People 2021.05.10

アルファ ロメオが支援するアルペンスキー湯淺直樹選手、全日本スキー選手権大会6回目の優勝

2021年3月、北海道にある国設阿寒湖畔スキー場で行われた全日本スキー選手権大会(アルペン技術系)で、アルファ ロメオが2019年からサポートを行なっている湯淺直樹選手がスラローム優勝、前年の6位からの雪辱を果たした。自身6回目の全日本スキー選手権大会優勝の感想やコロナ禍のシーズンの調整について話を聞いた。

自分にとって“価値のある一戦”だった

R5ST6164 アルファ ロメオが支援するアルペンスキー湯淺直樹選手、全日本スキー選手権大会6回目の優勝

昨シーズンの6位から復活とも言える全日本スキー選手権大会(以下:全日本選手権)優勝、自身6回目となる“日本一”の称号は彼にとってどんな意味があったのだろうか。

「自分の思いが形になっていないシーズンでしたが、その中での全日本選手権優勝は、涙して喜んでくれるスタッフさんがいたり、 スポンサーさんからも“おめでとう”と連絡が来たり、周囲の人たちの思いも改めて感じることができて、私の中では価値のある一戦だったことは間違いないです」

2019年1月のスイス・ウェンゲン以来、W杯から遠ざかっているものの、“主戦場”はあくまでも欧州W杯に置く湯淺直樹選手。今回は全日本選手権優勝の価値を再確認したようだ。

「さあ、ここからだみたいな。弾みになったというか、ファーイーストカップという大きなシリーズ戦を目の前にして、一つの勢いというか、 よし、行くぞという気になったので、重要な大会でした」

「以前よりも、応援していただいている企業の会長さん、社長さんと実際に顔を合わせてお話をさせていただく機会が増え、様々なアドバイスをいただいていて、皆さんのお気持ちを直に感じることができています。そのお気持ち一つ一つが確実に私のモチベーションになっています」

コロナ禍に苦しめられたシーズン

2020-21シーズンは昨年に引き続きコロナ禍の影響を受けたシーズンだった。そんな中、練習は十分に積めたと言えるのだろうか。

R5ST4764 アルファ ロメオが支援するアルペンスキー湯淺直樹選手、全日本スキー選手権大会6回目の優勝

「今シーズンはコロナ禍のシーズンで数えると2シーズン目になるので、欧州各国の対応も固まってきていて、我々の動きも先シーズンよりは遥かにスムーズにいきましたが、それでも、夏はニュージーランドに行くこともできませんでしたし、 コロナに苦しめられたシーズンでもありました」

「でも、練習量を頑張って稼いでいくような年齢じゃないので、そこはクオリティーでカバーしようということで、一緒にヘンリック・クリストッファーセン(2020年SL種目別王者/ノルウェー)とやらせてもらったりとか、アレクサンダー・ホロシロフ(ロシア)やデイブ・ライディング(イギリス)、エリック・リード(カナダ)などのトップ選手と一緒に練習させてもらったりして、クオリティーとしては申し分ないトレーニングをしてきました」

しかし、ヨーロッパのロックダウンの影響をもろに受けたこともあった。

「スーパーなども全部閉まってしまい、食糧の買い溜めができずに、2日間、パンとチーズ、水とワインで過ごしたこともありました」

また、欧州の雪上だけでなく、シーズンオフの日本でもコロナ禍の影響はあった。

R5ST4775 アルファ ロメオが支援するアルペンスキー湯淺直樹選手、全日本スキー選手権大会6回目の優勝

「コロナの影響で、軒並みトレーニングジムなどが クローズになっちゃったんですね。それで、そのときにウエイト器具を買いだめしまして、それを家の中でやっています」

メディシンボール、ウエイト、シャフトだけでなく、「オールアウトすることもあるので」防音マットも購入した。

「新しい家、決して広くないんですよ。でも、田舎で庭がそこそこあるので、天気がいい日は外でできるという利点があります」。

一人での陸上トレーニングは常に自分との戦い。そこに妥協は許されない。

「そうですね。でもそれももう、ずっとやってきていますので今更問題ないですね」

湯淺直樹選手は2020年に名古屋近郊から長野県の東信に転居した。心境の変化を問われた際の最初の一言は「落ち着く」だった。

「標高も高いので、寒いくらいに涼しいですし、空気も澄んでいる、水も美味しい。もともと札幌近郊に住んでいた私としては北海道に(環境が)近くていいかなと。加えて東京都スキー連盟所属の選手なので、東京にも近くて、地元札幌より動きやすいというのもあります。家から雪の降る山が見えるというのは自分の“故郷感”があるので、気分的に落ち着きますね」

