Passionista 2019.10.10

アルファ ロメオF1躍進の鍵、ライコネンの経験と存在感

アルファ ロメオ・レーシングのドライバーとして活躍するキミ・ライコネン。北欧出身の彼は、デビュー当時その甘いマスクもあって、アイドル的な人気を誇った。しかしそれから約20年。様々な経験をし、円熟味を増したライコネンは、誰よりもF1で戦うことを楽しむドライバーになったように見える。今や現役F1ドライバーの中で最年長の存在となるキミ・ライコネンの軌跡に迫る。

今から約20年前、F1界に彗星のごとく現れた若き才能

キミ・ライコネンというF1ドライバーがいる。1979年10月生まれの39歳。今や現役F1ドライバーの中で最年長の存在だ。

彼がF1でデビューを果たしたのは、2001年のこと。フィンランド出身であり、その甘いマスクでデビュー当初から人気を博した。ただその風貌以上に、当初はキャリア面で注目を集めたドライバーである。

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デビュー時の21歳という年齢は、今やそれほど珍しいモノではない。2019年のF1で首位争いを繰り広げるマックス・フェルスタッペン(レッドブル)やシャルル・ルクレール(フェラーリ)は、今21歳。フェルスタッペンに至っては、デビュー時の年齢は17歳である。

しかしライコネンがF1のシートを手にした時のキャリアは、フォーミュラ・ルノーで僅か23レースを走っただけという状態。F3も、F3000(現FIA F2)も経験することなく、一足飛びどころか二足飛びでF1シートを手にした。当時ザウバーのチーム代表を務めていた、ペーター・ザウバーの目に留まったのだ。

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当時のライコネンは、そんなキャリア面のこともあり、F1での戦いぶりを不安視する声もあった。明らかに経験不足であると。そのため、F1参戦に必須のスーパーライセンスも限定的な発給……。もし危険な事態があれば、すぐにでもF1参戦の許可が撤回される、そんな状況だったのだ。

しかし、ライコネンは最初から速かった。デビュー戦オーストラリアGPでいきなり6位入賞を果たすと、この年4回の入賞を記録。当時は今と違い、入賞は6位までだったため、この記録は驚くべきものだったと言えよう。事実、10位以内でのフィニッシュ回数は16戦中10回。しかも完走したレースはすべて10位以内だった。

トップチームに抜擢。そして勝利、王者へ

この活躍により、翌2002年には、ミカ・ハッキネンが抜けたトップチーム、マクラーレンのドライバーとして大抜擢。優勝こそなかったが、4回の表彰台登壇を果たしている。

2003年のマレーシアGPでは初優勝を挙げ、ランキング2位に躍進。2005年にはフェルナンド・アロンソ(ルノー)とのタイトル争いを繰り広げた。そして2007年にはフェラーリに移籍し、念願のF1ワールドチャンピオンに輝いた。

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ライコネンは速い。しかし思いのほか、ポールポジション獲得数はそれほど多くはない……。ただ、レースでのファステストラップ獲得数は非常に多く、先行逃げ切りというよりも、戦い抜いて勝つというようなイメージが強かった。

その一方で、自由奔放というイメージも、やはりライコネンの一面であったように思う。表彰台ではシャンパンファイトをするより先に、自分だけグイッと呑んでしまうほどのお酒好き。母国では一人で盃を傾け、カラオケをするシーンが報じられたこともあった。さらにはリタイアしてもピットには戻らず、モナコのハーバーに停泊していたクルーザーに直行し、そこで寛いでみたり。また、スタート直前のグリッドで、自分の荷物を踏んでしまったカメラマンを突き飛ばしてみたり……。エピソードは多数だ。
そんなキャラクターも相まって、男女問わず人気は年々高まっていった。

F1を退きラリーへ、そしてF1に復帰

しかしライコネンは、一時期F1の世界から離れる。WRC(世界ラリー選手権)に参戦したのだ。

F1参戦時には、感情をあまり顔に出さず、ICE MAN(アイスマン)とも評されたライコネンだったが、WRCでは笑顔を見せ、ファンとも親しく交流していた。

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なおWRC参戦中にはアメリカのNASCARへの出走など、他のカテゴリーのマシンに様々乗っている。マシンをドライブすることを目一杯楽しむ、そんな新しいライコネンが垣間見えた。

そんなライコネンは2012年にF1に帰ってきた。所属チームはロータス。円熟味を増したライコネンは速く、そして安定していた。結果、この年は決勝全レースで完走。第18戦アブダビGPでは、復帰後初の勝利も手にし、ランキング3位となった。翌年もチームに残留し、開幕戦でいきなり優勝。表彰台の常連として活躍した。

この頃から、ライコネンの“無線交信”が度々話題になるようになった。2012年に勝利を収めたアブダビGPでの「ほっといてくれ。やっていることはわかってる」というフレーズはあまりにも有名。このフレーズがプリントされたTシャツが、チームの公式グッズとして発売されたりもした。

息子の誕生が、ライコネンを変えた?

