最新プレミアム・ボート「イグザルト43」。“所有する喜び”にフォーカスし、感性に強く訴えかけるデザイン性、日本人ならではの繊細なこだわりが詰まったボートの魅力や、アルファ ロメオとの共通項に迫った。

クルマの世界でもプレミアム・ブランドが好調であるように、昨今ではマリンの世界でもプレミアム・ボートの売れ行きが大きく伸びているという。日本のトップ・ブランドであるヤマハでも工場はフル稼働で、商品によっては今オーダーしても納船が1年以上先、というものもある状況なのだそうだ。

ヤマハは本体価格が200万円台の小型ボートから全長15m級の大型ボートまでを製造している総合ボート・メーカーだ。現在、その中でも注目を集めているのがラインナップの中のトップ・オブ・トップである“EXULT(イグザルト)”シリーズ。

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2008年からスタートしたこのシリーズは、イタリアのリーヴァやアジムットのような世界的トップ・ブランドのプレミアム・ボートと同じように誰からも憧憬を持たれ、こだわりを持った人こそが満足できるようなボートを、日本人ならではの繊細さやもてなしの心をベースに作り上げることをコンセプトにした、日本発のプレミアム・ボートだ。そのシリーズの最新鋭であり、今年の3月に発表された“イグザルト43”が、マリン・ライフの世界で大きな話題になっている。

実際にイグザルト43を見ることができればベストだったのだが、クルマと違ってディーラーに行けば展示されているというものでもない。そこでヤマハ発動機のマリン事業本部・商品企画部の大川典之さんとデザイン本部フロンティアデザイン部の並木育男さん、実際にイグザルト43の開発を担当されたお二人にお話を伺った。そのお話の中身には、近年のアルファ ロメオが掲げる“IQ(知性)/EQ(感性)”というブランド価値と共通するところがいくつも見つけられて、とても興味深かったのだ。

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製造過程を大きく変えてでも実現させた、スタイリングへのこだわり

まず筆頭にあげられるのは、誰もがすんなりと理解できるスタイリング・デザインの美しさだろう。イグザルト・シリーズはそれまでのボートと違って、性能や機能はもちろんだが、何よりも“所有する喜び”に大きなフォーカスを当てて開発されている。デザインやディテールへのこだわり、そして各部のクオリティなど、感性に強く訴えかけるものが重要、というわけだ。これまでもスタイリング・デザインに関しては評価の高いシリーズだったが、最新の“イグザルト43”は、そこをさらに深く追求したモデル。

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いかにも流麗という言葉が似つかわしい、けれど紛れのないジャパニーズ・デザイン。スムーズな曲線を描いているウエストラインやウインドスクリーンのグラフィック、フロントからリアに向かって伸び上がっていくクルマでいうならルーフラインに相当する部分などには、“入り、伸び、止め、払い”といった“書”のエッセンスが織り込まれているのだという。なるほど、言われてみれば納得。その塊感のあるフォルムの中のどこが“入り”でどこが“払い”か、どの一辺とどの一辺の隙間のバランスを重視したか、というようなことが見ているうちに判ってくる。確かに美しい“書”は、日本で育った人が見ても海外の人が見ても、美しい。その日本の古来からの芸術的なモチーフをすんなりと造形の中に溶け込ませているのは見事である。

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驚くべきなのは、このデザインを現実にするため、ヤマハは製造過程や型のあり方まで変えた、ということだ。通常こうしたボートでは、ちょうどウエストラインの部分にガンネルと呼ばれる一直線のラインが見てとれるものだ。それは“デッキ”と呼ばれる上部と“ハル”と呼ばれる下部が合わさる部分の緩衝材的な役割を果たすもので、構造上、これなくしては成立しない。この上下の合わさる部分を曲面にするのは素人が考えるより遙かに難しいため、世界中のどれほどデザインに凝ったとされるボートでも“上下分割”の呪縛から逃れることができず、そのストレートなラインを活かすか溶け込ませるかに腐心したものであることがほとんど。ここまで大胆な曲面構成を持って上と下が綺麗に融合しているボートは他にない。

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そのためにヤマハは、船体の製造に関わる流れや仕組みにも手を入れた。通常、この種のボートはハンドメイドで作られるため、クラフツマン達は船体の内部に入って作業を進めていく。上下が分かれて見えるウエストラインが押し並べて低い位置にまっすぐ走ることが多いのは、そのためだ。が、イグザルト43ではウエストラインが高い位置に隠されるように、それも複雑な曲線で構成されている。従来どおりのやり方ではクラフツマン達の手が届かないし、ましてや曲線構成から要求される細かな作業を行うことができない。それを可能にするため、船体内部の作業スペースを高い位置での作業に対応できる構造にしつらえなおしたり、板金でいうなら治具にあたるものを新たに設計して作り直したり、型そのものの作りもいままでとは構造の異なるものへと切り替えたり……と、驚くほどのアイデアと技術とコストをかけている。こうして言葉でサラッと説明すると大した困難であるようには感じられないかも知れないが、そのことがどれほど常識と掛け離れたやり方なのかは、他にイグザルト43のようなスタイリングを実現できた例がないことを考えていただければお判りになるだろう。様々なメーカーがやりたくてもできないことを、そして真似したくてもなかなかできそうにないことを、ヤマハはあえて実行したのだ。それほどまでにスタイリング・デザインにこだわったのである。

