Vision 2018.11.08

食の未来を見据えるシェフ、Florilége 川手寛康が一皿に込める思い

「サスティナビリティー 牛」「贈り物 アマゾンカカオ」テーマと食材の名前が並ぶ、青山のフレンチレストランFlorilége(フロリレージュ)の風変わりなメニュー。ここはシェフ川手寛康氏が食の持続可能性を追求する実践の場でもある。アジアベストレストラン50、ミシュランでも高評価を得た、世界から注目される川手氏のビジョンに迫る。

青山のレストランFlorilége(フロリレージュ)川手寛康氏。東京の美食家で彼の名を知らない者はいないだろう。2018年版アジアベストレストラン50で、第3位に輝いたのは記憶に新しい。2016、17年度版のミシュランガイド東京で1つ星を獲得。2018年度版では2つ星へと昇格した。プロ料理人も注目する料理人だ。また川手氏は料理を通して、フードロスサスティナビリティーといった、昨今の食に関するさまざまな問題に対する意識提起にも積極的に取り組んでいる。いまや日本だけでなく、世界が注目するシェフとなった川手氏のもとを訪ね、その活動の原動力、そして彼が見据える未来について聞いた。

生産者の思いを伝える“川手劇場”

ウェブ上で“川手寛康”という名前を検索すると、いくつもの記事が出てくる。それだけ注目されている存在、ということだ。そんなわけで、川手氏が料理を始めたきっかけはすでにさまざまな記事で紹介されている。洋食のシェフだった父の影響が大きかったそうだ。

「両親も兄弟も親戚も料理人という家で育ちました。ほかのことをやろうと思ったこともないし、やめようと思ったこともありません。でもどのジャンルの料理人になるかは迷いましたね。いろいろ考えた結果、一生をかける料理として選んだのがフレンチでした。ただ最近は和食もイタリアンもいいな、なんて考えるようになりました(笑)。そもそも料理を作るということに関してはそのジャンルもそう違わないかな、とも思っています」

181108_mondo_florilege_2 食の未来を見据えるシェフ、Florilége 川手寛康が一皿に込める思い

調理学科がある高校に通い、卒業後、Q.E.D. CLUB(キュー イー ディー クラブ)、OHARA ET CIE(オオハラ エ シー アイ イー)、Le Bourguignon(ル ブルギニオン)を経て、26歳のときに渡仏。帰国後、Quintessence(カンテサンス)のスーシェフを経て、2009年に自らの店フロリレージュを開店。2015年に神宮前に移転オープンする。移転に際し、川手氏は中央にオープンキッチンを据え、そのキッチンを取り囲むように16人掛けのコの字型のカウンター席を誂えた。ゲストは、料理人が調理する姿を見ながら料理を楽しむことができる。

181108_mondo_florilege_3 食の未来を見据えるシェフ、Florilége 川手寛康が一皿に込める思い

「生産者さんの思いを伝えるには、この規模、このスタイルがいいと考えました」

メニューは昼夜とも“おまかせ”のみ。テーブルの上に置かれているその日のメニューには、テーマと食材、あるいは食材のみが書かれている。「分かち合う 塊肉」「贈り物 アマゾンカカオ」「帆立 フロマージュブラン」といった具合だ。調理法は書かれていない。それがいったいどんな料理が出てくるのだろうかと、イマジネーションを刺激する。たとえば、「投影 さつま芋」は、さつまいものピュレを紫芋で作った皮で包む、秋から冬にかけて供されるアミューズだ。料理はほうじ茶の葉に隠れていて、“芋拾い”を疑似体験できるプレゼンテーションになっている。

181108_mondo_florilege_4 食の未来を見据えるシェフ、Florilége 川手寛康が一皿に込める思い「投影 さつま芋」

臨場感あふれるカウンターという舞台設定、日本の風土を感じさせる国産食材にこだわり、和の食材を積極的に取り入れたフレンチと脚本──。“川手劇場”とも評されるここを舞台に、川手氏は日々革新的な一皿を提供している。

価値のないものに価値を与えることで、持続可能性を高める

また、川手氏はいま地球全体が抱えている食の問題に対し、警鐘を鳴らしているシェフとしても知られている。彼のそんな思いを料理に昇華したのが、「サスティナビリティー 牛」である。“持続可能性”を意味する“サスティナビリティー(Sustainability)”は、昨今、環境関連のキーワードとして頻繁に目にするようになった言葉のひとつだ。

経産牛とはその文字が示すとおり、子どもを産んだ牛のこと。私たちが食している和牛は、そもそも子どもを産むという概念がなく、繁殖用の牛の肉は味が劣るとされ、加工品に使われることが多い。川手氏はその経産牛をあえて使う。