ロータスでの2年間の実績が買われ、ライコネンは2014年からフェラーリに復帰する。しかし、なかなか思うような結果は出せなかった。

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復帰初年度の2014年、ライコネンは未勝利に終わったばかりか、表彰台もゼロ……。結局ランキング12位と、デビュー以来最悪の1年となってしまった。その後もなかなか勝てない年が続いたが、ある変化も見て取れた。

ライコネンは2015年についにパパになったのだ。その前年から、目に見えて子供に対して優しい表情を見せるようになった。それまでは、ある意味冷徹なイメージもあったライコネン。しかしその頃には、パドックで子供達が駆け寄ると、腰を屈め、トレードマークとも言えるサングラスを取って、写真撮影に応じたりもしていた。親になることはこれほどまでに人を変えるのか。そのシーンを目撃した際、隣にいたカメラマンと目を見合わせ、驚いたことをよく覚えている。

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ただレースの方はなかなかうまくいかず、2015年も2016年も、そして2017年も勝利を手にすることはできなかった。勝機があったとしても、チームメイトにそれを譲ることを強いられる、そんな露骨な“ナンバー2ドライバー”扱いをされたりもした。

勝てぬままF1を去ってしまうことになるのか……。多くの人がそう思ったが、2018年のアメリカGPで優勝。実に5年半ぶりの勝利の美酒を味わうことになった。

しかしフェラーリは、この年限りでライコネンとの契約を解除。後に新進気鋭のシャルル・ルクレールを、セバスチャン・ベッテルのチームメイトとして起用することを発表した。

円熟味を増したライコネン。新生アルファ ロメオと新たな船出

フェラーリを離れたライコネンが移籍先として選んだのは、自身がデビューした時のチーム、ザウバーだった。ザウバーはフェラーリとの関係性を強め、体制を一新。2019年シーズンからは『アルファ ロメオ・レーシング』として再始動することになった。チームを“牽引する”ための非常に貴重なカード、ライコネンと共に。

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そのライコネンは2019年シーズン、非常に堅実な働きを見せている。リタイアも少なく、ベルギーGPまでの時点で31ポイントを獲得。チームの大部分のポイントを稼いでいる。

しかしシャカリキになって戦っている様子は、ライコネンからはあまり感じられない。あくまで自然体。自身も「F1を趣味で楽しんでいる」と公言するほどだ。しかし、F1はモータースポーツ最高峰のカテゴリーであり、世界中の猛者が血眼になって目指しても、シートを手にできないことの方が多い。それを“趣味”と言って許されるのは、今やライコネンくらいではないだろうか? しかも、アルファ ロメオ・レーシングの柱とも言える存在。チームからの信頼も厚く、レースに集中できる。そんな状況は、ライコネンにとっては願ってもない好環境なのであろう。

F1を満喫するライコネン。これが本来のライコネンだった。チームはまだ、勝てる体制を作り上げている段階。トップ3チームには、正直差を開けられている。それにも関わらず、ライコネンはこれまで以上に躍動しているように見える。

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ライコネンは間違いなく速い。歳を重ねたこと、そして自由に戦える環境が与えられたことにより、本来ならば過酷なはずの環境を楽しんでいる。そんないくつかの要素が混ざり合って、今のライコネンを醸成している。ここ最近、彼のようなF1ドライバーは、なかなかいなかった。そしてその存在が、アルファ ロメオ・レーシングのチーム力を引き上げる、大きな要因となるはずだ。

あと何年、ライコネンのドライビングを楽しむことができるのか……。今、その姿、その走り、その笑顔を目に焼き付けておきたい。

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INFORMATION
アルファ ロメオ レーシング

URL https://www.alfaromeo-jp.com/formula1/

Text:田中健一(motorsport.com日本版)

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