美しい空間と極上の居心地は、まさに“洋上の迎賓館”

mondoalfa_yamaha_exult_08 “所有する喜び”を得られる。日本製のラグジュアリーボート「イグザルト43」メイン・サロン

インテリアも然り、だ。デッキ・フロアのメイン・サロンを中心に、階段を上がった“フライング・ブリッジ”と呼ばれる屋上の部分、階段を降りたところにあるふたつの“オーナーズ・ルーム”と呼ばれる個室という3層で構成されているわけだが、とりわけメイン・サロンとオーナーズ・ルームは日本の匠の技の集大成とでもいうべきもの。

mondoalfa_yamaha_exult_09 “所有する喜び”を得られる。日本製のラグジュアリーボート「イグザルト43」オーナーズ・ルーム

フロアに分厚いウォルナットを敷いていることも驚きだが、それは御挨拶のようなもの。テーブルなどの内装に使われているのは、高級ヴァイオリンに使われているホワイトシカモア材を、婚礼家具などを作る広島の老舗家具メーカーの職人集団が徹底的に磨き上げ、作り込んだもの。

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テーブルの天板にはカーボンファイバーが使われているが、それは京都の西陣織の職人がカーボンで西陣織の昼夜斜紋という模様を織り込んだもの。ソファ類も図面を引くところからスタートして、徳島の椅子メーカーがこのボートのためにのみ作っているもの。並べだしたらキリがない。そして贅をこらした空間であるというだけでなく、メイン・サロンもフライング・ブリッジも、操縦者を含めて誰もひとりぼっちにならずに過ごせるようなシート・レイアウトがさり気なく施されているなど、もてなしの心にも満ちている。“洋上の迎賓館”という言葉が大袈裟でも何でもなく当てはめられるだろう。インテリアの話からは外れるが、ゲスト達を船酔いから遠ざけるため、“アンチ・ローリング・ジャイロ”と呼ばれる横揺れ防止のための最先端デバイスを標準で装備するなどの配慮もなされているのだ。ソファに座った状態で水平線が見えるウインドー・レイアウトも船酔い防止に大きく貢献していて、同時にそれはエクステリアの書のエッセンスをあてはめた特徴的な2段型のウインドー・グラフィックにもつながっている。

パフォーマンスだけを追ったわけじゃない、快い“走り”

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いわゆる“走り”にまつわる部分も同様。ドライバーが操縦するためのコクピットは2箇所で、フライング・ブリッジにはまるでオープン・スポーツカーのように風を受け、海原を生で眺めながら操縦を楽しめるコクピットが、メイン・サロンの前方には天候に左右されず快適に操縦できるコクピットが、それぞれ設えられている。その双方に、12インチの液晶ディスプレイにエンジン情報から現在の船の状態や地図などの様々な情報を一目で把握できる最新式のインフォメーションシステムが備わっている。

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そこにはジョイスティックがレイアウトされていて、ビギナーであっても接岸と離岸が容易に行える。さらにはクルマでいうところの直進性のよさと素直に曲がるハンドリングを両立させるため、IPSエンジンを3機搭載して低重心であることにもこだわった。いわゆる“走り”のテイストは、いたずらにスピード性能だけにこだわったのではなく、スポーティではあるがエレガントに走ることもできる、というものだと聞く。さて、何かに似てないだろうか?

mondoalfa_yamaha_exult_010 “所有する喜び”を得られる。日本製のラグジュアリーボート「イグザルト43」

スタイリングというデザインへのこだわりを表現するために常識外のアイデアや技術を導入した新しい製造方法を構築する。最上級の居心地の良さを作り上げるために日本が誇る職人集団の素材技術や加工技術を注ぎ込む。操縦者がドライビング・プレジャーを満喫でき、ゲスト達が船上で過ごす時間を満喫できるよう、メカニカル・レイアウトやパッケージングにこだわり最新技術を惜しげもなく投入する。

“IQ(知性)/EQ(感性)”──。見目の麗しさや居心地の良さ、そして操縦する楽しさや走る気持ちよさといった要素から“所有する喜び”を創造していこうとするときに、そのふたつがどちらも欠かせないものであるということが、このイグザルト43からもアルファ ロメオからも、はっきりと伝わってくる。イタリアと日本という国の違いもあれば表現のアプローチが異なっていたりもするけれど、真実はひとつなのだ。

mondoalfa_yamaha_exult_06 “所有する喜び”を得られる。日本製のラグジュアリーボート「イグザルト43」

Text:嶋田 智之

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