Passionista 2019.11.13

躍動感と楽しさ溢れる場所、アルファ ロメオ・ミュージアムへのいざない

自動車雑誌「NAVI」の編集者、カーグラフィックTVのキャスターを経て1990年、トリノに渡り、現在は自動車雑誌を中心に作家やコラムニストとして活躍する松本葉氏による、ミュージアムレポートをお届け。これまであまり紹介されていないミュージアムの「枠組み」と「定期イベント」について詳しく解説する。

昨今のイタリアではミュージアムがちょっとしたブームだ。公共のものについては国が月1回の無料公開日をもうけた点も集客を伸ばした要因ながら、なにより複雑化する現代社会にあって歴史を振り返ることで進むべき道を見出したい、国民のこんな思いがブームの火付け役になったと分析されている。多くの博物館が文化遺産陳列場所という堅苦しいイメージを払拭するようなリニューアルを施し、より身近で楽しい場所に姿を変えたこともブームを後押しした。歴史のなかの出来事を“点”と位置付けるのではなく、今に続く“線”と見ることで、線の先にある“未来”を探そう、そんな気運が、ミュージアム自身にも国民の間にも高まっているのだ。

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自動車ミュージアムの括りでみると、“(点ではなく)繋がった線”、この考え方を明確に示しているのが、他でもないアルファ ロメオ・ミュージアムだ。タイムライン、ビューティ、スピードという展示方法にもそれが見て取れる。この永久展示については自動車ジャーナリストの塩見智氏が詳しく綴られているのでそちらをお読みいただくとして、今回はミュージアムの“枠組み”と“定期イベント”を紹介したいと思う。この2つも、同ミュージアムを語る上で欠かせないこと。チャームポイントである。

点から線へ

まず“枠組み”。アルファ ロメオのキャッチフレーズをご存知だろうか。イタリア語では「ラ・メッカニカ・デレ・エモツィオーニ」(感情の力学)。ミュージアムのキャッチは「ラ・マッキナ・デル・テンポ」(タイムマシン)。内容/意味もさることながら、双方とも単語並びと音の響きを揃えたところが素敵だ。

ミュージアムのロゴマークを目にする機会があったらぜひ、伝統のエンブレムの下に入る小さな赤い線に注目して欲しい。一見、波を想わせるカタチだが、これはMの文字をデザインしたもので、マッキナ(クルマ)、ムゼオ(ミュージアム)、モトーレ(エンジン)の3つのMを象徴する。細かなところにも手をかけているところは、エンブレム、シンボルのクアドリフォリオ同様、アルファ ロメオならでは。

もともとここは1976年に開館、2011年に老朽化と見直しを目的にいったんクローズされ、2015年に再オープンとなった。建物はリフォームではなく新築、指揮を取ったのは、トリノを拠点とする著名な建築家、B.カメラーナである。

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コンセプトはミュージアムの域を超えたアルファ ロメオの“ブランドセンター”とすること。実際、敷地内にはディーラーのショールームも完備された。百年前に設計された自動車と『GIULIA(ジュリア)』や『STELVIO(ステルヴィオ)』はまさに一本の線で繋がっているのだ。
敷地内の動線にも“歴史を線と捉える”という考え方との共通性をかんじる。高速道路から見えるよう配慮された大きなオブジェ、エントランスに導く赤い通路、お土産ショップに隣接されたチケット売り場、3フロアの展示場、途中のカフェや映画試写室から隣接する展示車両テストコースまで、すべての階は綺麗に繋がっている。基調となるカラーはロッソ、見事だ。
建築家自ら語っている通り、このミュージアムは広々、明るいところも特徴で、この“広々”を大切にしたのはイベント開催を見越してのことだった。

年1回の楽しみ

前述の通り、アルファ ロメオ・ミュージアムがオープンしたのは1976年12月。この“オープン”にちなんで(ひっかけて)、毎年メモリアルデーには『オープン・ボンネット』というイベントが開催される。2019年からは年末渋滞に配慮して、12月ではなく9月に前倒し、大盛況だった。