「私どもで使っている(経産牛の)年齢は毎回違いますが、だいたい12、13歳程度。7~8回、お産をしている牛が多いです」

川手氏のスペシャリテの一つ「サスティナビリティー 牛」は、この先の未来もずっと食べられるように──、そんな思いが込められた、経産牛の赤身を使ったカルパッチョだ。

181108_mondo_florilege_5 食の未来を見据えるシェフ、Florilége 川手寛康が一皿に込める思い「サスティナビリティー 牛」

「経産牛は少し硬いので少し干してから調理しています。干した肉を、牛の端材でとったコンソメでしゃぶしゃぶのように広げています」

薄くスライスされた経産牛の赤身からはほんのりスモーク香が漂う。藁で燻製したじゃがいものピュレ、ビーツで色付けしたコンソメスープとの相性も抜群で、ねっとりとした甘みがあり、脂も熟成感があるのに軽やか。少し下世話な言い方だが、経産牛は艶やかな魅力を湛える大人の味わいだ。

その経産牛を使った料理が提供される際、初めてのゲストには、「私たち一人ひとりの食べ方、飲み方で地球は変わる!」と書かれたメッセージカードが配られる。

「食を通じ、社会貢献を少しでも意識してもらえれば」と話す川手氏だが、「でもね、経産牛はおいしいですから、サスティナブルに関して考える前にもともと使おうと思っていたんですよ(笑)。そもそもおいしくないと人を動かすことはできません」と明かす。

「価値のないものに価値を与えることが、サスティナブルにつながるのではないかと考えました。ただ、経産牛を出すことだけが、サスティナブルだとは考えていません。ただなんらかのメッセージを伝えることができ、僕たち消費者の選択肢が一つでも増えればいいなと思っています」

181108_mondo_florilege_6 食の未来を見据えるシェフ、Florilége 川手寛康が一皿に込める思い

料理人としての使命と野心

川手氏が食の問題について意識しはじめたのは、食の未来を考え、よりよい食環境を整えることを目的とした「いただきますプロジェクト」(2014年7月発足)に参加したのがきっかけだったという。

「僕が参加した当時はまだプロジェクトが発足する前でしたが、地方のシェフを中心に食に関するいろんな活動をされている方が集まり、みんなで旨いものを食べようという企画だったのですが、サスティナブルをテーマに活動している人が多く、彼らがとてもかっこよく思えて、僕もなにかできないかと思ったんです。また、海外で仕事をさせていただくなかでも、フードロスなど食にかかわる問題は、まず私たちレストラン関係者から問題を提議していくことが大切ではないかと考えていました」

181108_mondo_florilege_7 食の未来を見据えるシェフ、Florilége 川手寛康が一皿に込める思い

背筋が伸びるような思いがするが、「あまり深刻に考えすぎないほうがいいと思いますよ」と川手氏に気負いはない。

「僕たちのようなフレンチのお店は実はフードロスはあまりないんです。余ったものは賄いで使いますから。でも、大規模なお店ではどうしてもフードロスは生まれてしまいますし、ご家庭でもフードロスは出やすいかもしれません。でもいまの時代、全てを自給自足する仙人のような暮らしはなかなかできませんよね(笑)。意外に思われたりするのですが、僕もコンビニで買い物しますよ! フードロスの問題や『私たちは生き物の命をいただいて生きている』ということを意識しながら、気楽に、それぞれができることをやっていけばいいのだと思います。やらないよりはやるほうがいいですからね」

自宅でのフードロスをなくす方法を尋ねたところ、「物を買わなければいいんです」と即答した。「僕の家の冷蔵庫はほとんどものが入っていません。買いすぎてしまったら使い切ること。たとえば余った野菜はピクルスにしたりしてもいいのでは?」。フロリレージュで提供する料理に関しても、「メッセージ性の高い料理だけだと疲れてしまうんです(笑)。コースの流れを意識しながら、力を抜いたメニューも盛り込んでいます」と笑う。

「そもそも僕が料理人をやっているのは、僕の料理を食べたみなさんに幸せになってほしいから。それが僕がレストランを営んでいる最大の理由です」

181108_mondo_florilege_8 食の未来を見据えるシェフ、Florilége 川手寛康が一皿に込める思い「帆立 フロマージュブラン」

川手氏は“おいしさ”というレストランの本質を追求しながら、食に関する未来を、食を通して変えていく活動を標榜している。肩肘をはることなく、あくまでも自然体で。

フロリレージュは、ほかのどのレストランとも似ていない。世代へつながっていくメッセージを受け取りながら、とびきりおいしい“食体験”が楽しめる、そんなレストランだ。なお、今後の新たな展開として、台湾への出店が決まっている。「シェフを務めるのは、僕のところで3年間スーシェフとして働いていた人物です」。

海外で成功することで日本人の料理人の発言力を高めたいんです、と世界を見据えるその目は、フードロスやサスティナビリティーについて話していたときのやさしい視線とは異なり、野心を秘めた目をしていた。

181108_mondo_florilege_9 食の未来を見据えるシェフ、Florilége 川手寛康が一皿に込める思い

INFORMATION
Florilége(フロリレージュ)

住所 東京都渋谷区神宮前2−5−4SEIZAN外苑B1
TEL 03-6440-0878
営業時間 12:00〜13:30(L.O.)、18:30〜20:00(L.O.)
定休日 不定休
URL https://www.aoyama-florilege.jp/

 
181108_mondo_florilege_10 食の未来を見据えるシェフ、Florilége 川手寛康が一皿に込める思い

Text:長谷川 あや
Photos:安井宏充(Weekend.)

POPULAR