左膝に人工関節を入れる決断

2019-20シーズン初め、湯淺直樹選手は長年苦しめられてきた左膝の痛みに限界を感じ、人工関節を入れる手術を行った。ひどい時には、膝を動かすたびに骨と骨がギシギシと削り合うかのような状態だった。

「本当にもう歩くのも億劫でしたね。じっとしていたら痛くないですよ。ただ歩いたりすると痛い」

SHIN2426 アルファ ロメオが支援するアルペンスキー湯淺直樹選手、全日本スキー選手権大会6回目の優勝
▲2019-20 アルペンスキーW杯(スイス・ウェンゲン)にて

「手術して、その当日に歩けたんですよ、全然。でも、他人の膝ですよね。左膝、誰これ?みたいで。そこそこ膝に力は入るんですけども、何かもう、 誰かの膝を取ってつけたみたいな、いうことをきかないっていうか」

手術後一ヶ月半で出場した前回の2019年12月の全日本選手権は6位に終わった。

「ただ、お医者さんにも言われたんですけども、それはもう時間が解決してくれることなので大丈夫だよって話はしていただいて、実際に本当に時間が解決してくれています」。

痛みがあった状態で何とかギリギリで滑るのと、人工関節を入れた今の状態とでは、パフォーマンスや気持ちの面でどのような変化があったのか。

「もう格段に違いますね。今までは毎朝、(飲み薬の)ボルタレンが効き始めるまで、とにかくため息が出るほどの痛みと格闘しなきゃいけない。ボルタレンが効き始めてからも痛いけれどもなんとか滑れるようにはなるっていうのが以前の状態だったんですけども、今は朝から、“はい、滑ってください”って言われたら滑れますし。そこに対しての怖さっていうのが今のところないので、もう180度変わったと言ってもいいくらいです」

「人工関節を入れた膝もだんだん自分のものになってきました。以前の自分(の膝)に戻ったというよりは新しい自分になったという感じです。当初は可動域も狭く機械的な動きになりがちでしたが、昨年の12月あたりからだいぶマイルドに動けるようになってきました。今後もさらに膝の状態は良くなっていくと自分では感じています」

視線は常に世界の頂点を見据えている

2018-19シーズンから『ATOMIC(アトミック)』を履いているが、以前と比べて滑りのモデルチェンジはあったのか。

「そうですね、スキーをもう少しダイナミックに振っていく滑りをしてもいいのかなと思っています。(以前の)『HART(ハート)』のときはフルカービングで滑るようなイメージだったんですけれども。アトミックはそれをしなくてもいい」。

「ポールからポールに直線的にタイトめに行きつつも、割と前半スキーをダイナミックに振って、要はマヌエル・フェラーみたいに前半にバーンと振っちゃって、そのあとは“ズドン”とまっすぐ縦に乗ってくる(直線的なラインどりをする)っていうのが、アトミックの滑りなのかなって思って、それをマネするっていうか盗むというか。自分でもそういうものを引き出しとして備えたいと、私にも植え付けたいと思っています」

1D3T4622 アルファ ロメオが支援するアルペンスキー湯淺直樹選手、全日本スキー選手権大会6回目の優勝

現在の相棒であるアトミックのスキーを履く前は、電車のレールのような2本の線でカービングしていく滑りを追求していた湯淺直樹選手、現在はそれとは真逆とも言える、ターン前半に大きくスキーを振って方向を変える滑りも取り入れ、自分のものにしつつある。

「振っている選手とフルカービングの選手、結構時代によって偏っていて。一昨年あたりは振っていく選手がちょっと速かったんですよね。どっちがいいっていうのではなくて、どっちも速くて、どっちもいいんだけども、単にどっちが最高スピード出せるかと言ったら絶対フルカービングの方が出せるので、両方うまくミックスできるのが理想です」

2月のイタリア・コルティナでの世界選手権では若手の加藤聖五選手の活躍、W杯では小山陽平選手の健闘も顕著なシーズンだった。

「彼らは優秀な選手たちですし、これから日本を背負っていく選手なんですけれども、そこと戦っていちゃダメだっていう気持ちも私の中にあって。2018年までは、マヌエル・フェラーやマルコ・シュワルツなどと戦ってたので、やっぱり目線としては世界のトップはどうしても外せないわけです。アルペンレーサーである限りは、やはりそこを見ていくし、見ているし、そこをずっと見てきたし。世界のトップを獲ることにフォーカスしてきたっていうのが私の唯一の武器というか、いつも目線をずらさなかったっていうことは言えますね」

視線の先に常に世界の頂点を見据えている湯淺直樹選手、2021-22シーズンのW杯復帰に向けての準備はもうすでに始まっている。

Text&Photos:田中慎一郎

POPULAR