Passionista 2019.12.04

ある1台のF1マシンの物語ーー日本にやってきた、アルファ ロメオ179C

日本に1台のアルファ ロメオのF1マシンがある。1981年のF1グランプリで活躍した、179Cだ。今はある日本人オーナーが所有し、宇都宮のガレージでメンテナンス……。そして鈴鹿サーキットで行われたSound of ENGINEで走行を披露。今年も、美しいアルファ ロメオV12サウンドを響かせた。

車齢38年。日本で余生を送る、アルファ ロメオのF1マシン

11月16日と17日の2日間にかけ、鈴鹿サーキットで毎年恒例となっているイベント『SUZUKA Sound of ENGINE』が開催された。

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このイベントは、イギリスの有名なヒストリック・レーシングカーのイベントである“グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード”を参考に、2015年に初開催。今年で5年目となり、国内外の様々な歴史的レーシングカーが走行する、往年のファンにはたまらない2日間である。

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このイベントに4年連続出場している、ある1台のマシンがある。赤と白に塗り分けられたカラーリング。我々日本のF1ファンにとっては、ある意味おなじみのカラーリングだと言えよう。

しかし、『Sound of ENGINE』で走ったこの“赤白”のマシンは、日本人にも馴染みの深い“あのイギリスのレーシング・チームのマシン”ではない。生粋のイタリア車、アルファ ロメオ『179C』である。

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アルファ ロメオ『179C』は、1981年のF1グランプリに出走したマシン。V12エンジンを搭載し、マリオ・アンドレッティブルーノ・ジャコメリがドライブした。最終戦のラスベガスGPでは、ジャコメリのドライブで3位表彰台を獲得している。

このマシンを所有し、毎回ステアリングを握るのは、ある日本人オーナーだ。
「子供の頃からとにかくクルマが好きでした。アルファ ロメオ以外は何も認めないというわけではありませんが、大人になってから何を買おうかと思った時に、一番欲しいのはアルファ ロメオだったんですよね」

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そう語るオーナーと『179C』は、浅からぬ縁で結ばれていた。
「小学生の時、晴海で行われた東京モーターショーに行って、記念写真を何枚か撮っているんですよ。その時の写真に、あのマシン(179C)が写っていて、それを何十年か後に自分が買っているんですよ。当時のことは覚えていないんですが、179Cを買った後、昔の写真が出てきて懐かしいなと思って見ていたら、その写真を見つけて……自分でもゾクッとしましたよ。シャシーナンバーまで同じかどうかは分からないですけどね」

そうして手に入れたF1マシン。始めてドライブした際、怖さを感じたとオーナーは語る。
「クルマを運転して、怖いと思ったのは始めてです。場所は岡山(国際サーキット)だったかな。パワーもそうですし、壊せないし……。F1だからという想いを、自分の中で膨らませすぎてしまったところもあったかもしれませんけどね」

このマシンの魅力は、やはりその心臓部にありそうだ。

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「やっぱり12気筒のエンジンですね。音も、スムーズさも違うと思います。維持するのも難しいですから、次はこうしよう、その次はこうなどと思っている間に、10年以上が経ってしまいました。でも、毎年マシンも良くなり、速くなっています。3歩進んで、2歩下がるという感じですかね」

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「(コスワースの)DFVエンジンを積んでいるクルマを買ったほうが、速く走れますし、維持費もかからないかもしれません。でも、そこには魅力を感じないんですよね。なんとかこれ(179C)を上手に、速く走らせたい。そういう意地というか、修行というか……。そんな感じなのかもしれません」

“非常に”手がかかる1台。しかしF1をメンテナンスする“最高の喜び”

このマシンのメンテナンスを手がけるのは、栃木県宇都宮にガレージを構える、『ティ・ティ・モータース』の田野豊代表だ。田野代表曰く、メンテナンスには非常に手間がかかるという。

