Vision 2019.07.04

おいしいとは、食べる人に幸せになってほしい気持ちのこと。徹底したホスピタリティで注目を集める『sio』 オーナーシェフ鳥羽周作

代々木上原で絶大な人気を誇るフレンチレストラン『sio』のオーナーシェフ、鳥羽周作氏。9月には丸の内に二号店『o.sio』のオープンさせる鳥羽氏に、料理業界にかける熱い思いや理想のレストランの本質について語っていただいた。

どんなことでも本質を徹底的に突き詰める

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▲「牛」

代々木上原駅の東口を右に出て約30m。上り坂の途中で謙虚な間口を構えるフレンチレストランsio(シオ)』は、2018年7月の創業直後から予約殺到の人気店だ。その理由をメディアは、およそこのように伝えている。
フレンチイタリアンの名店で修業したオーナーシェフによる、素材のエッセンスを見極めた美しい料理はもちろん、店のロゴは『くまもん』のデザインで知られるクリエイティブディレクターの水野学氏。店内BGMの選曲は国内トップDJの沖野修也氏。テーブルウェアはPRODUCT DESIGN CENTER代表の鈴木啓太氏が手掛けたものをそろえるなど、そうそうたるクリエイターとのコラボレーションによって独自のレストラン空間を展開。

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さらに、飲食業界の労働環境改善にも積極的に取り組み、常識にとらわれないスタッフの給与/勤務体系を構築しただけでなく、フード事業全般のプロデュースを行う別会社を設立。そんな大胆な戦略とともに独立を果たした鳥羽周作氏は、“料理業界に革命を起こす海賊シェフ”と呼ばれている――。

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▲鳥羽周作氏

「でも、こんな店で本当に大丈夫っすか?」
当人は取材前からそんなふうにとぼけてみせたが、その人柄もまた注目の的だ。さておき、開店から1年を経てもなお『sio』は予約が取り難い店として有名だが、それはすべて鳥羽氏の戦略的ブランディングが功を奏した結果である。
「どんなことでも本質を徹底的に突き詰める。気付いてしまったら放っておけない。それは僕の性分という他にないです」

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料理を天職にするなら必死で働くしかなかった

何はともあれ、オーナーシェフの人生自体が破天荒なのだ。飲食業を営む素養は料理人の父親から譲り受けたが、当人は小学4年生で始めたサッカーに夢中になり、大学卒業後も27歳までJリーグの練習生でい続けた。
「辞め時を決められなかったんですよね。しかもJリーガーのプレーを見ては“オレのほうが上手いのに”と愚痴っていました。そんな自分のダサさをある日痛感したんです。それと、当時すでに建築家として走っていた高校時代の親友にがっかりされたくなかったのも大きいです」

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そのあと小学校の教員になるが、生徒一人ひとりに向き合うことが許されないなど幾多の辛い現実に失望し、32歳で退職。すぐさま代官山のカフェで働き始めるが、来店した著名な料理人が自分の料理を口にするのが苦しくなり、本気で料理を学ぶための修業を決意する。
「そのとき、なぜJリーガーになれなかったのかがよくわかりました。プロになってどうしたいのか、そのゴールが見えていなかった。けれどコックスーツを着て働き続ける姿は明確にイメージできた。これならイケると、それは天から降ってきたような感覚でしたね」

そうして鳥羽氏は、“どうせなら超有名店で学ぶべき”と考え、求人募集などお構いなしで一流レストランのドアを叩いた。
まずは神楽坂のイタリアン『DIRITTO(ディリット)』で3年。次に青山のフレンチ『Florilege(フロリレージュ)』で2年。恵比寿のイタリアン『Aria di Tacubo(アーリア ディ タクボ)』(※現在は代官山に移転)では副料理長を2年務めた。この修業時代はかなり壮絶だったらしく、特に最初の数年は平均睡眠時間が2時間程度で、眠気覚ましに火が入ったグリルに腕を突っ込んだエピソードは方々のメディアで紹介されている。

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「32歳で始めた以上、クビになるのが怖かった。2軒目に入ったときには子供ができていたし、これを天職にするなら必死で働くしかなかったんです。当時はこう考えていました。1日24時間で3つの事柄を頭の中で回転させる。すると1日が72時間換算になるから、たった5年で15年分を学べると。そんな働き方、僕じゃなかったらとっくに死んでますけどね(笑)」