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アルファ ロメオは創業当時から多くの優れたエンジニアを輩出した。歴史にその名を刻むエンジニアをこれだけ多く輩出した自動車メーカーは世界のどこを見渡しても存在しない。ジュゼッペ・メロージヴィットリオ・ヤーノを筆頭に“天才”と呼ぶに相応しい人々ばかり。「彼らが生み出したエンジンを見てください」。これがボンネット・オープン・デーの主旨というわけだ。

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イベントではすべての展示車両のボンネットが開かれ、加えてスペシャル版も用意される。たとえば初回は88年に製作されたアルファ ロメオ『164 ProCar』。3.5ℓV10エンジンとカーボンファイバー・シャシーが3分割で公開された。この車両は普通の状態でも目にする機会の稀なプロトタイプだ。人気が集まったのも頷ける。

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▲写真右:『164 ProCar』

月1回の面白さ

もうひとつ、毎月1回、日曜日に開催されるイベントも紹介しておきたい。その名を『バックステージ』という。毎回、珍しいアルファ ロメオ車両を公開、ああ、こんなクルマもあったのかと感心するものが目白押しである。

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たとえばヴァチカン市国ローマ法皇に寄贈された防御ガラス付き車両、ニューヨーク・タクシー、パトカーなど。いずれも展示のみならず車両の誕生秘話も語られる。そういえばかつてイタリアにはこんな笑い話があった。
「この国では泥棒は捕まらない。なぜなら泥棒もアルファ ロメオに乗っているから」

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パトカーにスピードの代名詞、アルファ ロメオが導入されたとき、これで泥棒も難なく追走できると国民を喜ばせた。でも、もし泥棒も警察に対抗してアルファ ロメオを足にしたらどうなるか? こんな(素朴な)疑問から生まれたジョークだ。
イベント初年となる今年の『バックステージ』には“クルマ以外のもの”も展示された。同社が製作した一般家庭用オーブン。
アルファ ロメオと言えば真紅のマシンを想うが、戦時中、同社は実にさまざまなものを製作している。戦闘機エンジンから窓枠やオーブンといった自動車とは無縁の日常品も作っていたのだ。
「アルファ ロメオの技術力をもってすればハエの手袋だって作ることができる」、こんな名言を残したのは、かのエンツォ・フェラーリ。ハエの手袋とは言い得て妙、大小を問わずあらゆるものを作るだけの技術力を携えた会社という意味だ。オーブンは現在ではコレクターズ・アイテムになっている。

アルファ ロメオ・ミュージアムへのアクセス

アルファ ロメオ・ミュージアムはダイナミズムとアミューズメント性あふれる場所。まさに同社の生み出すマシンそのものということになる。

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同館へのアクセスはクルマのみならず、ミラノ中央駅から地下鉄(M1)でRHO Fieramilanoまで行き、591番のバスに乗り変えればミュージアム入り口に50分ほどで到着。注意点はバスの切符を往復で買っておくこと、561番バスは2路線あるのでミュージアムを通るか乗車前に確認すること、この2点。ミラノに出かける機会があったら、ぜひ見学をお勧めする。カフェもグッズ・ショップも充実している。これもまた楽しい場所たる所以である。

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PROFILE

松本 葉(まつもと・よう)

自動車雑誌「NAVI」の編集者、カーグラフィックTVのキャスターを経て1990年、トリノに渡り、その後2000年より南仏在住。自動車雑誌を中心に執筆を続ける。著書に、「愛しのティーナ」(新潮社)、「踊るイタリア語 喋るイタリア人」(NHK出版)、「どこにいたってフツウの生活」(二玄社)、「私のトリノ物語」(カーグラフィック社)ほか、「フェラーリエンサイクロペディア」(二玄社)など翻訳を行う。

Text:松本葉
Photos:Museo Storico Alfa Romeo

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