Passionista 2019.09.12

モータージャーナリスト・塩見 智氏によるイタリア・ミラノのアルファ ロメオ歴史博物館探訪レポート

モータージャーナリスト・塩見 智氏がイタリア・ミラノ郊外にあるアルファ ロメオ歴史博物館を探訪!修復を終えて2015年にリニューアルオープンした館内では、歴代の名車が展示されアルファ ロメオを存分に堪能できる。

自動車ジャーナリストとして日々さまざまなニューモデルに接し、公正に評価を下していることについては一点の曇りもないが、この仕事に就く前にはいちクルマ好きだったわけで、他の多くのクルマ好き同様、好きな自動車ブランド(とそうでもないブランド)がある。それがどのブランドかを声高らかに宣言することが業務上プラスなのかマイナスなのかわからない。多分マイナスなのではないかという気がするが、なぜだか無性に発表したくなった。それは何を隠そうアルファ ロメオだ。他にもあるけれど(←なんとなくの保険!?)。

だから2000年代のはじめ、30代になったばかりの頃、念願かなって『アルファ ロメオ147 2.0ツインスパーク』を手に入れた時には有頂天だった。ファイアブラックという黒に近いブラウンのボディカラーとタンのレザーインテリアのコンビネーションが最高だった。乗り込む度に漂ったアルファ独特の室内の香りを今でも鮮明に思い出すことができる。ツインスパークエンジンの軽やかな吹け上がりやクイックなハンドリングも記憶として脳内に刻み込まれている。

147を買ったのは、地方紙の新聞記者から自動車雑誌の編集者へと転職したばかりの頃だった。田舎の市役所や警察署を行ったり来たりしていた日々から、都心の編集部を拠点に毎日きらびやかなクルマに触れることが仕事となり、楽しくて仕方なかった。ただでさえ東京の街中には出たばかりの新車や田舎では見かけるべくもない貴重なクルマが走っている。日ごとに自分の目が肥えていくのがわかった。

転職から1年ほどたったある時、クルマに関して少々のことでは驚かなくなったと自覚していた僕の脳みそを一瞬で沸騰させるような衝撃が走った。美しい147が登場したのだ。2000年の『トリノモーターショー』でデビューしたのは情報として知っていたが、日本導入を果たし、初めて実車を目にした時、あまりの美しさに試乗もせずすぐさま注文した。当時乗っていたクルマはまだ新しかったが、後先考えずに契約した。

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▲アルファ ロメオ147 2.0ツインスパーク

以来7年間、147を日々の足に使った。仕事で毎日のようにもっと高価な、高性能なクルマに触れたが、147との蜜月は続いた。ワルター・デ・シルヴァが手掛けたスタイリングはどの角度から見ても文句のつけようがなく大いに気に入っていたが、特にフロントマスクが好きだった。何かの書籍であのフロントマスクは1949年に登場した6C2500ヴィラ・デステに由来するという一文を見つけた。それがデ・シルヴァも認める公式見解と書いてあったのか単に書き手の意見だったのかは忘れたが、確かに離れた目(ヘッドランプ)と、水平のフロントバンパーがおなじみの盾グリルによって分断されているあたり、相関があるように思わせた。

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▲6C2500ヴィラ・デステ(Photo:Satoshi SHIOMI)

6C2500とは、第二次世界大戦前に開発されていたモデルで、戦後、復興を目指すイタリア国内の複数のカロッツェリアがこのモデルにさまざまなデザインのボディを載せた。ヴィラ・デステはトゥーリングというカロッツェリアの手になる作品だ。

一度でいいからこの6C2500ヴィラ・デステを実際に見てみたい。これが147ユーザーだった頃からの願望だった。当然、何台も残っているクルマではない。確実に見るにはイタリアのアルファ ロメオ歴史博物館を訪れるしかない。そう願いつつ、何度も欧州を訪れる機会がありながらなかなか実現できないでいた。

今夏、ようやくその機会がやってきた! 憧れること約18年。とうとう博物館を訪れ、その姿を拝むことができることになったのだ。8月上旬、ミラノ市街からクルマでアウトストラーダ8号線を走ること約40分。道路沿いに博物館が見えてきた。2006年までアルファ ロメオの工場だった敷地の一角に1976年に設立された博物館の正式名称は『Museo Storico Alfa Romeo(アルファ ロメオ歴史博物館)』。パンフレットなどには正式名称の上に必ず「La Macchina Del Tempo(タイムマシン)」と書いてある。アルファ ロメオの過去、現在、未来を自由に行き来できるというわけだ。