知ってほしいのは鳥羽ではなく、あくまでsio

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2016年、『sio』の前身に当たる『Gris(グリ)』のシェフに就任。料理人のキャリアとして一つの頂点に達したように見えるが、鳥羽氏はシェフになったことで見えた深刻な問題に直面する。一つは、原価率などの制約で自分が提供したい料理がつくれないこと。もう一つは、低賃金に代表される旧態依然とした労働環境の悪さだった。
「飲食業界を牽引してきた諸先輩を否定するつもりはありません。僕だってこの世界に育てられてきましたから。ただ、現状を維持したままでは明るい未来が描けないじゃないですか。だから自分が経営者になるしかないと思い、Grisを買い取って同じ場所に店を出しました」

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それが『sio』の出発点。コンセプトは冒頭で説明した通り。補足すると、クリエイターとのコラボレーションを進めたのは、異業種で活躍する人々との共創で新しい世界観を提示したかったから。そこには、飲食業界内に留まらない開けた場所での評価を得たいという鳥羽氏の意欲があったという。
広告宣伝に関してはSNSを最大限活用。言葉に込めた思いに共感してくれるファンを獲得するのが狙いで、鳥羽氏の描く世界観を理解してくれる人は自分たちのチャレンジも応援してくれると期待したそうだ。それから鳥羽氏自身が露出する取材も積極的に受けた。
「ただし、僕がメディアに出る目的は客寄せパンダ。知ってほしいのは、あくまでsioですから」

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▲「チヂミ」

僕らはチームで料理界のレアル・マドリードとなることを目指す

飲食業界に詳しい方なら驚異的事実ととらえてもらえるはずだが、オーナーシェフのレストランは、それが小規模ならなおさらオーナーシェフの個性を前面に打ち出すのが常だ。しかし鳥羽氏は、開店から1年足らずで料理の大半をスタッフに任せ、自身が店に立たない日すら設けたという。

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「アルファ ロメオは世界的なブランドですけれど、さすがに創業者が今も生きているわけじゃないですよね。それでもアルファ ロメオが存続するのは、そのイズムやフィロソフィを受け継ぐ人がいるからでしょう。この店も同じで、シェフがいなくてもsioのサービスが提供できればいい。“鳥羽の料理”なんて承認欲求が強いものは、会っていきなりプレゼントを渡すような男と同じで、ぜんぜん優しくない。我の強さは皿に出ますから。そうならないためには、夢を持った若いスタッフを育てること。そして可能な限り働いた分に見合った給料と休みと、平等なチャンスを与えること。僕らはチームで超一流に、たとえるなら料理界のレアル・マドリードとなることを目指しているのです」

DSC_1804 おいしいとは、食べる人に幸せになってほしい気持ちのこと。徹底したホスピタリティで注目を集める『sio』 オーナーシェフ鳥羽周作

そこがおそらく、鳥羽氏が徹底的に突き詰めると語った理想のレストランの本質なのだろう。では、鳥羽周作の本質とは何なのか?
「おいしさを生み出す料理人。それに関しては真摯に、徹底的にやっています」
さらにもう一問。おいしいとはどうことだろうか。
「自分の経験で得た感覚を全力で振り絞るものだから、食べる人に幸せになってほしい気持ちのことじゃないですかね」

DSC_1628 おいしいとは、食べる人に幸せになってほしい気持ちのこと。徹底したホスピタリティで注目を集める『sio』 オーナーシェフ鳥羽周作
▲「sio(アイス)」

こう言っては失礼だが、その言葉を聞いて安堵した。なぜなら、既知情報が伝えた鳥羽氏の横顔は、特異な経歴や経営観に偏りがちだったからだ。もちろんレストランだから味が命であるのは不問の前提条件なのだろうけれど。
「この1年、予想以上のスピードで初期目標地点に到達しました。確信的な展開には批判もありますが、自分の物差しを表明していくスタイルは今後も変えません。そう言えばこの前、手伝いに来てくれた親父が驚いていましたよ。お前の店がこんなに早く満席になるとは、ってね。まぁ、その通りでしょう(笑)。でも、まだまだ。新しい価値観をつくる使命感に燃えてますから。それに9月には丸の内ブリックスクエアに2号店の『o.sio』を出しますしね」
そういう重要なお知らせを取材終わりの立ち話で思い出すところも、破天荒な鳥羽氏の本質なのかもしれない。

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INFORMATION
sio

住所 東京都渋谷区上原1-35-3
TEL 03-6804-7607
定休日 水曜定休/不定休(ランチは土日祝日のみ)
URL http://sio-yoyogiuehara.com/

Text:田村 十七男
Photos:安井宏充(weekend.)

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