「パーツが手に入りづらく、エンジンもとてもよく壊れます」

もう40年近く前のF1マシンである『179C』。それも当然と言える。

「当時のアルファ ロメオが、ワークス体制で技術の集大成として、いろんな素材を使って作っています。しかもエンジンは1万2000回転以上回りますから、メンテナンスがとにかく大変なんです」

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「12気筒のエンジンを、全てのシリンダーで均等に爆発させるようにセッティングするのが、とても難しいです。今のようにコンピュータを使った燃料噴射システムではなく機械式……ひとつひとつ手作業で合わせなければいけません」

前述の通り、パーツを調達するのもひと苦労だと、田野代表は言う。
「とにかくパーツが無いんです。見つけた時に全て手に入れておくんですけど、F1ともなると、同じロットで作っているであろうパーツであっても、合わなかったりするんです。おそらく、現役で走っていた頃から、常に改良が加えられていたからだと思います。だから手に入ったパーツを加工して、使っていくということになります」

ただそれでも、どうしても使えないパーツもあるという。

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「バルブのガイドだったり、バルブの本体だったり、作れるモノは作って、それで組み上げています。非常に手間がかかりますよ。それでも8割以上、9割近くはオリジナルのパーツを使っています」

約40年前のマシン、それでも、F1マシンを扱えるのは、嬉しいことだと田野代表は語る。

「F1マシンを扱えるというのは、嬉しいですよね。レースに興味があって、レースに携わる者としては、最高の喜びだと思います」

“美しき”アルファ ロメオの哲学。年々輝きを増す179C

アルファ ロメオの魅力はどんなところにあるのか? それについて改めて尋ねると、田野代表は次のように語った。

「人によってその魅力の感じ方は違うと思いますが、やっぱりイタリアの熱い血なんじゃないでしょうか? ある意味大雑把なところもあるし、すごく繊細なところもあります。クルマのデザインにしてもエンジンのデザインにしても、日本人では絶対に思いつかないようなモノになっています。そのひとつひとつも、そして集大成としても魅力がありますね」

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「例えばエアクリーナーのダクトを配置する時、それを美しく見せるために、スペースが空けられたりしています。魅せるということに関しての細かい配慮というのは、特有ですよね。非常に共感します」

一方でオーナーも、アルファ ロメオの魅力について次のように語る。
「アルファ ロメオは、イタリア自動車メーカーの本家とも言える存在ですよね。その老舗の雰囲気や歴史は、今でも感じるところもあります。なんで日本のクルマじゃないかといえば、そういうモノを感じたいからなんですよね」

「普段も新しいAlfa Romeo Giulia(アルファ ロメオ ジュリア)に乗っていますが、緻密なところと大胆なところがあります。室内のスペースを確保するやり方が、他の国のメーカーとは一線を画しています。格好良い方がいいよね? そう言われているような気がするんです。そういう部分に共感しますし、良いなぁと思いますよね」

今回の『Sound of ENGINE』では、金曜、そして土曜日と日曜日に2回ずつの走行セッションが設けられていた。しかしアルファ ロメオ『179C』は、日曜日の午前中までは各セッション数周程度の走行に留まっていた。スロットルもそれほど開けているようには聞こえない。

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しかし“締め”とも言える日曜日夕方のセッションでは、全開走行を披露。甲高いV12サウンドを、鈴鹿の空に高らかに響かせた。関係者はそれを見守り、満足そうな表情で「良い音でしょ?」と語る。

走行を終えてマシンを降りたオーナーも、こう語った。
「毎年、少しずつ良くなっています。今年も、去年よりもさらに良くなりました」

浅からぬ縁で結ばれ、そして関係者の愛情に触れて年々往時の輝きを取り戻しつつあるアルファ ロメオ『179C』。きっと来年の鈴鹿でも、元気いっぱいの走りを披露してくれることだろう。

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Text:田中健一(motorsport.com日本版)
Photos:Mitsuhiro Fujiki, Kenichi Tanaka (motorsport.com)

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