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▲Photo:Satoshi SHIOMI

歴代の主要なアルファ ロメオが時系列に展示される。そのため1949年デビューの6C2500ヴィラ・デステはすぐには出てこない。アルファ ロメオの歴史は長いのだ。来場者が最初に目にするのは1910年製の24HPトルペードだ。ガス灯のヘッドランプや木製のホイールが装着されている。フロントグリルに「Alfa」とある。「Alfa Romeo」ではない。アルファが実業家のニコラ・ロメオに買収されてアルファ ロメオとなるのは、このクルマが出て7年後の1918年のことだ。

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▲24HPトルペード

15HP(1911)、RLスーパースポーツ(1925)、6C1750グランスポーツ(1931)……と戦前に超高級スポーツカーとして名を馳せたモデルが並ぶ。あるところで突如フロントフェンダーがボディに吸収された現代のクルマと同じスタイリングをもつセダンの1900(1950)が現れる。同社が戦後に開発した最初の市販車だ。その隣に小型セダンのジュリエッタ(1955)、2ドアクーペの2600スプリント(1962)などが続く。それ以降も敷地をぐるり一周しながらスロープを降りるかたちで時系列にクルマが並ぶ。この日展示されていた最も新しいモデルは、8Cコンペティツィオーネ(2007)だった。

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▲左:A.L.F.A 15HP 右:RLスーパースポーツ

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▲6C1750グランスポーツ

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▲1900

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▲左:ジュリエッタ 右:2600スプリント

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▲左:8Cコンペティツィオーネ 右:24HPトルペード

時系列ゾーンとは別に“美しさ”と“スピード”をテーマとしたゾーンもある。前者はコンセプトカーや少量生産のスペシャルモデルを集め、後者はレーシングカーを集めたゾーンだ。念願の6C2500ヴィラ・デステは「美しさ」のゾーンの端の方に展示されていた。ようやく見ることができた。過去に画像で見たモデルは黒が多かったので勝手に黒いボディカラーだと想像していたが、この日展示されていたのはシャンパンゴールドに塗装された個体だった。147を想起できないわけではないが、もっとずっと優雅で、複雑な造形をしていた。ロングノーズ、ショートデッキの伸びやかなスタイリングは美しく、いつまででも見ていられた。念願がかなった。

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▲6C2500ヴィラ・デステ 

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▲Photo:Satoshi SHIOMI

ちなみにこのクルマをはじめいくつかのモデルにのみ、珍しいエンブレムが装着されていることに気づいた。ミラノ市の市章である十字とヴィスコンティ家の家紋である蛇の組み合わせはおなじみのデザインだが、赤地にゴールドという色使い。これは1945年から数年間のみ使われたエンブレムで、戦後、超高級車メーカーから実用車メーカーとして出直すアルファ ロメオを象徴した簡素なエンブレムなのだという。

「美しさ」のゾーンで最も目立っていたのは、戦後アルファ ロメオのエポックメイキングとしてあまりに有名なイグアナ、カラボ、33/2スペチアーレという、いずれもティーポ33をベースに当代きってのデザイナー3人が競作したモデルたちだ。ジウジアーロ(イタルデザイン)のイグアナ、ガンディーニ(ベルトーネ)のカラボ、そしてフィオラヴァンティ(ピニンファリーナ)の33/2スペチアーレ。3人とも数々の名作を生み出した説明不要のデザイナーだが、ここに集められた3台はどれも彼ら“らしさ”全開のモデルばかりだ。一カ所で同時に見られるのが信じられない。

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▲イグアナ

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▲カラボ

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▲33/2スペチアーレ

最後に出てくる“スピード”ゾーンには、1930年代のグランプリマシンやF1が始まった50年と翌51年に大暴れした158、159、それに60年代以降のツーリングカーなど、これまたここだけで1日過ごせそうな名車が並んでいるのだが、これについてはまた別の機会にご報告したい。

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博物館を出た後、駐車場に用意されたステルヴィオをあらためてじっくりと眺めた。100年をゆうに超えるアルファ ロメオの歴史をそれこそタイムマシンに乗って駆け抜けるように見て、おなじみの盾グリルや肉感的なシルエットが、長年にわたって脈々と受け継がれてきたモチーフや造形であると知った上で眺める最新のアルファ ロメオは、それまでとは違い、なにかこうありがたみが増す。同社初のSUVであることが話題の『Alfa Romeo STELVIO(アルファ ロメオ ステルヴィオ)』だが、SUVである前にまぎれもなくアルファ ロメオなのだとスタイリング全体が主張してくる。しばらく眺めた後、仲間と乗り込み、その名の由来となったステルヴィオ峠を目指した。

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PROFILE

塩見 智(しおみ・さとし)

1972年岡山県生まれ。地方新聞社、ベストカー編集部、NAVI編集部を経て、フリーランスのエディターおよびライターへ。自動車専門誌、ウェブサイトなど、さまざまなメディアへ寄稿中。

Text:塩見 智

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